「卒業アルバム」がなくなる日 性的加工、情報流出リスク 存続求める声強く、進化模索も

卒業アルバムをイメージした写真

卒業アルバム(卒アル)が存続の危機に直面している。

最近は、卒アルに掲載された写真が生成人工知能(AI)で性的な画像に加工されSNSで拡散されたり、卒アル制作の関連会社がサイバー攻撃を受ける被害も相次ぐ。

こうしたリスクの回避や教師の負担軽減の観点から、一部で卒アル廃止を検討する動きが出始めているという。

学校生活を振り返る卒アルという文化を守っていくには、リスクへの対策が欠かせない状況だ。

4月から5月にかけ、関東や東北地方を中心に卒アルの印刷などを請け負う制作会社がサイバー攻撃を受け、卒業生らの個人情報が流出した可能性がある被害が続発した。

写真関連事業者などでつくる日本写真館協会の隈川英孝専務理事は「特定の標的を定めず、広く浅く攻撃する巡回型サイバー攻撃とみられる」と分析。

現時点で情報流出といった二次被害は確認されていないと強調する。

とはいえ、今回の一連の被害については、「プライバシーマーク(Pマーク)」取得事業者からの報告のみで、被害の全容は解明されていないのが実情だ。

適切に個人情報を取り扱う事業者に付与される「Pマーク」を取得していれば、個人情報に関する事故が発生した場合、Pマーク審査機関に報告する義務があるが、それ以外の事業者は報告義務がない。

そのため、隈川氏は「実際にはものすごい数の被害があるのではないか」とみる。

写真事業者側も対策を怠ってきたわけではない。

同協会は、2013年に写真館向けの個人情報保護を目的とした自主的な資格認定制度「フォトセキュリティマイスターシステム(PSMS)」を導入。

同協会主催の講習会を受講し、個人情報保護に関する知識や理解度を確認する試験などを経て認定される制度で、同協会会員のうち「約4割が認定資格を取得している」と隈川氏は説明する。

また、同協会ではサイバー攻撃を受けた際の損害などを補償する保険やトラブル時に対応できる顧問弁護士を用意しており、「サイバーセキュリティーに関しては、業界ではかなり細かく対策を実施している」と胸を張る。

ただ、「企業規模によって危機意識や対応にも差がある」と隈川氏。

中小や零細の写真事業者では、セキュリティーが脆弱化するサーバーの交換やメンテナンス時にサイバー攻撃を受ける被害も散見されるという。

一方で、写真の取り扱いに関する著しいモラルの低下も大きな課題だ。

今年7月には、卒アルに載っている生徒の写真を悪用し、性的に加工された252人分の画像や動画がSNS上に投稿されていることが民間団体の調査で判明。

さらには、教員らが女子児童を盗撮しSNSのグループチャットで画像を共有したとされる事件も明らかになった。

「こうした事件が報じられる度に、卒アルを廃止しようという議論が巻き起こるのではないかと危惧している」。

そう話すのは、写真販売システムを運営するITベンチャー「エグゼック」(東京)の古田貴也社長だ。

「過重労働が指摘される教師の業務改善の観点もあり、卒アルの廃止や製本された卒アルの代替としてフォトブックのような簡易的なもので済ませようとする動きもある」という。

卒アル制作に伴う教師の負担軽減を図ろうと、同社は生徒の顔をAIで選別する技術を活用し、卒アルに登場する生徒の回数調整を効率化するサービス「アルバムスクラム」を提供している。

7月現在で全国3000を超える小中学校で採用され、卒アル制作の時間の大幅短縮に寄与するなど成果をあげている。

だが一方で、そのAI技術の進歩で、容易かつ精巧な画像加工が可能になり、SNSの普及で性的に加工された画像の拡散する範囲や速度が急激に増し、被害が拡大した側面もある。

制作現場では、画像データの不正コピーを防ぐ「電子透かし」の利用やパスワード管理などで一定程度の流出を防ぐ対策が模索される。

ただ、製本された紙の卒アルからスキャンされた画像の対策は難しいという。

紙幣に使われているようなコピー防止機能を卒アルに施す手法も考えられるが、手間やコスト面が課題となっている。

少子化に加え、学校行事などを撮影するカメラマンの不足や物価高の影響を受け、卒アル制作の単価は上昇傾向にある。

地域によっては1冊3万円以上に値上がりしており、東京都などの一部では卒アルの購入負担を軽減するための補助金を支給する自治体もある。

さまざまな逆風にさらされる卒アルだが、依然、存続を求める声は多い。

同社が昨年度に小中学校に通う子供の保護者約2万人に実施した卒アルに関するアンケート調査では、81.7%が「なくならないでほしい」と回答。

「なくなってもよい」と回答したのはわずか6.1%で、卒アルの文化を残したい意向の強さを反映した結果となった。

一方で、「分からない」との回答が12.2%を占めたが、古田氏は「無視できない数字」と危機感を募らす。

「卒アルからの性的な画像加工や情報流出などのリスクがさらに高まれば、『なくなってもよい』との判断に変わる可能性がある人たちが約1割もいるということ」と分析する。

「卒アルを存続させるためには、単純に生徒から『欲しい』と思われるものに仕上げるべく、進化させないといけない」と古田氏。

最近では、付加価値を高めるため、小中学校で卒アル作りを授業に取り入れるよう働きかける活動を積極化させている。

これまで一部の教師や児童・生徒のみが携わっていた編集・制作に卒業生全員が関わるようにすることで、より思い出に残る卒アルに仕上げる狙いだ。

参照元:Yahoo!ニュース