口コミ欄の中傷、賠償どこまで 歯科医師・調査に55万円「勝訴しても損害」

インターネットの口コミ欄で中傷され、名誉を毀損(きそん)されたとして、大阪府内の歯科医師2人が投稿者に慰謝料など330万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が25日、大阪高裁で言い渡される。
1審・大阪地裁が認定した賠償額は26万円で、投稿者の特定にかかった調査費にさえ満たず、歯科医師側が控訴していた。
「勝訴しても損害が残る『二次被害』だ」と訴えている。
「知識は20年以上前のもの」。
親子2代にわたり歯科医院を経営する歯科医師2人は2023年5月、グーグルマップ上に表示された自院の口コミ欄に目が留まった。
この投稿者は別の歯科医院の口コミ欄にも、2人の医院名の頭文字をアルファベットで記し、「子どもを連れて行ったが怖がった」と書き込んでいた。
2人は弁護士に相談。
プロバイダーに投稿者情報の開示を求め、一度来院したことのある近所の40歳代女性と判明した。
調査には55万円かかった。
この費用に慰謝料などを加えた計330万円を求め、昨年1月に提訴した。
投稿者側は訴訟で「投稿は事実で、名誉を傷つけていない」と反論した。
今年1月の地裁判決は、投稿者が2人の医院を訪れた際、子どもは連れていなかったなどと指摘。
20年以上前の知識という記述も含め、「投稿は真実ではなく、社会的評価を低下させた」と判断した。
賠償額26万円の内訳は慰謝料20万円、調査費4万円、弁護士費用2万円。
調査費については、慰謝料の2割とし、詳しい理由は示されなかった。
歯科医師側は控訴審で、調査費の算出に合理的な根拠はなく、全額の賠償を認めた判例が複数あると主張。
投稿者側は「賠償額に関する地裁の認定は、経験則に沿った妥当な判断だ」と反論した。
原告の歯科医師1人が取材に応じ、「投稿は数分の手間だが、投稿された側は多くの時間や費用、労力を強いられる。被害に見合う賠償を認め、不適切な投稿の抑止力となる判決を出してほしい」と語った。
被告の投稿者の代理人弁護士は取材に「口コミの影響は極めて限定的で、仮に損害があっても程度は小さい」としている。
医療機関に対するネット上の誹謗(ひぼう)中傷は、深刻な問題となっている。
日本医師会が1月に設置した相談窓口には、6月末までの5か月間で175件の相談が寄せられた。
米グーグル提供のグーグルマップの口コミ欄に、治療法や診察時の態度について事実と異なる内容が書き込まれるケースが目立つという。
同会は「投稿を見た人が来院を控える『風評被害』のリスクがあるが、投稿者を特定して訴訟を起こすコストを考え、泣き寝入りする医師は多い」としている。
全国の医師や医療法人は昨年4月、こうした投稿を放置し、削除依頼にも応じていないとしてグーグルに損害賠償を求める集団訴訟を東京地裁に起こした。
今年4月には情報流通プラットフォーム対処法が施行され、SNSを運営する大手事業者に対し、投稿の削除を申請する窓口の設置や削除基準の公表が義務付けられた。
事業者は、申請から7日以内に削除の可否を通知する必要がある。
大阪大の猪俣敦夫教授(情報セキュリティー)は「新法は医師の負担を減らす第一歩で、風評被害の減少が期待できる」と評価。
一方で、「正しい情報まで削除されると、第三者による情報操作という別の脅威が生まれる。国は、適切な削除基準を作るための指針を示すべきだ」と指摘する。
参照元:Yahoo!ニュース