なぜ『TGC』はYouTuberの起用に踏み切ったのか 令和のトレンドを生むショーの“裏側”

ファッションショーをイメージした写真

年に2回開催される、ほファッションイベント『東京ガールズコレクション』。

開催のたびに世間から大きな注目を集め、日本を代表するファッションの祭典となっている。

そして出演者はモデルのみならず、俳優、芸人、国内外の人気アーティスト、トップインフルエンサーなど多種多様にわたる。

今回は、そのなかでもYouTuberの存在に注目。なぜファッションイベントの場にYouTuberを起用するに至ったのか。

その背景について、東京ガールズコレクション実行委員会・チーフプロデューサーの池田友紀子氏にインタビューを実施。

主催者側から見る『東京ガールズコレクション』とは。

そして、令和の時代をどのように捉えているのかを語ってもらった。

ーーまず『東京ガールズコレクション(以下TGC)』について、教えてください。

池田友紀子(以下、池田):TGCは「日本のガールズカルチャーを世界へ」をテーマに掲げ、2005年に誕生しました。春夏・秋冬の年2回を東京で開催しており、2015年からは「TGC地域創生プロジェクト」として、北九州や静岡、熊本、松山など全国各地でも開催しています。お客さまは10代後半から20代の方が全体の約7割、95%以上が女性です。テーマや客層に関しては、昔からそこまで大きく変わっていないですね。

ーーたしかに、TGCの来場者は“若年層の女性”のイメージがかなり強いです。

池田:もともとTGCが誕生した背景には、それまでのファッションショーへのアンチテーゼがあるんです。昔はファッションショーって、パリコレのような“上流階級”のものというイメージがあったと思うんです。お客さまも、顧客やセレブのような人が招待されて見るもの、みたいな。でもそうじゃなくて、もっと身近な“リアルクローズ”のファッションショーとして誕生したのがTGCなんです。

ーーファッションをもっと身近な存在にしたのが、TGCの始まりだったんですね。

池田:そうですね。TGCが誕生した当初は赤文字雑誌(CanCam · Ray · ViVi· JJなど)の全盛期で、ファッション誌のカバーモデルの方々が絶大な影響力を持っていました。雑誌ごとのモデルの方々がステージに登場することはあったかもしれませんが、あらゆるファッション誌のモデルの方々がひとつのショーに出演するようなイベントは、TGCが生まれる前はなかったと思います。

ーーいまでこそ当たり前のようになっていますけど、これは革命的なことですよね。

池田:実現するまでにはかなり時間がかかったようですが、TGCが誕生したときは夢の共演の数々で、かなりの反響をいただきました。普段雑誌で見ているモデルの方たちを生で見れる機会を作ることで、ファッションを身近にしつつ、より熱量のある場にできているのではないかと思います。

ーーそんなTGCも来年(2025年)で20周年を迎えます。

池田:TGCというのはあくまでもプラットフォームなので、中身は常に変わり続けています。決まった型があるわけではなく、1回やったら壊して、また新たなTGCを作っていく。2つとして同じTGCはないんです。その繰り返しを経て、来年20周年を迎えます。時代とともにTGCも変化し、常に新しいコンテンツを提供しているんです。

ーー常に進化し続けているTGCですが、いままでの歴史のなかで転換点になった出来事はありましたか?

池田:やはりコロナですかね。コロナ禍になってからは2年ほど、無観客での開催となりました。配信は以前から行っていたのですが、コロナ禍になってからは、デジタル面にかなりフォーカスするようになりました。復活したときによりお客様に熱量を持ってご来場いただけるTGCにすべく取り組み、配信の視聴者数は最終的に約6倍まで増加させることができました。

ーー具体的にはどのように力を入れたのでしょうか?

池田:いままでは、あくまでもリアルに開催されているイベントが中心で、ステージの様子をそのまま配信していました。コロナ禍で、眼の前のイベント=TGCから、スマホの中=TGCになったことで、事前にSNSで #出演者リクエスト をつけて、どんな人に出演してほしいか呼びかけたり、当日はシークレットゲストは誰なのかをSNSで予想してもらったり、SNSを通してお客さんとコミュニケーションを取るようになりました。

池田:いまは開催する何か月も前からSNSの戦略を立て、本番当日だけで何百投稿も発信しています。そして、どのプログラムのときにどのくらい盛り上がっているのかを分析して、次の開催時に活かしたりしていますね。

ーー“リアル”と“ネット”の盛り上がりを比較して見ていると。

池田:SNS上での会話量やインプレッションなどを分析して、「このプログラムはもっと前半に持ってきたほうがいいね」「ここで1回山ができるからこのくらい時間を使おう」というように、SNSの盛り上がりを分析してショーの全体の構成にも反映するようになりました。もっと言うと、もちろんリアルで開催しているのもTGCなのですが、私たちは“SNS上にもTGCがある”と考えています。リアルだけではなくSNS上にあるTGCも楽しんでいただけると嬉しいです。

ーー出演者の方にもSNSの発展による影響はあったのでしょうか?

