PTA予算に「田んぼの固定資産税」から「トイレのスリッパ」まで 運営費は「学校の第二のさいふ」なのか 

PTAの保護者と会合をしている教職員

PTA活動にはさまざまな課題がある。

そのひとつが、本来、公費で行われるべき学校の運営にPTAの金が使われていることだ。

総会資料の予算項目をチェックしていたときのこと。

滋賀県の小学校のPTAで副会長を務めるノリコさん(仮名、40代)は、目を見開いた。

「田園固定資産税」と記されていたためだ。

田園――。覚えはあった。

県内の小学校では、子どもたちが農業体験を通じて命や食べ物の大切さを学ぶ「たんぼのこ体験事業」が実施されている。

ノリコさんの小学校でも子どもたちが田植えから収穫までさまざまな農作業を行い、収穫した米は地元の秋祭りでおにぎりとしてふるまわれる。

「PTAが、学校が借りた田んぼの固定資産税を支払っていたんです」(ノリコさん)

水田の固定資産税のほか、「特別支援教育に関する教材」という費目もあった。

小学校は義務教育だ。

本来公費で賄われるべき支出を、なぜPTAが肩代わりしているのか。

「副会長である私にもよくわからないんです。先生がPTAの会計係で、『今年度の予算はこんなふうにしました』と決めてくる。PTAの予算は完全に学校が握っている」(同)

組んだ予算の承認を得るPTA総会を仕切るのも、教員だ。

「先生たちが議事を進めていく。私たち保護者会員は基本的に発言しないので、あれよあれよという間に終わってしまう」(同)

PTAが学校に支出する「環境整備費」も、「学校はお金がほしくなったときに使える」(同)、典型的な「第二のさいふ」になっているという。

教頭から、環境整備費で「トイレのスリッパを買い替えたい」「花壇の花を買いたい」という内容のLINEメッセージが届いたこともあった。

「会長に『この支出はダメなのでは』と伝えましたが、後日、教頭先生から『みなさま、ありがとうございました』と言われた。学校はPTA会費をあてにしすぎていると思います」(同)

今年5月末に行ったPTAに関するアンケートには、本来公費で賄うべき公立学校の備品の整備や、教育活動として行われる学校行事などにかかる経費をPTA会費から支出されているという声が寄せられた。

神奈川県に暮らすアキさん(仮名、40代)は、PTA会費で小学校のカーテンを買い替えていることに疑問を抱いた。

学校が使用する連絡メールのシステム更新料も、PTA会費から支払われていた。

「PTA会長と学校の管理職が話し合って何を買うか決めていた。その流れもおかしいと思いました」(アキさん)

PTAの書面総会で、「学校の備品をPTA会費で購入するのは地方財政法に抵触する恐れがあるので、今後は公費で購入することを検討してほしい」と訴えた。

ところがその後、会員に配られた総会報告書にはアキさんの訴えは記載されていなかった。

意見を「握りつぶされた」と感じた。

PTAは任意団体であり、入会には同意書が必要だ。

ところが、慣習的に同意をとらずに保護者や教員を加入させているPTAが相当数ある。

強制加入により徴収されたPTA会費が、学校への寄付に使われれば、地方財政法第4条の5「割当的寄付金等の禁止」に違反する可能性がある。

PTA会費について意見してから、アキさんはPTA会長から無視されるようになった。

アキさんがベルマーク委員会の活動をしていると、会長がそばにきて周囲に聞こえるような声で、こう言った。

「『PTA会費で学校のものを買うことに文句を言う保護者がいる。そういう人は学校にお金がかかるということを全然理解していない』。

私のことを言っているんだなと思いました」(同)

アキさんは、PTAが金を出さないと公立学校の運営が成り立たないことなどあってはならない、と訴える。

9年前、大分市在住のヨウコさん(仮名)は強制加入のもとに集められたPTAの金が学校に使われていることに疑問を抱いた。

「PTAに納得したうえで入会して、それで集めたお金であれば『真の自発的な寄付』になると思いますが、実際は、大半がそうではない」(ヨウコさん)

学校の備品は、学校教育法で公費による購入が原則と定められている。

しかし、文部科学省が2012年に出した「学校関係団体が実施する事業に係る兼職兼業等の取扱い及び学校における会計処理の適正化についての留意事項等について」という通知に基づいて、学校は寄付を受け取ることができる。

文科省の担当者は記者の取材に対して「学校関係団体の『真の自発的』な寄付であれば、それを妨げるものではない、と解釈されます」と説明する。

学校はPTAから寄付を受け取った際、教育委員会への報告が各自治体の「学校物品寄付受入手続」などで定められている。

ヨウコさんは市に寄付採納の文書の情報開示を求め、全市立学校の寄付の実態を調査してきた。

「グランドピアノや液晶テレビ、放送機器、プロジェクタ―など、金額の張るものもあれば、給食用の台拭き、ストロー入れなど、細々としたものもあります」(同)

寄付採納の件数は、17年は小学校が152件、中学校が54件。

23年は小学校が102件、中学校が60件だった。

「ところが、PTA新聞に学校への寄付が書かれているのに、寄付採納の文書に記載されていない物品がありました。市教委に問い合わせると『手続き漏れでした』という。もらっておきながら手続きしないのは、校長の認識が甘いと言わざるを得ません」(同)

千葉工業大学工学部教育センターの福嶋尚子准教授はこう指摘する。

「文科省や教委が『自発的な寄付であれば、受け取るのはOK』という地方財政法の例外規定、いわば逃げ道のほうを基本にしている。それが大きな問題です」

本来、寄付なしに学校運営を成立させることが設置者の義務だ。

しかし、現状は各地方自治体の定めた手続きに沿って、学校が「自発的な寄付です」と申請すれば、寄付を受け取ることができる状態になっている。

「PTAからの寄付であれば、組織運営まで精査して本当に『自発的な寄付なのか』見極めなければならないはずですが、精査なしに『自発的な寄付』で片づけられている」(福嶋准教授)

PTA予算での学校の備品購入が常態化している場合、それが「真の自発的な寄付」になっているのか、精査する必要性があるだろう。

参照元:Yahoo!ニュース