保育園の倒産件数が過去最高ペース てぃ先生「もうどうしようもない状況」 親側も“質”を選ぶ? 経営と優先すべきは

先日「保育園の倒産件数が過去最高ペースを記録」というニュースが報じられた。
保育園の運営事業者の倒産や廃業がこの上半期で前年同期比7割増と、過去最高ペースで進んでいるという。
その背景にあるというのが「園児の不足」だ。
待機児童ゼロを目標に、保育施設の増加や無償化が進んだ一方で、加速し続ける少子化。
9割近い自治体で待機児童問題は解消し、保育園同士が園児を奪う時代に突入した。
さらに給食の材料高騰や、保育士不足で受け入れ定員数を埋められず、経営を圧迫する事態になっている。
そんな中、経済界からは「保育サービス拡充のため外国人保育士の受け入れを拡大すべき」との声が上がった。
しかしネットでは「外国人が日本の子育て文化を深く理解するのは難しい」「短期の研修では保育の質を保てると思えない」との懸念が。
一方で「介護分野で外国人活用が広がっているのだから、保育園でもアリ」という意見もある。
保育業界の2025年問題とも言われる倒産にどう向き合うか。
『ABEMA Prime』では、保育従事者とともに考えた。
保育園や幼稚園などに経営コンサルタントを行う、株式会社いちたす代表の大窪由衣氏が、「保育園倒産増」の理由を考察する。
2016年の「保育園落ちた。日本死ね」の投稿以来、急ピッチで保育園を増やしたが、想定よりも出生率が下がり、保育園の数>子どもの数となった。
また、保育園経営の制度を理解していない経営者が多く、適切な給与が支払われず保育士が離職、人材不足から倒産といった事態にも陥っている。
保育園の運営を行う株式会社シェンゲン執行役員の葛尾健太氏は、加えて「プログラミングや英語といった、保育分野以外の認可外保育園が外部から参入してきている。奪い合いになっていて、既存の保育園がつぶれる状況だ」と説明する。
現役保育士で育児アドバイザーのてぃ先生は「地方はヤバイ。どんどんつぶれて、駅前しか生き残っていないのではないか。本質的な打開策がないぐらい、もうどうしようもない状況だ。“企業主導型”という経営手法があり、国が2016年から補助金を入れてきたが、子どもの数も少なくなり、補助金が減らされた。企業主導型のルールが厳しくなり、続けられずにやめる所もある。国が先導して増やしたのに、10年経ったら『いらないから見捨てる』となっている現状だ」と指摘する。
撤退したのは、新規参入した保育園か、それとも老舗か。
大窪氏は「どちらもある。老舗は園児募集がうまく行かずに閉園するケースもある。新規参入は計画的に経営を縮小して、事業譲渡を考えることもある。以前は定員より子どもの数が多かったが、今は定員割れする施設がほとんどだ。今後は地域の保護者や保育士に、いかに選ばれるかが大切になる」と説明する。
てぃ先生は「園長や施設長は、保育に関しては詳しいが、経営はド素人だ。人を集めることも下手くそで、園児を集められる施策も打たないまま、勝手にしぼんでいってしまう」といった現状を語る。
葛尾氏も「経営の知見がない人が多い」と感じている。
「ウェブ上での広報活動が重要になっているが、そうしたものに疎い。いい園であっても、うまく対外的に表現できていないために、つぶれてしまうことがある。あらゆるリテラシーが低いことは、本質的な問題としてある」。
てぃ先生は「保育の質が高い園を選んでもらいたい。ただ、保護者に人気があって、園児を集められる園は、そういう園ではない。保護者が『質が高い』と判断するのは、先生との相性もあるため難しい」と話す。
そして、「保護者はプログラミングや英語教育などのスペックで見る。カリキュラムだらけで、子どもが疲れて家に帰るような園が人気で、保育本来の姿とは異なっている」とした。
経済同友会は6月10日、少子化対策に関する提言において、外国人保育士の受け入れ拡大を提言した。
特定技能1号2号の対象産業に保育を追加するという内容だ。
これにてぃ先生は「外国人保育士を入れるなとは言わないが、まずは日本人保育士の賃金や労働環境を改善すべきだ。潜在保育士(資格を持っていても働いていない保育士)が100万人以上いる。その状況を放置したまま、『安いから外国人保育士を雇おう』という観点で語るのは、かなりズレている」との持論を述べる。
葛尾氏の園では、“スキマバイト”を利用しているという。
「4年近く前から採用媒体として使っているが、保育との親和性はあまり高くない。欠員を埋めるためのスキマバイトは危険だ。例えば、卵アレルギーがある子に卵を出してしまえば、安全性が担保できない」。
そのため、「人手が足りている時に、“体験入社”のような形で、スキマバイトに来てもらう。スキマバイトはスカウトにお金がかからない。保育観の合う保育園に入社できる採用ツールとして使ってきた」という。
人手不足に向けた対策について、てぃ先生は「一番の問題は業務負担と賃金の不釣り合い」と感じている。現状では、子どもと触れ合う時間2割に対して、書類作成や雑務8割だ。1965年策定の保育所保育指針から変わらず、「長期的な指導計画と短期的な指導計画を作成」しているが、「賃金の部分は財源の問題があるが、業務の見直しは『ゼロ』にできる部分がたくさんある」と指摘する。
人手不足の背景には、賃金があると言われるが、てぃ先生は懐疑的だ。
「保育士になる人々は、給料が安いことを承知の上で、業界に飛び込んでいる。問題は『15万円でいい』と覚悟している人に課せられる負担が、15万円のレベルではないこと。賃金が仮に5万円上がったところで、この業務負担には耐えられない。国が本質的なメスを入れない状況が続いているのが問題だ」。
脳科学者の茂木健一郎氏は、「経営や企業の論理で語られることが多くなっているが、保育士は幼児教育者だ。『親がいない間の世話をしていればいい』と考え、定員と人件費から『こうすると儲かる』と軽く見ているようで、僕は好きではない。0歳児からの教育には無限の可能性があり、大学よりも重要だ。給料だけでなく、関係者へのリスペクトや社会的認知を高める必要がある」と語る。
保育士不足は、どのようにして解決できるのか。
葛尾氏は「充実感を持てない職場環境も一因だ。ICT化による業務負荷も、人間関係も要因としてあり、一概に給料が上がるだけでは解決しない。園長や主任といった管理職のスキル不足も否めない。そこがしっかりすれば、楽しい職場も作れるのではないか」と提案する。
AIによる業務効率化も注目されている。
「企業主導型の保育園を運営していて、ChatGPTも導入しているが、しっかりやる先生とやらない先生がいる。新卒から『先生』と言われている保育士は、一般的な社会に出ていない。それも導入ハードルの高さや、参加に積極的でない要因だろう」。
対して大窪氏は「設ける観点が全く抜け落ちるのも危険だ。理念は大切だが、利益を残すことも同様に大切。利益を確保すれば、保育士の給与に還元され、保育環境への投資もできる。お金がなければ、処遇は改善できない。どちらも欲しい視点だ」と語った。
参照元:Yahoo!ニュース