“鍵開け”レスキュー商法で 「980円が10万円に」高額請求の実態 ネット検索上位に“広告”表示

インターネット広告をイメージした写真

帰宅したら鍵がない。

そんな時に便利なのが出張訪問業者の鍵開けサービスだが、ネット上で安い価格を示し、作業後に高額請求をするトラブルが続発している。

「『すいません10万円で』と」「13万2000円。びっくりです」。実態を取材した。

深夜に外出先から自宅に戻り、いつも通り鍵を開けて家に入ろうとしますが、鍵が見つからない。

どこかに落としたのか、忘れてきたのか。

そんな時に頼りになる「出張鍵開けサービス」ですが、高額な支払いをめぐるトラブルが相次いでいるという。

「結果的に10万円払わざるを得なくなってしまいました」

「約13万円の高額請求。聞いてないしどういうこと事? ぼったくり?詐欺?」

これらは関東と関西、それぞれから日本テレビ報道局に寄せられた情報提供。

2件ともAという業者に鍵開けを依頼し、高額請求されたものだった。

京都府に住む1人暮らしの20代女性、山口さん(仮名)を訪ねた。

どういう状況だったのだろうか。

山口さん「少しでも安くおさえられるのなら、こちらの(業者)がいいのかと思って。でも今考えたら、変なことばかりで…」と山口さんは振り返る。

深夜0時過ぎ、自宅に戻りカバンの中を探すも鍵が見つからず、インターネットの検索で画面の上位に出てきたA社のコールセンターに電話をかけたという。

山口さん「コールセンターの方に、全部込み込みで3000~5000円ですかと聞いたら、『はいそうです』という答えだったので、いいかなぁと思って」

この金額で鍵を開けてくれるならと、山口さんは鍵開けを依頼。

午前1時半頃、若い男性作業員がやってきた。

山口さんによると、A社作業員に提示された金額は、器具を差し込んで開けられれば3000円~5000円。

鍵穴を破壊し、交換すれば1万円~2万円で、家の鍵は特殊な構造ではない一般的な鍵だ。

器具を差し込んで開けてもらうように依頼した。

山口さん「(器具を差し込む)作業が終わった後、やっぱり無理でしたという感じで。『ドアノブ(の鍵穴を)切る必要がありますね』と。ぼったくりかどうか不安になりだして…」

ただ、その時点で午前2時。

山口さんは「作業費全部含めて合計2万円以内で収まりますかという質問にも、『2万円以内で収まります』と(答えました)」と言う。

午前3時頃、作業は終了した。

山口さん「全部の作業が終わった後に、『あなたの家の鍵は特殊な鍵でした。開けてみないとわからなかったのです』と言われて。『すみません10万円で』と」

「やられたと思ったんですけど、夜中の3時に男性2人で、この2人に言い返せないと思って、泣く泣くクレジットカードで支払った。

家に入れた安堵(あんど)感もありましたし、早く終わらせたいという気持ちもあって、泣く泣くです」

払わざるを得ない状況に追い込まれたという。

同じA社に鍵開けを依頼した関西在住の北原さん(仮名)は、「電話した時には8000円でいけると言われたのに、13万2000円。びっくりです。本当に悪徳ですね」と憤る。

この時、北原さんは警察を呼んで介入してもらったが、新しい鍵に付け替えていたこともあり、実費4万円を支払ったという。

私たちは同じA社に高額請求された6人から話を聞くことができた。

神奈川県に住む男性は、12万1550円を請求されたという。

共通点は関東と関西に集中していること。

そして、深夜に帰宅して鍵がないことに気づき、スマートフォンから業者のホームページをリサーチ。

安い金額を提示されたため契約するパターンだ。

A社のホームページには「980円~」と書かれている。

ホームページを見る限り、980円から鍵を開けてくれるかのように見てとれる。

他の鍵開け業者とも比較し、安い金額をうたっていた。

業者とのトラブルについて情報提供を受けたり、解決のための助言や相談を行ったりしている東京都消費生活総合センター。

寄せられた鍵開けトラブルの相談件数は、昨年度に225件だったが、今年度は4月からの半年間だけで242件(9月末時点の速報値)に達している。

インターネットで安い金額の業者が出ると、相談が増えるという。

取材した日も、A社とみられる業者に鍵開けを依頼した人からの相談が入っていた。

電話を受けた相談員は「賃貸マンションで鍵なくした。入れなくなってしまった。980円で電話したが、全然違う金額」と、内容を確認してメモを取っていた。

東京都消費生活総合センター 髙村淳子相談課長「何が悪質かというと、980円とか1000円とか安い金額をどういう意味で打ち出してるのか、こういう鍵だったら+3万円かかりますとか、+5万円かかりますと(HP上に)書いてない」

