海外マネーが揺さぶる株式市場、日銀の利上げ戦略に影と専門家
日銀は想定通り、利上げ戦略を堅持できるのか。
エコノミストの間では、海外投機筋の影響が大きい日本の株式市場の動向次第では利上げ判断の足かせになりかねないとの指摘が出ている。
海外勢は一方向に傾きやすい投資行動に出ることが多く、安定しつつあるように見える市場も、きっかけ次第で再び株価急落のリスクがあるという。
日銀自体は利上げ戦略の継続を鮮明にしている。
植田和男総裁は23日に国会で行われた閉会中審査で、市場動向が経済・物価見通しやリスクに及ぼす影響を見極めた上で「経済・物価見通しがおおむね実現していく姿になっていけば、金融緩和度合いを調整していくという基本的な姿勢には変わりがない」と強調し、氷見野良三副総裁も28日の講演で同調した。
市場にハト派的と受け止められたが、日銀内では、内田副総裁の講演は金融市場が不安定な状況下で行われたもので、市場に安心感を与えるのが何より重要だったとの指摘が出ている。
日銀が利上げ局面に踏み出した以上、経済・物価見通しの実現度合いが政策を左右するというのは何も変わっていないとの声も出ている。
円高に振れたことで輸入物価上昇を通じた物価の上振れリスクは後退したものの、株価が急速に戻していることから経済・物価見通しへの影響は今のところ軽微にとどまるとの見方も、日銀では聞かれる。
一方、日銀の楽観論とは距離を置く市場関係者は多くいる。
5日から6日にかけて歴史的な乱高下を演じた日経平均株価が何らかのきっかけで再び急落するリスクはまだあるとの指摘だ。
5日の日本株の下げ幅を増幅したのは商品投資顧問業(CTA)と呼ばれる海外のヘッジファンドだ。
JPモルガン証券の高田将成クオンツ・ストラテジストによれば、CTAの8割が順張り戦略を取っており、「ボラティリティが上昇する下げ相場では、機械的な売りを優先するため下げ相場をあおる傾向がある」という。
信用買い残は暴落前の段階で4兆8720億円。
4兆円台まで膨らんで推移が続くのは2007年以来で、CTAの売りがこうした需給面での潜在的な売りを巻き込む形となった。
また高田氏によれば、昨年来、先物だけでなく現物市場でもトレンドフォローの戦略を運用する海外マネーが流入しているという。
「企業の本質的価値よりも株価自体をテクニカルに重視するファンドのため、株価が上がれば買い、下がれば売るの繰り返しとなり、ボラティリティの高さと合わさり必要以上の値幅を形成したフローが少なくなかった」と話す。
高田氏は、今回の急落の引き金が日銀の金融政策や米国の経済指標だったように、何らかのニュースで再び株価が急落する可能性はあるとみている。
「CTAなどもまだ半分近くしか株先ロングの処分を行っておらず、不測のショックに対しては追加売りが要求される可能性が残る」と指摘する。
氷見野副総裁は28日の会見で「内外の金融資本市場の動向が、(経済・物価の見通しが実現する)確度に影響を与えていくということも、もちろんある」と述べた。
SBI新生銀行の森翔太郎シニアエコノミストは「金融市場の動向を全く考慮せずに金融政策運営を行うことは基本的にはないだろう」と指摘する。
森氏は日銀の追加利上げについて、来年1月がメインシナリオ、早ければ12月と想定。
一方、「程度にもよるが、金融市場の不安定化が経済・物価の下振れリスクを高め得ると判断した場合は利上げの時期やペースを再考する可能性もある」とみている。
参照元∶REUTERS(ロイター)