植田日銀総裁、利上げ判断に「時間的余裕」は使わず 金融政策維持

日本銀行の外観を撮影した写真

日本銀行は31日の金融政策決定会合で、現行の政策金利の維持を決めた。

植田和男総裁は記者会見で、これまで繰り返してきた政策判断に「時間的な余裕はある」との表現を今後は使わないとし、経済・物価情勢を踏まえて予断を持たずに判断していく姿勢を強調した。

今回会合では、無担保コール翌日物金利が0.25%程度で推移するように促す金融市場調節方針を据え置くことを全員一致で決定した。

政策金利の維持は9月に続いて2会合連続となる。

植田総裁は、次回利上げ時期の判断材料の一つとして市場が注目した時間的余裕という言葉について、足元で米経済のリスク度合いが少しずつ下がってきているとし、「不要になるのではないかと考えている。今後は使わないと思う」と語った。

従来は8月の米経済に対する悲観的な見方と市場急変を日本経済の重要なリスクと判断し、時間的余裕という表現を使ったと説明した。

金融政策運営に関しては「見極めに必要な時間や利上げのタイミングについて予断を持っていない」と指摘。

今後の毎回の決定会合で、「その時点で利用可能な各種のデータ情報から経済物価の現状評価や見通しをアップデートしながら政策判断を行っていく」とした。

衆院選での与党の過半数割れによる政局混迷や円安の再進行に加え、米大統領選も来月5日に控えており、日銀の政策スタンスに注目が集まっていた。

総裁が国内の経済・物価は順調に推移しているとの見方を示し、時間的余裕との表現を撤回したことを受け、年内を含めた早期の追加利上げ観測が強まる可能性がある。

SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは、経済・物価情勢の展望(展望リポート)を見た限り利上げは12月よりも1月の方が可能性が高いと受け止めたが、総裁会見の内容を踏まえると「そこまで1月に振れているわけでもなさそうだ」と指摘。

1月の利上げを基本シナリオとする一方、円安が進めば前倒しされるリスクはあると語った。

植田総裁は、追加利上げの重要な判断材料となる賃金・物価情勢に関しては、毎月勤労統計を踏まえて、一般労働者の所定内給与の伸びが「2%のインフレ目標と整合的な範囲に入ってきている」と指摘。

10月の東京都区部の消費者物価指数などから、賃金のサービス価格への転嫁の動きが「広がっている」と述べた。

米経済については「少し霧が晴れつつある」としながらも、これまでの利上げの経済・物価への影響など「不透明な部分がまだなお大きいと判断しており、その動向を注視していく必要がある」と語った。

市場では円相場が一時1ドル=151円台後半まで上昇。

決定会合で2025年度の物価見通しの上振れリスクの記述を維持したことを受けて上昇し、総裁会見を受けて上げ幅を拡大した。

長期国債先物相場は夜間取引で下落。シンガポール市場の日経平均先物も下落している。

新たな展望リポートの消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)の上昇率見通しは、2025年度を前回の2.1%から1.9%に下方修正したものの、26年度まで2%程度で推移するとの従来の想定から大きな変化はなかった。

今後の政策展開を探る上で注目されたリスクバランスは、前回リポートで指摘した「上振れリスクの方が大きい」との表現を24年度はなくす一方、25年度は維持した。

金融政策運営は、経済・物価見通しが実現していけば「引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」方針を据え置いた。

その上で、米国をはじめとする海外経済や市場動向を十分注視し、「わが国の経済・物価の見通しやリスク、見通しが実現する確度に及ぼす影響を見極める必要がある」とした。

大和証券の末広徹チーフエコノミストは、日銀としては「全体的には今後正常化を進めていくのにオントラック(順調)だという説明になると思う」と指摘。

海外経済の不透明性から利上げを見送ったとの見方を示した上で、「円安がさらに進めば、12月にも利上げをするだろうし、今回の展望リポートはその可能性を否定するものではなかった」と述べた。

ブルームバーグが17-22日にエコノミスト53人を対象に実施した調査では、政策変更を予想したのは1人だけだった。

次回の利上げ時期の予想は12月が53%、来年1月が32%となっており、両会合で85%を占めた。

今回の会合には赤沢亮正経済財政担当相が就任後、初めて出席した。

従来は財務副大臣として1月以降の会合に毎回出席していた。

参照元:Yahoo!ニュース