毎年起こる子どもの溺水事故! 子どもは10センチの水でも溺れることを忘れないで

プールサイドを撮影した写真

2024年夏、今年も猛暑日が続いている。

暑くなりプール、海などで遊ぶ機会が増えると心配なのが溺水事故。

子どもの溺水事故を防ぐにはどうしたらいいのだろうか。

小児救急が専門の富山大学附属病院小児科 種市尋宙先生に聞いた。

こども家庭庁が、2024年3月に発表した「子どもの不慮の事故の発生傾向と対策等」によると、直近5年間で、溺水による死亡事故は246件だった。

浴槽での溺水が最も多く、次いで自然水域での溺水が多く、プールでの溺水は4.2%だった。

――学校のプールの授業など、指導者がいる中でも事故は起こっています。どうしてでしょうか? 

種市先生(以下敬称略)∶子どもも大人も溺れるときは、静かに溺れて沈んでいきます。溺れるときは口の中に水が入ってしまうので「助けて~」など叫べません。水から手が出ていればバタバタしますが、長い時間ではありません。隣にいる人すら溺れていることに気づかないまま、水に沈んでしまうことがあります。

テレビドラマなどの影響なのか、溺れるときはバタバタと音を出したり、暴れたりするのでは?と思っている人もいるようですが、それは間違いです。溺れるときは静かなんです。

実は私の息子が幼児のころ、水泳教室で溺れているのを目撃したことがあります。私はガラス張りの保護者席から見ていて、子どもが深みにはまり「あっ溺れている!」と気づいたのですが、コーチは気づいていませんでした。

とっさに「だれも気づかなかったら、急いで助けに行かないと!どの経路で行くと最も早くプールに行けるか?」と考えていました。するとコーチが気づいて助けてくれたという経験があります。

溺れたことに瞬時に気づいて助けることはたいへん難しいです。コーチや監視員の人数を増やしたからといって溺水事故は完全には防げないと思います。子どもの命を守るために、ほかの対策が必要です。

子どもの事故を防ぐには3Eの考え方が大切です。3Eとは、Education(教育)、Environment(製品・環境デザイン)、Enforcement(法規制)です。種市先生は、溺水事故を防ぐにはとくにEnvironment(製品・環境デザイン)が欠かせないと言います。

――プールでの溺水を防ぐにはどうしたらいいのでしょうか。

種市∶3Eの中で、最も効果的なのはEnforcement(法規制)です。しかし法律を作るのは容易ではありません。すぐに対応するのは難しいです。
そこで期待されるのが、Environment(製品・環境デザイン)です。

海外では溺水を防ぐ製品やシステムが開発されて、活用されています。たとえばアメリカでは、水の中に沈んだときにすぐに発見できるように、泳ぐ人の頭にセンサーつきの軽量タイマーをベルトのようにつけて、潜っている時間に異変を感じた場合は、瞬時に監視員などに知らせるシステムが開発されています。

ノルウェーでは、水中カメラで監視して、水の中に沈んでいる人を検知すると、すぐに無線アラームで監視員などに知らせるシステムがあり、多くの施設で採用されています。

子どもが溺れたときは、一刻も早く救助することが必要です。溺水事故は人の目だけに頼って、防げる事故ではありません。AI技術を駆使して見守ることが不可欠です。日本でもなるべく早く、何らかのシステムを使って環境整備をすることが必要だと思います。

子どもの溺水事故は浴槽で起こることが最も多いです。

――家庭でのおふろでの溺水は、どのようにして防ぐといいのでしょうか。

種市∶入浴中に起こってしまう子どもの溺水事故は、プールや海で溺れたときに周囲が気づきづらい状況とは異なります。

自宅は、見守りができるので、ママ・パパの見守りとテクノロジーの両方で事故を防ぐことが最良と思います。

テクノロジーの面では、日本では一部の有料老人ホームで、浴槽に入っている人の心拍、呼吸に異変を検知すると、アラートが鳴り、浴槽の水が自動的に排水されるシステムを導入しています。いつかはこうしたシステムが、一般家庭にも普及するのが望ましいと思います。

しかし、すぐにできる対策としては、入浴中はママ・パパが絶対に目を離さないことです。子どもがおふろで溺れて救急搬送されてきた際、ママ・パパに事情を聞くと「急な用事を思い出して、おふろ場に子どもだけ残してしまった」「きょうだいだけでおふろに入れてしまった」などの発言を聞いた経験があります。これは防げた事故です。子どもは10センチの水でも溺れるということをしっかり頭に入れて、目を離さないでほしいです。

溺水事故はひとごとではありません。プールや海に遊びに行くときは、必ず事故を防ぐための対策をとってください。

――溺水から子どもを守るために、ママ・パパができることを教えてください。
     
種市∶先ほども触れましたが、3Eの中で家庭でできることは、Education(教育)です。子どもに水の危険性を教えてください。またため池、用水路、川など近寄ってはいけない場所や近寄ってはいけない理由を教えてあげてください。何度も根気よく教え続けることが大切です。

プール、海、おふろなどの水がある場所では子どもから目を離さないでください。

できればプール、海、川などで遊ぶときは子どもにはライフジャケットなどを正しく着用させて、見守る親も万一に備えて、浮輪などを持っておきましょう。

またライフジャケットを着ているから、絶対安全とは思わないでください。過去には、ライフジャケットを着ているのに、プールの大型遊具(マット)の下でうつぶせの状態で亡くなって見つかった8歳の女の子がいます。

――水色の水着は、万一、プールの底に沈んでしまったときに発見が遅れるという人もいるようです。そうしたエビデンスはあるのでしょうか。
     
種市∶私も調べたのですが、医学的なエビデンス(科学的根拠・裏付け)はないようです。ただプールなどは水色に塗装されていることが多いので、万一、水の中に沈んでしまった場合、溶け込みやすい水色の水着だと見つけにくいだろうことは想像できます。

そのため目立つ色の水着を着せたり、目立つ色の帽子をかぶせたほうがいいでしょう。          

――ママ・パパも心肺蘇生ができるようになったほうがいいのでしょうか。

種市∶溺水事故から命を救うには、一刻も早く助けて、意識と呼吸が認められなければ、その場で心肺蘇生をすぐに行う必要があります。救急車が到着するのを待っていては手遅れになります。

そのためママ・パパには、心肺蘇生が学べる講習会などに年1回は参加してほしいと思います。継続して学ぶことが大切です。

忙しくて講習会などに参加する時間がないというママ・パパは、YouTubeで東京消防庁が乳児、小児の心肺蘇生のやり方を紹介しているので見てみてください。動画では人形を使って心肺蘇生を行っていますが、空の2リットルのペットボトルでも代用できます。

人が多いプールなどで溺れると「だれか、きっと気づいて助けてくれるのでは?」と思うママ・パパもいるかもしれない。

しかし種市先生は「隣で溺れていても気づかないことがある」と言う。

参照元:Yahoo!ニュース