池田:コロナ禍でSNSへの可処分時間が増え、YouTubeやTikTok、Instagramなどメディアが細分化され、それぞれのメディアにスターが生まれました。それこそが令和の時代なのかなと感じています。TGCではそれぞれのスターの方たちに出演いただいているので、会場で盛り上がる人、テレビでニュースになる人、Xでバズる人、TikTokで動画が回る人と、人によって盛り上がる場所が違うのが面白いですね。

池田:こちらで発信するときも、たとえばTikTokでショーの様子の動画を投稿するときは、1体目に誰が登場するのかなどもすごく重要になってきます。

ーー動画に誰がどの順番で登場するのかも、拡散力に大きく影響してくるんですね。

池田:発信のしかたに正解があるわけではないので、そこはひたすら分析してチャレンジし続けています。でもリアルの会場で盛り上がることももちろん大事ですし、テレビなどのマスメディアで取り上げていただくことも大事、SNSでバズるのも大事です。だから、作り手はすごくバランス感覚が求められる時代になったのかなと思いますね。

ーーそれだけ多くの窓口をコントロールするのは、なかなか大変なことですね。そのなかでも、YouTuberの方を起用したきっかけはなんだったのでしょうか?

池田:3年ほど前からYouTuberの方にも出演していただいているのですが、それはメディアが多様化するなかで自然な流れだったと思います。InstagramやTikTokでスターが生まれたのと同じように、YouTubeの世界でもスターが生まれて、TGCにも出演をしていただいてます。だから正直そこまで大きな決断があったというわけではなく、あくまで自然な流れでしたね。

ーーYouTuberの方は視聴者と距離がとても近い存在でもありますが、そういった面では何か反応はありましたか?

池田:ネガティブな声は正直ありません。YouTubeやTikTokが発達して、それぞれにスターが生まれて、みんながいま会いたい人たちがそのスターだというのが、“いまの時代”なんです。あらゆるメディアのファッションアイコンが集まっているのがTGCなので、またメディアに変化が訪れたらTGCも変わっていくと思います。

ーーYouTuberの方の出演により得た発見や、化学反応はありましたか?

池田:ステージに出てもらうだけでは完結しない、という点ですね。たとえば2024年3月に出演していただいたなこなこカップルさんは、ステージで結婚発表をされました。サプライズでタキシードとウエディングドレス姿で登場して、ご自身で制作した映像を流したり、演出のプランを私たちにぶつけてきてくれたんです。当日は会場中が涙を流すような、感動的なステージになりました。

とうあさんは2023年10月に開催したCREATEs presents TGC 北九州 2023と、2024年4月に開催した麻生専門学校グループ presents TGC 熊本 2024にて、自身がプロデュースしているアパレルブランド『BG』のショーを行いました。衣装はもちろん、ヘアメイクなどもとうあさん自身が細かくこだわっていて、自らステージを作り上げていたんです。

こういったステージは、私たちが「結婚発表しましょう」「こういうイメージ演出でいきましょう」と伝えているわけではなく、YouTuberの方からご提案いただくことが多いです。やはり普段から企画を立て動画を撮影・編集している方なので、co-creation(共創)の部分が大きいかなと思います。ただ出演してもらっているというよりは、一緒にショーを作る“仲間”という関係性ですね。

ーー演者でありながら、作り手の一面も持ち合わせている存在なんですね。

池田:そうですね。ただこれはYouTuberの方に限った話ではなくて、モデルの方でもセルフプロデュース力が高く、ステージングを自ら提案してくれる方もいます。TGCに出演していただく方はすべて共同制作者だと思って向き合っているので、クリエイティブ力・セルフプロデュース力は人それぞれなのかなと思いますね。

ーーたとえば、2024年9月に開催されたステージにも出演されたモデルのせいらさんは、YouTuberとしての一面も持っていますよね。

池田:せいらさんは自身のYouTubeで「TGCのトップステージを歩く」と言う夢を宣言されていたんです。そして実際夢を叶えて、それまでの道のりがファンの方によってひとつの動画として投稿されていたのを見ました。

池田:過去にも「夢はTGCに出ることです」と言っていただく方は、ありがたいことにたくさんいらっしゃったんですけど、いまのようにみんなが自分でメディアを持つようになると、夢が叶う過程も発信され、それをファンの方がつなげて、さらに広がっていくようです。この現象はいまの時代ならではの流れだと感じます。

・お客さんがメディアを持つ時代に

ーーもはやどんな人でも自身のメディアとしてSNSを持っていることが、当たり前になりつつありますからね。

池田:そうなんですよね。YouTubeもTikTokも職種関係なくみんなアカウントを持つようになり、さらに来場者の方も発信する側でもあります。全員が自分のメディアを持つような時代にはなってきています。

ーーお客さんもメディアを持つ時代。これは昔にはなかった変化ですよね。

池田:TGCが誕生した2005年ごろはまだガラケー全盛期で、ショーで見た服をECサイトで購入するということをいち早く取り入れました。いまはスマホも普及されて情報格差はなくなりましたが、体験格差が注目されるようになりましたよね。そこでいうとTGCはトレンドのヒト・モノ・コトが集まる祭典なので、来場者の方には「TGCに行ったよ!」という一次情報取得者であることに価値を感じていただいているようです。

ーー昔のSNSに比べていまのYouTubeやTikTok、Instagramはメディア感が強いこともあり、最新の情報を取得していることにより付加価値が生まれているかもしれませんね。

池田:シンプルに「TGCに行ったよ!」と言いたくなると思っていただけるのは、嬉しいですね。

ーー今後、TGCはどのように展開していくのでしょうか?

池田:リアルはもちろんですが、その先のSNSでもTGCがど真ん中であり続けられるような、企画やコンテンツを用意していきたいですね。もともとTGCのテーマは開かれたファッションフェスティバルなので、誰でも使えるSNSを通してTGCに触れることができる、という面は大切にしていきたいです。これからも時代を投影した新しいTGCを届けるので、ぜひ楽しみにしてください。

参照元:Yahoo!ニュース