「結婚したら禁煙する」約束を守らず、子どもが生まれても喫煙する夫 妻は「婚姻無効にしたい」

弁護士をイメージした写真

「結婚前から約束していたのに、夫が禁煙してくれません。離婚事由になるのだろうか」

受動喫煙が社会問題になる中、家庭内での喫煙に悩む女性から、弁護士ドットコムに相談が寄せられている。

相談者の女性は、タバコの臭いを嗅ぐと体調が悪くなることから、夫が禁煙することを条件に結婚した。

しかし、夫は子どもを授かってからも喫煙を止めることはなく、女性が何度注意をしても、禁煙をしてくれない。

女性は、夫が喫煙を続けるなら「結婚したこと自体なかったことにしたい」とまで考えているそうだ。

結婚前にした禁煙の約束を破った場合、妻は夫と離婚することはできるのだろうか。

小田紗織弁護士に聞いた。

――そもそも「禁煙する」という結婚前の「結婚の条件」は法的に効力をもつのでしょうか。また、それを理由に結婚を無効にできますか。

結婚を無効とする理由については、民法に定められており「人違いその他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないとき」と「当事者が婚姻の届出をしないとき」の二つのみが定められています(民法742条)。

また、婚姻の取消についても民法に定めがありますが、結婚する際の禁煙の約束を守らなかったことは取消事由にも該当しません。

そもそも「結婚前にした禁煙の約束」とは、どの程度具体的に約束したものでしょうか。

口約束なのか、婚前契約書を取り交わしたのか、「タバコの臭いを嗅ぐと体調が悪くなる」ことに医学的に何等かの診断があり、それを相手にも結婚前に示したうえで喫煙を約束してくれたのか等、婚前にどういったご事情があったのか。

これらに加えて、結婚生活における夫の喫煙の状況(家の中で喫煙するのか、相談者様やお子様のいる場所でも喫煙するのか、タバコの火がお子様に危険を及ぼすおそれがあるような出来事があったのか、実際に受動喫煙により健康を害された旨の診断があるのか等)が、民法の定める離婚事由の一つである「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当するかどうかの「一つの事情」にはなります。

なお、仮に婚前契約書などで明確に禁煙を約束したとしても、結婚を無効・取消にしたり、直ちに離婚事由に該当するといった結婚・離婚の効力に直結するルールを法律で定められた内容以上に定めることはできません。

あくまでも「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(民法770条1項5号)に該当するかどうかの「一つの事情」に過ぎません。

――女性が自身の体調や子どもへの悪影響をうったえても、夫が無視して喫煙を続ける場合、離婚事由になりますか。

「女性の体調や、お子様への悪影響を訴えても無視して喫煙を続ける」ことを理由に相手と離婚の話し合いをすることは勿論できますが、裁判でこれを理由に直ちに離婚が認められるかというと、それは難しいです。

先ほど説明させていただいたとおり、今回のご事情は、裁判で離婚が認められるための「離婚事由」である「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(民法770条1項5号)にあたるかどうかの一つの事情です。

――女性は夫に対して、別居した場合の婚姻費用や、慰謝料を請求することは可能でしょうか。

夫の喫煙に耐えられず別居をされた場合、婚姻費用の請求をすることはできます。

夫からすると「妻の都合で勝手に出て行ったのだから婚姻費用を払う必要はない」と言ってくる可能性はありますが、婚姻関係が解消していない以上は婚姻費用の請求は認められます。

慰謝料は、禁煙した約束を守ってくれなかったことによる精神的苦痛、受動喫煙による精神的・身体的苦痛を内容にすることになるかと思います。

単に「約束を守ってくれなかった」「受動喫煙に晒された」というだけでは足りず、それがどのように相談者様の具体的な「権利や法的利益を侵害したか」を証明する必要があります。

そこでは、やはり先ほどの「婚姻関係を継続し難い重大な事由」の事情と同様に婚前にどういう約束があったのか、結婚生活における夫の喫煙状況などがポイントになってきます。

相談者の方には厳しいことを申し上げますが、禁煙してくれないのであれば結婚をなかったことにしたいほど禁煙が重要なのであれば、禁煙したのを確認してから婚姻すべきであった、ということです。

参照元:Yahoo!ニュース