「消費者にとってみれば、開けてもらう代金として1000円払えばいいと思って電話をしてしまう。そう思わせてしまうところは悪質だと思います」

A社は、東京都内のある場所に登記簿上の所在地を置いていることがわかった。

そこはタワーマンション高層階の一室。

インターホンで呼び出してみると、「通信異常のためお呼び出しできません」と表示された。

通信異常とは何なのか。

マンションの防災センターに確認してみると、ブレーカーが下がっている状態だという。

電気が通っておらず、居住者もいない、事務所機能も果たしていない状況とみられる。

会社の実態はどこにあるのだろうか。

取材を続けると、A社の別の所在地が新たにわかった。

都内にある雑居ビルの一室。

看板は出されていなかったが、A社宛てに契約解除・クーリングオフを依頼するはがきが大量に投かんされていた。

ここがA社の拠点なのかどうか、出入りを確認してみると、昼間は全く人の気配がなかったが、午後7時前になると部屋の電気がつき、作業服姿の男性が出入りする。

現場に向かうのだろうか、5台ものレンタカーが路上駐車していた。

やがてそのうちの1台に2人が乗り込み、出ていった。

この日、作業服姿の男性を6人確認することができた。

取材を進めると、他にも高額請求を行う鍵開け業者がいたことがわかった。

3年前までA社とは別の会社で高額請求を行っていたという作業員の男性に、その方法を聞いた。

A社と別の会社で高額請求を行っていた鍵開け作業員
「お客さまからご依頼が入った時に、『いくらですか?』って聞く方もいらっしゃる。その時にも、値段は絶対言わない。『作業員が向かいますので、(金額は)そこで聞いてください』と。実際作業員が派遣される」

業者はインターネットで調べた時に検索画面の上位に表示されるよう、ばく大な広告費を払っていたという。

──検索画面の“上”と“下”で違いは?

鍵開け作業員「お客さまは焦っている。切羽詰まってる感じ。(検索画面の)下まで調べようとはならない。(検索画面の)上の方に、安いうたい文句のウェブサイトが並んでいて、一番上を押してしまう。そこにお金をかけている」

これはリスティング広告といわれるシステム。

検索した時に『スポンサー』『PR』などと表示される広告枠のことだ。

例えば「午後7時以降、関東と関西から、スマートフォンで検索した人のみ」とターゲットを絞って表示させることもできるという。

インターネット広告事情に詳しい専門家に話を聞いた。

一般社団法人日本アフィリエイト協議会・笠井北斗代表理事「リスティング広告に出稿すること自体は何ら違法性はない。ただ残念ながらごく一部に、仕組みを悪用してしまう事業者がいる。だましやすい人にだましやすい広告を配信して多額の被害を生んでしまうパターンが、レスキュー商法には広まってしまっている」

問題のA社もリスティング広告を出しているのだろうか。

約12万円を請求された男性に協力してもらった。

昼間にスマートフォンで、「鍵 なくした」のキーワードで検索してみた。

その結果、スクロールしても業者は出てこなかった。

男性は「夜中に調べたら出ましたね。このタイミングだと出ないですね」と言う。

昼に検索をかけてもA社は画面に表示されなかったが、記者が夜7時過ぎに「鍵 なくした」で検索すると、2番目の位置に「スポンサー」という形で会社のアドレスが出た。

「700円~」と書いてある。

繰り返し検索をかけてみると、A社は夜の時間だけ広告を出していたことが判明した。

さらに驚いたことに、A社の取材を開始して3か月、会社名(HP上の名称)が変わって、今までと違う名称になっていた。

ホームページのデザインや背景、色合いや字体は全く同じだが、会社名(HPの名称)だけが変わっていた。

変更した会社名(HPの名称)で、新たな鍵開けビジネスを行おうとしているのだろうか?

どういうことなのか。

A社に向かい、作業員とみられる男性に話を聞いた。

代表と話をしたい旨を説明すると、翌日に代表から電話がかかってきた。

忙しくて会う時間は取れないが、質問には文書で回答すると語った。

3週間後、日本テレビに回答が寄せられた。

「A社の行っている行為は不適切な高額請求では?」との質問には、「そのような事は一切ございません。弊社で定めている料金に則り、お客様に説明し、了承を得た上で作業させていただいております」。

事前に客に了承を得た上で作業をしていると回答した。

利用者からクーリングオフ通知が多数来ることについては、「各消費者センターの方と対応させていただいております。お客様に満足していただけるよう誠心誠意努めてまいります」と答えた。

会社名(HPの名称)を変えたことについては、「法人名と屋号が類似しておりお客様から分かりにくいという指摘をいただいた為変更しました」とした。

「利用者を欺いていませんか?」との問いには、「そのような事は一切ございません」と回答した。

高額の代金を請求する「レスキュー商法」。

なぜ、警察や行政機関は動かないのだろうか?

東京都消費生活総合センターの髙村相談課長に聞いた。

髙村課長「(依頼を受けて)鍵も開けますし、ただ金額が折り合わないだけの話なので、これを詐欺とは呼べないわけですよ」

「詐欺罪でもないので、そういう売り方をしてるのかの調査が必要になって、調査も少し時間がかかるので、悪い事業者は何か月かで広告を変えていきます。広告自体を変えたり会社名を変えたり、なかなか正体がつかめないケースもあるのかなと思います」

会社名が変わると最初から調査を行うことになり、なかなか証拠が押さえられないという。

10月28日、関西の適格消費者団体「京都消費者契約ネットワーク」はA社に対し、「700円~」の表示は不当であるなどとして、このような行為をやめるよう景品表示法と特定商取引法に基づき、差し止め請求を行った。

業者は名前を変えて存在し続けています。利用する際には細心の注意が必要だ。

鈴江奈々アナウンサー「こうしたトラブルに遭わないためにはどうしたらいいのでしょうか。東京都の消費生活総合センターは『深夜に1000円以下のような安い値段で鍵を開けてくれる業者はまずいないので、注意をしてほしい』と指摘します」

「また業者に頼む場合、鍵の種類によって値段は変わってきます。そのため、普段からメーカー名や鍵の形状などをメモして持っておくことで、業者とのやり取りがスムーズになり、トラブルが避けられるのではということでした」

参照元:Yahoo!ニュース