EV用電池、「中国優位」崩すのは困難

電気自動車をイメージした写真

BYD(比亜迪)の「シール」や長城汽車の「ファンキーキャット」といった中国製電気自動車(EV)が今、国際的な逆風にさらされている。

米国は中国から輸入するEVに適用する関税を従来の4倍となる100%強に引き上げ、欧州連合(EU)も一部モデルについて関税率を50%近くに変更した。

明らかに次の標的となるのは、中国製のEV用電池だ。

しかし西側にとって、この戦いを制するのはより難しいだろう。

中国は電池大国だ。

バーンスタインの分析では、寧徳時代新能源科技(CATL)と傘下企業は、2024年前半に世界中のEVに使用された電池の3分の2を供給している。

中国の電池メーカーの成長ペースも加速。

蜂巣能源科技(SVOLT)の電池搭載数は1-6月に2倍以上増加し、中創新航科技(CALB)、国軒高科、CATL、BYDの搭載数も年初からの伸びが20%余り。

収益力も高く、CATLは昨年利益が400億元(8086億円)に達した。

これらの電池の大半は輸出される。

国際貿易センター(ITC)によると、2015年から23年までに中国から出荷されたリチウムイオン電池はほぼ2倍に膨らんだ。

米国と欧州が大口の買い手となり、スウェーデンのノースボルトなど地元企業が圧迫されている。

そして西側政府が反撃に動きつつある。

バイデン米大統領は5月、輸入電池とその部品に課す関税率を7.5%から25%に上げる計画を発表。

バイデン氏の目玉政策だったインフレ抑制法における最大7500ドルのEV購入補助金は来年以降、「懸念ある外国関連企業・団体」によって素材が採掘、加工ないしリサイクルされた電池搭載車には適用されなくなる。

この対象には、中国に本社や登記がある企業、中国政府が25%以上の株式や議決権、取締役を持つ企業が含まれる。

中国メーカーは米国のインフラ整備法が定めた電池と重要鉱物の生産向け税額控除からも除外される。

米中の政治的関係が悪化している中で、こうした取り組みは強まる公算が大きい。

一番の戦略的な競争相手への依存を最小化する措置は、米国内で超党派の支持を得ている。

米当局者の間には、軍事用と民生用のどちらにも利用できる技術で中国の存在感が増していることへの不安も根強い。

電池は潜水艦や無人機にとって重要な意味を持つ。

またインフレ抑制法はバイデン氏の肝いりだが、トランプ前大統領が返り咲いたとしても、恐らく同法の全面的な撤廃はためらうだろう。

UBSのアナリスト、ティム・ブッシュ氏が指摘するように、税額控除に後押しされた電池関連投資は共和党寄りの州に集中しているからだ。

だが中国のサプライヤーへの依存からの脱却に成功するためには、西側諸国は代わりの調達先を開拓しなければならない。

韓国の電池大手LGエナジーソリューションやSKオン、サムスンSDIは、3社合計で世界市場シェアが23.5%で、米国とEU域内の事業を拡大している。

ところがこれらの企業に頼ることにはマイナス面もある。

いずれも中国メーカーに比べれば出遅れが目立ち、例えば人気が高まってきているリン酸鉄リチウムイオン電池の量産化にはまだこぎ着けられていない。

電池技術の発展は、新興企業が既存の有力メーカーを追い越す可能性をもたらす。

最も有望視されているのは、陽極と陰極の間に従来の電解液ではなく固体の電解質層を持つ全固体電池だ。

これはエネルギー密度がより高まり、航続距離を犠牲にせず車両の安全性や小型化、軽量化を促進できる。

現在は先行組がこぞって実用化に乗り出しているところで、まだ誰が主導権を握れるかは分かっていない。

ベンチマーク・ミネラルズの予想では、30年までに米国と中国がこの市場の3分の1ずつを分け合う可能性がある。

中国勢ではCATLやBYDが全固体電池開発を進め、世界最大の自動車メーカーであるトヨタ自動車は全固体電池搭載の車両が3年もすれば路上を走行してもおかしくないとしている。

ドイツのフォルクスワーゲンはニューヨークで上場しているクオンタムスケープと提携して開発中だ。

とはいえ中国の電池メーカーを超えるのはなかなか難しい。

全固体電池は引き続きリチウムを使用し、黒鉛、ニッケル、コバルトが必要な種類もある。

世界のリチウム埋蔵量のうち中国は7%しか保有していないものの、リチウム化合物生産の約80%を手中に収めている。

ニッケルとコバルトでも圧倒的な優位に立つ。

さらに中国の黒鉛市場における支配力が極めて強いため、米国は最近になって海外からの供給制限措置を緩和せざるを得なくなった。

フォード・モーターなどは、米通商代表部(USTR)に電池素材の輸入関税案の緩和を働きかけている。

また技術者たちが新たな電池技術を開発したとしても、それに必要な素材の加工は引き続き中国国内の方がコストは低いだろう。

中国は現在、他の地域のおよそ4分の3の価格で電池を提供している。

調査研究も中国国内が安価に行える。

BYDは昨年、過去最高の人員を採用したが、その80%が研究者だった。

中国企業は国内の大規模な顧客層を生かしたさまざまな試験を通じて、素早く安価に新たなアイデアの量産化や商業化にも動ける。

地元メディアによると、世界全体の全固体電池に関する特許申請の4割近くは中国発だ。

その上に政府の支援がコストを一層押し下げてくれる。

CATLは昨年、中国企業として最も多くの政府助成を受けたと報じられている。

米戦略国際問題研究所(CSIS)の調べでは、CATLが昨年手にした助成金は8億ドル(1147億円)強と、22年の2倍になった。

中国側は現状に甘んじているわけでもない。

1月には清華大学のある教授が、新技術台頭がもたらすさまざまなリスクへの備えを怠れば、電池分野における中国の優位は失われかねないと警鐘を鳴らした。

政府は6社が絡んだ全固体電池技術向けに60億元余りを投資する新たなプロジェクトの調整に動いている。

次世代電池技術を巡る戦いで勝利宣言をするのはまだ早過ぎる。

しかし中国が量産化と技術革新の両面でその強みをなくしてしまうと現時点で想像しにくい。

中国製電池を排除すれば、EVはより高価かつ洗練度の低いものになるだろう。

中国の世界的な電池供給攻勢を止めるのは非常に困難に見える。

参照元:REUTERS(ロイター)