多摩川「バーベキュー」でごみ放置が深刻化 激増する外国人と清掃ボランティアのジレンマ

首都圏を流れる多摩川で、キャンプやバーベキューの人気が外国人の間で高まっている。
一方、ごみ放置などの問題が深刻化している。
7月中旬、東京都青梅市「釜の淵公園」に隣接する河原は、バーベキュー客でにぎわっていた。
うち、9割前後は外国人のようだ。
数十のテントが立ち並び、耳慣れない外国語が飛び交うさまは、「多国籍テント村」といった雰囲気だ。
キャンプ道具は凝ったものではなく、「生活の延長」という印象だ。
使い込まれた調理器具で、肉や野菜を慣れた手つきで下ごしらえしている。
あるグループの写真を撮らせてもらうと、「お兄さんドウゾ」と言われ、香辛料をたっぷりまぶした羊肉の串焼きをごちそうになった。
バングラデシュ出身だという。
食事が一段落すると、湯を沸かし、茶を飲んでくつろぐ。
マットや布団を持ち込んでいる人もいる。
豊かな時間なのだな――。
アウトドア好きとしては彼らの笑顔に和んでしまう。
一転、にわかに慌ただしくなったのは、日が暮れかけたころだった。
「人が刺された。外国人グループ同士のトラブルのようだ」
付近で活動していた清掃ボランティアの男性が、あぜんとして教えてくれた。
現場は50メートルほど上流。
グループ同士の口論がけんかに発展、1人が相手の男性をバーベキュー用の金串で刺したという。
外国人の男女が流ちょうな日本語でことの経緯を警察官に訴えていた。
その様子を数十人の外国人が見守っている。
幸い、大きなけがにはいたらなかったようだが、警察官10人以上が出動する騒ぎになった。
多摩川でバーベキュー客によるごみ投棄が深刻化している――。
そう聞いて、取材に来た日のことだった。
釜の淵公園周辺では、地元ボランティアが市から委託された「環境美化委員」として清掃活動を行っている。
当日も活動中の5、6人を見かけた。
だが、外国人に、ごみを持ち帰るよう注意をうながすことについては、及び腰だ。
「身の危険を感じる」という。
言葉の壁や文化の違い、もしかしたら先入観もあるかもしれない、と思っていた。
だが、こうした事件があっては、恐怖心や警戒心を抱くなというのも難しいだろう。
同市でゴムボートによる川下りの会社を営む柴田大吾さんは、5年前から毎週月曜に多摩川上流域の河原で清掃活動を行ってきた。
柴田さんによると、この公園でキャンプやバーベキューを楽しんでいる人は、主に日本に住むアジア人で、東アジアから中東にいたる幅広い地域からやってきた人たちのようだという。
公園に大きなテントを張りっぱなしにしているグループも複数あり、人が入れ代わり立ち代わり、別荘のように利用しているという。
「テントに行けば、同郷の人に会えるから楽しいのでしょう。そこから出勤したりする人もいるようです」(柴田さん)
コンロを使わずに、河原に直接置いたまきや炭で調理する人もいる。
バーベキューで出たごみを燃やしたり、調理器具や食器を洗ったりする人もいる。
市はこの3つの行為をしないように訴えているが、十分には守られていない。
柴田さんは、河原が「無法地帯になってきた気配がある」と、憂慮する。
さらに、今年は6月下旬以降、一気に放置ごみが増えた。
「ここ2、3年なかったほどの量です。ひっくり返ったバーベキューコンロが放置されていたり、空き缶が詰まった段ボール箱が草むらに捨てられていたりしました」
まだ、夏休みは始まったばかりだ。
「川遊びやバーベキューがピークとなる8月にはどうなるのか、心配です。決して悪い人たちではないと思いますが、文化の違いなのか、悪気なくごみを散らかして帰る人もいる」(柴田さん)
釜の淵公園の河原は20年以上前から知る人ぞ知るキャンプの穴場だった。
同好の士の間にはごみを持ち帰る自主ルールがあり、新参者には「マナーを守ろう」と、声がけして、秩序を保ってきたという。
だが、コロナ禍をきっかけにこの場所が急激に注目されるようになり、外国人利用者が増えると、ごみ捨てについてのマナーやルールも、いつの間にか消滅してしまったようだ。
バーベキューのごみ問題は、かつては都市部で発生していた。
神奈川県川崎市の担当者によると、多摩川でのバーベキューが雑誌やネットで紹介され、利用者が増えてモラルが低下。
ごみの大量投棄などが問題となったのは、20年ほど前のことだ。
国土交通省京浜河川事務所の担当者は、「特に深刻だったのが東急電鉄の二子新地駅から近い二子橋(川崎市高津区)付近です」と話す。
川崎市は2011年、「多摩川河川敷バーベキュー適正利用計画」を作成し、都市公園条例を一部改正、市が管理する河川敷の占有区域でのバーベキュー規制を行った。
その後、有料のバーベキュー場「多摩川緑地バーベキュー広場」が設けられ、指定管理者が24時間態勢で見回りをするようになった。
柴田さんは言う。
「以前と比べれば、二子橋や丸子橋(川崎市中原区)のごみは確かに減ったかもしれませんが、川面から観察すると、まだ多くのごみが見受けられます」
柴田さんは今年6月、東京都立川市の中学生とともに6日間かけて多摩川の源流から河口まで約140キロを下った。
さまざまな河原で、バーベキューを楽しむ外国人を見かけたという。
放置ごみの急激な増加は、外国人バーベキュー客が増えたからなのだろうか。
気になって夕方まで様子を見守っていると、大半の人々はごみをきちんと持ち帰っていた。
大きなごみ袋をいくつも手にしたネパール人のグループは、「家に持ち帰って、分別して捨てます」と語った。
ただ、あまりにも多くの人々が河原を訪れるため、少数でも不心得者がいると、放置ごみはそれなりの量になってしまう。
花見や花火などのイベントで同様の問題がたびたび発生していることを考えれば、おそらくそこに外国人も日本人も関係ないはずだ。
また、地元の清掃ボランティアの呼びかけを知らない人がいる可能性も考えられる。
青梅市は今年度、釜の淵公園の河原を訪れるバーベキュー客によるごみの不法投棄について、実態調査を行っている。
柴田さんはこう話す。
「マナーを守らない一部の人たちのために、多くの人々が河原から締め出される事態は避けたい。啓発活動が必要だと思いますが、シンプルなことなのに、なかなか伝わらないのが現状です」
多摩川は日本人にとっても外国人にとっても憩いの場だ。
豊かな川辺の文化がいつまでも続くことを願っている。
参照元:Yahoo!ニュース