「卵子凍結」という選択肢 悩む私は20代後半 専門家に聞いたリスクと現実を前に

妊婦をイメージした画像

27歳。

私は今年、母が私を生んだ年になった。

周囲から結婚や出産の報告を受けることも増えてきたが、今は結婚も出産もイメージがわかない。

いつかは子供を持ちたい、という希望は持っている。

そんな中、同年代の著名人が「卵子凍結した」というニュースに触れた。

私も「凍結」しておいた方がいいのか。

リスクはあるのか。

そもそもどんなことをするのか。

一から教えて欲しい、と専門家をたずねた。

卵子凍結(未受精卵凍結)は大きく2つに分けられる。

【医学的適応】による卵子凍結。【社会的適応】による卵子凍結。

【医学的適応】による卵子凍結…医学的に卵子凍結の必要性があると判断される場合。例えば、「抗がん剤治療」や「放射線治療」などが卵巣の機能を低下させる場合や、病気そのものにより、卵巣の機能が低下する場合に備えて行うことを指す。

【社会的適応】による卵子凍結…健康ではあるが、加齢による妊孕性(にんようせい・妊娠するための力)の低下を危惧して行う。卵子を「凍結して保存」しておくことで、希望するタイミングで妊娠・出産できる、とされている。

長崎大学病院産婦人科 梶村慈副医局長:「年齢とともに『今できることがある』ことを知り、『自分でどうしようか』と考えることはとても良いこと」

長崎大学病院産婦人科 三浦清徳教授:「(卵子凍結は)もちろんオプションの一つだとは思う。ただ、本当に必要かどうかを十分に考えてかなっていうのはありますね。リスクを背負ってまでしないといけないのかー」

今回話を聞いたのは、長崎大学病院産婦人科の三浦清徳教授と、不妊治療に詳しい梶村慈副医局長。

卵子凍結について話を聞きたいという申し出に対し「メリットだけでなくリスクも含めて理解したうえで、本当に自分に必要か十分に考えてほしい」と2人は口を揃えた。

具体的にどんなことをするのか。

まずは凍結する「卵子」を採り出さなければならない。

より多くの卵子が採れるよう、事前に約2週間「排卵誘発剤」を、自分で腹などに注射する。

基本的に、月経の約1か月周期で排卵される卵子は1つ。卵子1個あたりの出産率は「4.5%~12%」とされている。

卵子凍結で妊娠を目指すためには「10~15個程度」の卵子が必要とされている。

薬を使って、通常の十倍以上にも及ぶことのある排卵を誘発し、採卵するのだ。

誘発剤の使用により、通常より卵子でいっぱいになった「卵巣」が腫れる副作用や、血栓症のリスクが上がることもあるという。

重症な場合は入院による点滴治療が必要となることも。

薬を使って自然とは違う状態を誘発するー。

しかも、副作用のリスクもあるー。

この時点で、私が想像していたこととはかけ離れた大変な処置であることが分かり、ショックだった。\

そして「採卵」。

麻酔をかけて約30分かけて行われる。

この時「いくつの卵子が採れるか」は、実際にとってみないと分からないという。

採った卵子は液体窒素の中で保管され、妊娠を臨んだタイミングで融解し使用される。

仮に凍結した卵子が10個あった場合、このうち受精卵になって出産に至るものは1つあるかないか。

凍結・融解は卵子にストレスをかけるため、ダメージを与えるのだそうだ。

若いうちに卵子を凍結していたからと言って「必ずしも出産に至るわけではない」と梶村副医局長は力を込めた。

長崎大学病院産婦人科 梶村慈副医局長:「(若い時の方が)卵の質としてはいいので、40代でももしかしたらうまくいくかもですけど、妊娠した後のリスクが高すぎる。血圧は高くなりやすいですし妊娠・出産した後まで自分の体力を含めて考えないと」

「年齢が高くなったときに、凍結していた卵子が使えて、妊娠・出産がうまくいけば、それは良いことなので、メリットがないわけでは全然ないです。ただ、歳を重ねると着床率が下がってくる。妊娠継続したりする中で、血圧が高くなったりとか、妊娠して分娩のときのリスクも高くなってきますので、そんな危険にさらすことがないように、早め早めに人生設計を考えるのが良いのではないかと思います」

株式会社識学が「現在こどもがいない人」を対象に「こどもを産みたい・もしくはこどもを産む予定があるか」を尋ねたところ
・「こどもを産みたいとは思わない・産む予定はない」が最多の44%
・「こどもを産みたいと思っているが、産む予定はない」が20%
→『こどもを産む予定はない』とした人の合計は64%に上った。

また、「こどもの出産・妊娠について心配だと思うこと」は
・「教育費等を含めた経済面」が47.3%で最多
・「育児と仕事の両立」が次いで43.3%だった。

卵子凍結にかかる費用は病院や卵子の数などによって異なるものの、まず採卵から凍結までに約30~40万円。

年数に応じて保管にも費用を要す。

このほか、凍結した卵子を使用して顕微授精し、受精卵を育てて子宮のなかへ戻すのに約30万円かかる。

年齢制限はないが、採卵時の年齢は36歳未満が望ましいとされていて、凍結した卵子の使用については、高齢出産による合併症のリスクを考慮し、45歳以上は推奨されていない。

2023年10月、東京都は「子育て支援策」として、健康な女性が卵子凍結をする際の費用助成を始めた。

対象は都内に住む18歳から39歳の女性。

卵子凍結をした年度に上限20万円を助成、さらに卵子の保管更新の際に都の調査に回答すると1年ごとに2万円を助成するというものだ。

また、凍結した卵子を使って妊娠に向けた治療をする際にも、妻の年齢が43歳未満の夫婦を対象に、1回につき上限25万円を助成する。

東京都の小池百合子知事は「子どもを産み育てたいという希望はあるが、様々な事情によってすぐには難しい方にとって、『卵子凍結』は将来の妊娠に備える選択肢の一つ」としている。

一方、長崎県内では、現時点で健康な女性に対しての「卵子凍結」の助成は行っていない。

その理由として、長崎県こども家庭課の担当者は「高齢出産は母体への負担がかかる、ということを周知しているところ。卵子凍結の助成は相反する部分である」としている。

今回話を聞いた三浦教授は、妊娠・出産について、できるだけ早い時期から男女問わず考えていくことが最も大切だと話す。

長崎大学病院産婦人科 三浦清徳教授:「今すぐ妊娠したいと思ってない人でも、将来を見据えて体を整えておくこと、がん検診なども含め、自分の体に向き合い続けることが大切。それによって予防できる病気もたくさんある。まず20歳になったら子宮がん検診を受ける。定期的な検診によって、それぞれがかかりつけの産婦人科を持ち妊娠・出産の悩みも相談する、そのサイクルを当たり前にしていくことが求められています」

将来の妊娠を考えながら、女性やカップルが自分たちの生活や健康に向き合うことを「プレコンセプションケア」という。

若い状態の卵子を数十年にわたって保管し続ける「卵子凍結」は、時間を止める魔法の手段ではなく、心身への負担を負いながらも妊娠・出産の可能性を広げる選択肢の一つだ。

そのリスクを知った上で選択すること、何より、性別や出産の希望を問わず、若い頃から命や自分の体について考える機会を持つこと、それがより当たり前になることこそが大切だと感じている。

参照元:Yahoo!ニュース