外資との提携で力増すインド財閥、海外市場も視野に

インドの国旗を撮影した写真

インドのモディ首相は過去10年の大部分を外国企業による対インド投資の障壁を引き下げる取り組みに費やしてきた。

ただ、米資産運用大手ブラックロックや独自動車大手BMW、中国発の衣料品通販SHEIN(シーイン)といった海外企業はインドの財閥と組んで市場参入を進めており、インドの財閥は国内経済における影響力をさらに強め、インドに乗り込もうとする外国企業のライバルとしていずれ台頭しそうだ。

インド市場は表向き既に外国企業に対して開放されており、資本の受け入れ意欲は高い。

多くのセクターは海外企業単独での市場参入が可能で、大部分の分野が外国企業に対して閉ざされ、自動車のように外資参入が可能なセクターであっても現地企業との提携が義務付けられる中国とは対照的だ。

一方で外国企業にとってなおインド参入が難しい点として、連邦方式の政治体制や文化的、地理的な多様性などが挙げられる。

だが、外国企業は有力財閥と提携すれば全国規模の事業拠点を迅速に確立し、国内の熾烈な競争を回避することができる。

インドへの再進出を決めたブラックロックの事例に海外企業が抱えるこうしたジレンマが良く表れている。

ブラックロックは2018年に、経営の支配権を握る見通しが立たずにインドの金融サービス大手DSPとの合弁事業を解消した。

しかし現在は大手財閥リライアンス・インダストリーズのムケシュ・アンバニ会長のジオ・ファイナンシャル・サービシズと資産運用事業における提携を進めている。

ブラックロックのラリー・フィンク最高経営責任者(CEO)は今回の提携でも経営の支配権を握ることはできそうもないが、近年貯蓄の金融化が急速に進んだインド市場はブラックロックにとってあまりにも魅力的で素通りはできない。

金融サービス分野への進出を目指す好戦的なアンバニ氏に競争を挑むよりも、同氏と提携する方がリスクは少ない。

外国企業はインド市場での立場を守りたいと考えており、2020年にリライアンスの事業部門が行った資金調達に外国企業が殺到したのもそれが一因だった。

このときにフェイスブックを運営するメタ・プラットフォームズは、リライアンスのデジタルおよび通信事業の10%株式を57億ドルで取得した。

インド市場は米IT(情報技術)大手に対して開かれているが、インド企業自体も通信からeコマースまで、デジタル関連ビジネスで実力を高めている。

さらにインド政府は製造業をてこ入れするために、生産連動型インセンティブスキームによって提携を後押ししている。

こうした取り組みによって政府は外国企業とインドの財閥の提携を進め、将来業界を引っ張るような企業を生み出すことができる。

昨年にアニル・アガルワル氏が率いるインド資源大手ベダンタとの半導体製造合弁事業から撤退した台湾の鴻海精密工業(フォックスコン)ような例もあるが、一方で仏石油大手トタルエナジーズなどの海外企業が新興財閥アダニ・グループ創業者で再生可能エネルギーに大きな野心を抱く富豪のゴータム・アダニ氏と手を結んでいる。

補助金をよりスムーズに利用できることも、富士フイルムなどの企業がインドでの生産開始前に現地企業との提携を模索する理由の1つだ。

注目すべきは、新たな提携の多くがハイテク分野に集まっていることだ。

アダニ・グループはイスラエルのタワー・セミコンダクターと提携して半導体工場を建設するし、BMWとタタ・テクノロジーズはインドのIT人材を活用して未来の車を支える特許を開発する計画だ。

インドの対内投資に対するアプローチは中国と多くの点で異なるものの、外国企業からのノウハウ取得を目指している点は共通している。

インド政府は製造業大国になりたいと切望しており、財閥も国内市場の支配を目指すだけでなく、海外市場で先頭に立ちたいと望んでいる。

そのためインドでも中国と同様に新たな提携の一部が暗礁に乗り上げる恐れがある。

中国に進出した一部の外国企業は、中国から事業を行う条件として技術を民間や国営の合弁相手や地元当局、または中国の規制当局に引き渡すよう圧力を受けたと主張している。

外国企業のこうした不満は、2018年にトランプ大統領が仕掛けた対中貿易戦争でも中心的なテーマとなった。

だからインドとの間で国境紛争を抱える中国の企業がインドで単独で事業を行う際に自由度が最も小さいのは意外ではないとも言える。

中国企業は急成長するインド市場で成長し続けるために合弁を進めている。

シーインはアンバニ氏のリライアンス・インダストリーズと提携してインド市場に再参入。

中国の自動車大手、上汽集団(SAIC)の現地部門は2023年にサジャン・ジンダル氏のJSWグループと提携してMGブランドの車両を販売に乗り出した。

インドでは国内自動車市場で40%のシェアを誇るマルチ・スズキのように、外国企業との合弁の成功例がある。

25年前に設立されたアダニ・グループとシンガポールのウィルマーの合弁会社もインド最大の食用油ブランドを生み出した。

スマートフォン販売で顕著な成功を収めた韓国サムスンのように単独で成功した外国企業もあるが、英通信大手ボーダフォンは価格競争に苦しみ、2018年にインドの携帯通信大手アイデア・セルラーと合併した。

インド市場が外国企業に対して開かれているか否かはともかく、インド企業と外国企業との提携によって資金力の豊富なインドの財閥が一段と力を増しているのは間違いない。

参照元:REUTERS(ロイター)