候補者は何にカネを使った?抜け穴が多い「選挙運動費用収支報告書」、閲覧にはハードル

政治と金の関係性を象徴した画像

自民党派閥の裏金事件など政治とカネの問題が相次ぐ中、政治資金の動きを有権者が自らチェックする重要性は高まっている。

それを可能にする公開資料として、「政治資金収支報告書」がニュースに度々登場するが、選挙に使われた資金の流れをチェックできる「選挙運動費用収支報告書」の存在はあまり知られていない。

各候補者の選挙戦略が垣間見える資料だが、閲覧にはハードルもある。

公職選挙法では、候補者が使える選挙運動費用は選挙ごとに上限額が決められ、選挙によっては各候補者のポスターやビラの作製費の一部が公費でまかなえる。

候補者は収支を報告書に記載し、投票日から15日以内に地元の選挙管理委員会に領収書を添付して提出しなくてはならない。

未提出や虚偽記入は3年以下の禁錮または50万円以下の罰金に処される。

具体例を、7月にあった東京都知事選の得票数上位3人の報告書から見てみよう。

主な収入では、3選された小池百合子知事は自己資金1500万円を用意。

2位の前広島県安芸高田市長、石丸伸二氏は約120件の個人寄付の合計706万円と後援会からの寄付1725万円などの計2446万円。

後援会の寄付の原資の多くも個人寄付とみられる。

3位の元参院議員、蓮舫氏の収入は、立憲民主党東京都連からの寄付900万円と後援会からの寄付200万円で計1100万円。

三者三様の収入源から、候補者の資力や支持基盤、政党との距離などが浮かび上がってくる。

支出からは、選挙戦略が垣間見える。

自身にそっくりな「AIゆりこ」が公約を語る動画が話題となった小池氏は動画作製の外注費として224万円を計上した。

蓮舫氏は、演説などを重視したためか音響照明費に151万円をかけていた。

また、政党の支援を受けずに善戦した石丸氏は、選挙掲示板へのポスター貼り、自動音声(オートコール)による電話作戦、情勢調査などの外注費を計1000万円近く計上していた。

今回の都知事選で各候補者が使える費用上限は6050万円だった。

3人の支出はそれを大きく下回っていた。

ただ、報告書には、候補者の関係する政治団体や支援する政党が選挙に使った費用が記載されないなど、全体像や実態が正確に反映されているとは言いがたい。

それでも大まかな傾向は分かるうえ、過去の選挙では報告書に基づく取材から「運動員買収」などの疑惑が発覚したケースもあり、ジャーナリストらの貴重な情報源にはなっている。

報告書のもう一つの問題は、閲覧にハードルがあることだ。

概要を記した要旨を自治体がウェブに公開している場合があるものの、寄付者や運動員らの住所、支出先まで記載されている原本はウェブ公開されていない。

閲覧するには、地元の選挙管理委員会を訪ねるか、情報公開制度を利用して郵送で取り寄せるしかない。

保存期間も3年と短い。

このためメディアのチェックが及ばないという声や、選挙資金の全国的な運用状況が把握しづらいとの声もある。

10月、こうした課題の解決に向け、報告書を全国から収集したデータベースの運用が始まった。

手掛けるのは、日本大の安野修右(やすの・のぶすけ)研究室、オンラインメディア「スローニュース」、調査報道グループ「フロントラインプレス」の3者。

既に2021年衆院選候補者らの1000以上の報告書を収集済みで、登録したジャーナリストや研究者ならウェブ上で閲覧できる。

横断検索も可能だ。

報告書の集約で何が見えるのか。

選挙制度が専門の安野専任講師は「近年の選挙は、地方の政党基盤の弱体化やSNS(ネット交流サービス)の普及に伴い、従来型といえる政党主導や地元をくまなく回る『どぶ板型』から、マーケティングを駆使するプロのコンサルタントに依存する傾向が強まっている」と指摘。

「全国の報告書を横断的かつ時系列で分析すれば、選挙という民主主義制度の根底で生じている重要な変化が可視化できるかもしれない」と話す。

一方、フロントラインプレス代表の高田昌幸・東京都市大教授は、報告書のデータベースを使った調査報道に期待を寄せる。

選挙運動費用の一部が公費でまかなわれているのに制度に抜け穴が多いためだ。

「選挙で使い切れなかった余剰金の取り扱いルールがないため、候補者が懐に入れることも可能になっている。新たな報道でこうした問題を明らかにし、制度改正につなげてほしい」

今回の衆院選後も都道府県選管で報告書が公表される。

閲覧は誰でも可能で無料なので、地元で気になる候補者がいれば選管に足を運ぶことをお勧めしたい。

新しい発見があるかもしれないし、なにより、チェックする目が増えることが、政治に緊張感をもたらすことになる。

参照元:Yahoo!ニュース