新米「先食い」で来年も米不足の可能性 農家が抱く農政への疑問

新米の収穫をイメージした写真

全国各地のスーパーから軒並みコメが消えた「令和の米騒動」。

今回のコメ不足を農家はどう受け止めているのか。

埼玉県農民運動連合会(農民連)の副会長で、埼玉産直ネットワーク協会専務理事の松本慎一さん(74)に聞いた。

――今夏、スーパーからコメが消えました。

松本慎一さん:今年は6月ごろから、関係者の間で「コメがない」と騒ぎになっていました。

7月30日の農林水産省食糧部会で報告された民間流通米の6月末の在庫は156万トン。

例年200万トン前後で推移していたのが、1999年以降最低となりました。

国内のコメ消費量は1カ月当たり60万トン弱。2カ月半分しか残っていなかったということです。

コメの会計年度は11月です。

本来、新米は10月まで持たないといけません。

それが空っぽになり9月頭から新米を出しています。

収穫するそばから売れている状態で、来年分のコメを先食いしていることと同じです。

来秋までは、今シーズンに取れたコメで過ごさないといけないのだから、理屈で言えば、先食いしてしまうと来年も同じ時期か、より早い時期にまたコメ不足になる可能性があります。

――なぜこんなことになったのでしょうか。

松本慎一さん:政府は2004年から作付面積の判断を農家や農協といった農業団体に任せ、強制的な減反はしなくなりました。

安倍政権の18年には、減反した際に農家が受け取れる補助金もゼロにしました。

一方、他の作物に転換することを推奨し、それには補助金を出しました。

翌年のコメ需要の見通しも毎年発表し、それを元に地域は生産の計画を作るよう指導しました。

その国が示す見通しは毎年減っています。

「需要が減る」と国が言うのだから、地域は生産計画を減らしますよね。

23年産のコメの需要見通しも外れました。

農水省は680万トンと発表しましたが、実際は702万トン。

間違った見通しで立てた計画で栽培・収穫したのが23年産です。

猛暑の影響で見込んだ量より更に少なくなり、収穫量は661万トンでした。

そして、今回の「令和の米騒動」です。

――コロナ禍、21年産の県産米「彩のかがやき」の価格は60キロ8000円と1万円を切り、農家から「もうやっていけない」と悲鳴が上がっていました。

松本慎一さん:このとき農水省が発表した統計では、大規模農業法人も零細農家も全部含め、主に水田で耕作している農家の平均農業所得は1万円です。

年間の作業時間は1000時間となっているので、時給換算すると10円。

それではやっていけませんよね。

離農、転作が加速しました。

00年に170万戸あったコメ農家は、23年には58万戸にまで減りました。

――今回、政府は備蓄米を放出しませんでした。

松本慎一さん:備蓄米は90万トンあります。

しかし今回、新米が出るとして放出しませんでした。

これでコメの価格は上昇し、農家は今シーズンは買いたたかれずにホッとしています。

しかし、来年は今年以上に不足する可能性があり、そうなれば、放出せざるを得ません。

そのことを考え、今回は出したくても出せなかったのかも知れません。

――24年産は主食米の作付けが増えたとも聞きました。

松本慎一さん:これまでは国がウクライナ危機などで家畜の餌が高騰したため、飼料用米への転換を推進していました。

さまざまな補助金がつき、10アール当たりの収入比較では主食用より飼料用の方が高かった。

国は24年産からその助成を段階的に引き下げています。

その影響で、主食米の作付けが増えたのだと思います。

国はいまだに増産の方向にかじを切りません。

日本米は海外でも人気です。

量を作っても輸出すれば良いのではないでしょうか。

困っている国に援助したら国際貢献にもなります。

食料自給率が38%では、有事があり、輸入できなくなった時、どうするのでしょう。

また、収入がなければ後継者はいません。

産業は廃れていきます。

しかもそれは人間に欠かせない食料の問題です。

食料自給率を上げ有事に備えるためにも、所得補償など生産者を守る施策が絶対に必要です。

農業・食料は国防だと思います。

参照元:Yahoo!ニュース