23歳で突然のがん宣告、子供産めない体に 元アイドルが伝えたいワクチンへの理解

子宮頸がんの検診を受けている女性

20歳で上京し、憧れのアイドルへの道を進んでいた夏目亜希さん(33)は23歳のとき、突然のがん宣告を受ける。

病名は「子宮頸がん」。

比較的初期に見つかったが、リンパ節にも転移があり、放射線治療を受けて子どもが産めない体になった。

夏目さんには大きな後悔があった。

子宮頸がんを予防できる「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン」の存在は知っていたが、自分には関係ないと接種していなかった。

専門家によると、世界では男女ともにHPVワクチンの接種が進む中、先進国では日本だけが大きく遅れているのが現状だという。

「きっとみんなも自分の将来は自分の手で選びたいと思いますが、このがんになるとそれは無理です。」

京都府舞鶴市で高校生を前にがんの闘病生活について講演する地元出身の夏目さんは、2011年、20歳の時に学生時代から憧れていたアイドルになるため上京した。

TV出演やCDデビューを果たすなど、一歩ずつ夢をかなえていた。

しかし、23歳の時、生理でもないのに不正出血が続き、熱も出てきたという。

普段とは違う体の異変を感じ、産婦人科を受診すると、がんの検査を受けるよう指示された。

「(医師から)お母さん呼んでくれますかと言われて。東京の病院にいて、舞鶴にいるお母さんを呼ぶんですか?って言ったんですけど、呼んでくださいと言われて。あ、もうこれは“がん”ということなんかなとそこで察しました。」

精密検査の結果、診断は『子宮頸がん』。

これから…という時だった。

「びっくりしたというか、23歳だったので、そんな年でがんになるの?というのと、子宮頸がんって何なん?というのを全く知らなかったので。悲しさと驚きと、なんで自分が・・・という思いでしたね。」

子宮頸がんとは、子宮頸部にできるがんで、主に『ヒトパピローマウイルス(HPV)』というウイルスで、キスを含む性交渉を通して男性からも女性からも感染する。

性交渉の経験がある人の感染率は8割以上とも言われるありふれたウイルスで、感染してもほとんどは自然と体から出ていきますが、一部は悪化し、女性の場合は『子宮頸がん』へと進行する。

1年に1万人以上の女性が罹患し、約3000人が亡くなっている。

男性では「中咽頭がん」や「肛門がん」の原因となり、「集団免疫」をつける観点などから、オーストラリアなどでは男女ともにワクチン接種が進んでいる。

若くして診断を受けた夏目さんが、特に気がかりだったのが「子どもを持つことはできるのだろうか」ということだった。

本格的な治療に入る前、夏目さんは医師と相談し、がんの部分だけを手術で取り除き子宮を残すことはできないか、他にも、卵子凍結して、将来子供を持つ選択肢を残すことはできないかなど、必死に方法を探した。

しかし、がんは子宮頸部だけでなくリンパ節にも転移していて、治療法は卵巣の機能を失う「放射線治療」しかなかった。

卵子凍結も、がんが周りに飛び散る可能性があるからと、断られた。

夏目さんのがんは比較的早い段階で見つかったが、23歳で子どもを諦める選択をせざるを得なかった。

「(医師から)子供云々はもちろん大事やけど、命をまず一番に優先した方がいいと言われて、治療の選択が自分でできる状態じゃなかった。めっちゃ悲しい気持ちはあるけれど…やっぱり生きることも大切。ちゃんとがんと向き合って、戦っていかなあかんと思いました」

そんな時、夏目さんを支えたのが母でした。

子どもなんか産まんでもええんや。子供なんかおっても大変なだけや。おかぁは最初からそう思とった。

夏目さんが、母親から言われた言葉だ。

「すごく救われましたね、その言葉に。本当は(子どもが)好きなんやろうし、孫できたら絶対嬉しいと思うんですけど、でもあえてそんなふうに私に気を遣わせへんように」

そして始まった治療。

治療台の上で両足を持ち上げ、膣から器具を入れて放射線の照射を行うというもので23歳の夏目さんにとっては心身ともに大きな負担となった。

治療は膣から直接放射線を照射する治療だった。

麻酔もなく、治療器具を入れるので、体内が傷つかないようにガーゼが入れられたいう。

壮絶な痛みに耐える様子が、当時のブログに残されていた。

先生:はいもう一個太い管とおります。

私:ふーふー、痛い痛い!!うぅ!

看護師:頑張れ頑張れ!あともう少し!

私:もういやだ、この後のガーゼもいたい!

看護師:ガーゼも痛いよね、頑張って!

私: あと何枚ですか(涙)(夏目さんのブログより)

こうした治療が1週間に1回あったという。

1年をかけて壮絶な治療を乗り越え、がんを取り除くことができたが、夏目さんには大きな後悔があった。

子宮頸がんはHPVの感染が主な原因ですが、予防するためのワクチンがある。

厚労省によると、HPVにはいくつか型があるが、現在では「HPVワクチン」接種により8~9割も子宮頸がんを予防できるといわれている。

ワクチンの存在を知ってはいたものの、”自分には関係ない”と思い接種しなかった。

しかし、がんになってから、夏目さんのHPVの型はワクチンを打っていれば予防できた可能性があったと医師から聞いた。

「今思ったら、ちゃんと知っておきたかったし、後悔しています。23歳で知るのでは遅かったんですよ、私は」

子宮頸がんの研究を行う大阪大学病院の上田豊医師は、日本はワクチンの理解が進んでおらず子宮頸がんに関して危機的な状況にあるという。

(上田豊医師)「HPVワクチンを早期に導入された国々では、子宮頸がんの患者数が減ってきているというデータも出始めてます。日本ではまだ、逆に頸がんがまだ増えているという、すごく残念な状況です」

その理由は2013年に定期接種が始まった直後、「副反応」を訴える声があり接種の呼びかけが約10年間控えられていたからだという。

現在は、安全性が報告されましたがその影響は今も大きく残っている。

(上田豊医師)「本来だったら(ワクチン接種で)子宮頸がんで命を落とさなくて済んだ4000人~5000人とか、そういう数の人が(今後)子宮頸がんで命を落とすということが予想されています。」

現在、夏目さんの症状は落ち着き、2019年から東京都荒川区の議員として、子宮頸がんやワクチンについて認知度や接種率をあげようと活動している。

進まない教育現場の理解HPVワクチン学校現場でもワクチンに関する教育や理解はまだ進んでいない。

夏目さんは、学校の講演などで教育を進めようとしても「教育委員会」によって許可が出ない場合があるという。

しかし、夏目さんのように辛い思いをする人を1人でも減らすため活動を続けるつもりだ。

「知ることで命が守れるなら、本当にめっちゃいいことじゃないですか。自分は知らなくて子供が産めなくなったり、死んでいた可能性もあるので、接種世代の子たちに将来、検診とワクチンを受けてもらえるように伝えていきたいなと思います。」

参照元∶Yahoo!ニュース