内々定でも福利厚生が使える企業急増中 ホテル宿泊、飛行機代割引 専門家が指摘する「入社後の危険性」とは

採用試験を受けているビジネスマン

人材確保のための競争が激しさを増す企業の採用活動。

「手厚い住宅補助」「若手でも管理職になれる」など、さまざまな“特典”で学生の足を向けさせようと必死だ。

そんななか、今話題となっているのは「内々定でも福利厚生が使える」企業だという。

まだその企業にいくかどうかもわからない段階で福利厚生が利用できる仕組みとは。

「内定後すぐに、内定先の会社の福利厚生で福岡に行ってきました」

そう話すのは、今年4月に新社会人になった深山隆司さん(23歳・仮名)。

内定先の企業の福利厚生を使い、大学の友人との卒業旅行で福岡県にある大宰府や、広島県の厳島神社などに行ったという。

深山さんが利用したのは、ホテルの宿泊料が定価の10%引きになるというもの。

他にも、飛行機が10%引きの価格で利用できたり、レジャー施設の料金が半額で利用できたりする。

「昨年10月の内定式のときに、『内定している状態でも、内定式に出てからは福利厚生が使える』という説明を受けて、大学生の遊ぶ時間があるときに使えるのはいいなと思って利用しました。物価が値上がりして手が出しずらくなっているので、少しでも割り引いてくれるのは学生時代の自分としては使いやすかったです。社会人に比べ、お金がない学生にとってはすごくありがたかったですし、入ってからもそのサービスは使えるというのもあってその会社に入る決め手になりました」(深山さん)

深山さんが内定式で受けた説明では、ほかにも全国の飲食店やリゾートホテルの利用、スーツ購入代などで多くの割引サービスを受けることができる。

回数制限などはなく、同じ施設の利用は、一定程度の期間さえ空いていれば何回でもサービスを受けることが可能だという。

福利厚生サービスなどを企業に提供する「リロクラブ」によると、内定者への福利厚生は10年前からすでに始まっていたという。

「内定者向けの福利厚生が欲しいという各企業の人事担当者さんからの声を受けて、弊社では10年前くらいから新卒内定者向けの福利厚生サービスの提供を始めました。割引サービスなど『消費』に直結したものはもちろんのこと、最近ではSNSなどのセキュリティ研修を含むeラーニングなどを福利厚生の一環として導入する企業も非常に多い印象です」(広報担当者)

リロクラブによると、同社が福利厚生サービスを提供する企業の今年4月入社の“内定者”からの利用が最も多かったのは、ファストフードやファミレス、居酒屋などのカジュアルな飲食店での割引サービスで、カラオケ、スパ、サウナや日帰り入浴施設での割引、スーツやパソコンなどの購入費割引などが続いた。

さらに、近年では「内々定でも福利厚生サービスを使えるようにしたいという企業も増えている」という。

「2年ほど前までは、基本、内定者の福利厚生利用は内定式が終わる10月から、という形でサービスを提供していました。しかし、昨今は就活の早期化によって、内定式を迎えていない状態、いわゆる“内々定”でも福利厚生を使えるようにしたいという声も聞こえ、入社する前年の8月から使える福利厚生サービスの提供も始め、導入する企業は増えています」(リロクラブの担当者)

実際、8月から利用する内定者もいるといい、福利厚生に加え、「eラーニング」や「Excel」の研修を受ける内定者も多いようだ。

また、同社のサービスは中小企業が中心だが、最近は大企業からの問い合わせも多いという。

前出の担当者がこう話す。

「大企業、中小企業に関わらず、内定者向けの福利厚生については問い合わせが増えており、導入する企業は毎年、前年比で約10%増の状態です」

内々定の段階で会社勤めをしているかのような気分を味わえるわけだが、学生がそうしたことを求めているのだろうか。

ある小売大手の人事担当者はこう話す。

「今は、大手企業が採用内定を出しても蹴られるのが当たり前の時代。大手、中小に関わらず、会社に入って自分自身が成長していくことをイメージできるか、入社して楽しみもいっぱいあるか、などを早い段階で学生に見せて学生の心をとらえる必要がある。今後もどんどん先手を打って人材確保に対応していく必要があります」

こうした動きについて、働き方評論家で千葉商科大准教授の常見陽平氏もこう語る。

「一連の企業の動きは、働く環境の魅力を見せ、内定した学生を囲い込む、という理由も一つですが、企業側が福利厚生の利用などを通して、『学生(内定者)と会社の接点』を持たせたいのだと思います。昔から、福利厚生は保養所の有無などで、大手と中小で差があるように感じられがちでしたが、今は加入すればアラカルトでメニューを選ぶことができる福利厚生アウトソーシングサービスなどを提供する会社も増え、両者の待遇差は昔に比べて縮まってきた。そのような変化も影響して、学生にアプローチしやすい一つの手段になってきているのだと思います」 

さらに、常見氏は学生たちの企業の選び方にも着目する。

「内定を得た学生たちのいた環境も影響しています。特に今の学生は、コロナ禍で学生生活を過ごしたということもあり、入社する企業を選ぶ際にも、給与や福利厚生などの側面を見ている学生は多いです。そういった面もあり、企業側も福利厚生などのイメージしやすいものを実感してもらって、入社後の将来像などを身近に感じてもらうことも狙いの一つだと思います」

一方で、「学生側が福利厚生に着目しすぎると、入社後にギャップが生じやすくなるかもしれない」とも指摘する。

「先ほども述べましたが、福利厚生というのは企業の側面にすぎません。将来のビジョンやどんな仕事をしていけるのかとはまた別の話。過去に『ブラック企業』との呼び声が高かった企業が、働き方改革の一環で福利厚生を充実させ、『ホワイト企業』と言われるようになりましたが、実は企業の“ブラック体質”は残ったままで、新卒社員が入社後にギャップを感じてしまったという例もありました。企業選びの一つの要素になっていいとは思いますが、福利厚生の魅力だけにつられて決めてしまうのは良い選択とは言えません。総合的に見ていくことが大切です」 

魅力に感じる福利厚生だが、会社選びは慎重に…。

参照元∶Yahoo!ニュース