「餓死すればキリストに会える」カルト信者429人死亡、断食に参加した少女「ママが言うから従った」 ケニア

キリスト教の信者をイメージした写真

ケニアで昨年、終末論を説くカルト教団が「餓死すればキリストに会える」と信者に断食を強要し、子供191人を含む信者429人が死亡する事件が起きた。

犠牲者の多くはコロナ禍が生活を直撃した貧困層で、教団は生活不安につけ込んで勢力を拡大した。

「断食して死ねばキリストに会えると教祖が言った。ママがその通りにしなさいと言うから従った」。

ケニア東部モンバサの裁判所。

遮蔽(しゃへい)用のついたての奥の証言台で、断食に参加した少女(17)が経緯を述べた。

断食は幼い子供から始まり、10代の少年少女、次に女性、最後に男性の順と決められたという。

法廷には被告90人以上がすし詰め状態で座り、教祖のポール・マッケンジー被告(48)は体を斜めに傾けて腕組みしていた。

事件は昨年4月に発覚した。

東部マリンディ近郊の森にある教団施設に行ったまま戻らない信者の家族から通報を受け、警察が捜索したところ、集団墓地から429人の遺体が見つかった。

このほか600人以上の信者が行方不明で、森に埋められているとみられている。

殺人、子供虐待、テロなどの罪で訴追された教祖らは無罪を主張している。

動機は謎のままだ。

マッケンジー被告は元タクシー運転手で、2003年に教団を設立。

マリンディを拠点に信者を勧誘し、「キリストに仕える者」と自称した。

貧困層が多い信者には病院と学校への通院、登校を禁じた。

19年に拠点を森に移し、ベツレヘムやナザレなどと称する拠点に信者を隔離した。

子連れ女性が多かった。

元信者の女性(30)は、被告の祈りのおかげで胃病が改善したと信じた。

アルコール中毒だった夫も酒をやめたという。

「子供は泣いていたけど、キリストに近づいていると信じて断食させた」と事件を振り返った。

ケニアはアフリカ有数のキリスト教国で、信者は人口の約85%を占める。

うち約20%が聖書に忠実な福音派とされる。

かつて強かった英米の教会との結びつきは薄まり、財政難の教会が多く、日曜以外は扉を閉める教会もある。

生活に苦しむ信者は、祈りをささげられる場所を探し教会を転々とする。

コロナ禍で、教団は勢力を広げた。

ワクチンの供給が不足したアフリカ諸国では経済の痛みも長引いた。

生活困窮者の不安は、恒常的な拠点を持つ教団の追い風となった。

大家族の洗濯物がはためく長屋の一角で暮らすコーヒーの露天商スティーブ・ムウィティさん(46)は、入信した妻(40)に連れて行かれた子供5人を、事件で失った。

妻の内職を合わせた稼ぎは1日約220シリング(約250円)。

「教団の農場ならもっと稼げる」。

子供を大学に行かせる希望を抱いていた妻は、コロナ禍の困窮生活から脱しようと家を出た。

事件後に救出され、カウンセリング施設に入所中だ。

記者が貧困層の住宅街に立つ施設を訪ねると、敷地の隣で暮らす被告の母が取材に応じた。

被告が子供の頃、足を痛めて歩けなかった時、「聖書を足に置いて寝ていたら、キリストが舞い降りて治してくれた」と主張した。

生活苦からカルト教団に入信した信者らは、こうした「奇跡」にすがろうとする傾向があったとの見方がある。

「信者は(許しや救いではなく)奇跡を求めている」。

マリンディの宗教指導者アイザック・マンビーラさん(58)はこう指摘した。

参照元:Yahoo!ニュース