急増する政治系“切り抜き動画”が選挙に影響 チャンネル売買も 当事者が語る実態

YouTube動画を視聴している人

参議院選挙が始まったが、いま注目を集めているのが、ネット上の「政治系切り抜き動画」だ。

再生数に応じて収益が入る仕組みが内容の過激化やフェイクにもつながると指摘されているが、一部のユーチューバーたちはチャンネル自体を売買していたことがわかった。

6月の東京都議会議員選挙で、演説を撮影するユーチューバーたちがいた。

ユーチューバー「3か所回りました。ここを含めて」

ユーチューバー「これはほぼ趣味です。(収益は)ライブ配信を結構やっているんで、10万くらいにはなりますけど、ほとんどガソリン代と駐車場代で消えます」

その場で動画を切り抜き、字幕をつけて次々配信するユーチューバーもいた。

ユーチューバー「戦略は、“下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる”。一日にアップする上限があるので、その上限まで毎日上げてる」

演説などの一部分を、短く編集したのが「切り抜き動画」だ。

YouTubeの政治系切り抜きチャンネルを番組で調べたところ、総数は800を超えていた。

チャンネルの登録日ごとに分けると、2019年から一気に増加。

2025年はすでに半年余りで、2024年の数を超えている。

切り抜き動画は、どのように受け止められているのだろうか。

男性「短い時間で情報を得られる。時間つぶしみたいな感じで見ることが多いです」

女性「全部は信じないようにしています。良いところだけ・悪いところだけを切り抜いて発信している方もいると思うので」

男性「コメントつけたりしているじゃないですか。タイトルとか、ずいぶん勝手なことやっているなと思うけど、面白ければ、つい見ますよね」

テレビ局も使用する高額の機材を使ってライブ配信するユーチューバーがいた。

――今、ライブ配信すると、どれくらいの人が見る?

ユーチューバー「4000(人)いってたら良いかなくらい。有楽町でやったときは1万人超えていた。プレッシャー感じますね。しっかり届けないと」

男性は、政治系の切り抜き動画などを発信するYouTubeチャンネルを運営しており、登録者数は28万人を超えている。

ユーチューバー「自分がやったことで投票行動に移してくれる。良いことか悪いことかで言ったら、めっちゃ良いことだと思うんですよ」

長年勤めた会社を辞め、いまはYouTubeからの収益で生計を立てている。

収入はサラリーマン時代の2倍だという。

ユーチューバー「(収入)会社員時代の2倍と同時に、働いている量も会社員時代の2倍。大変ですよ」

kokoさんは、3万人近い登録者数のYouTubeチャンネル「伝統保守チャンネル―最期は笑って」を運営するユーチューバーだ。

ユーチューバー kokoさん「こんな感じで、日の丸をバックにしながら撮影させていただいております」

外国人参政権や夫婦別姓などについて、否定的な立場で発信している。

ユーチューバー kokoさん「こちら、実は昨日購入しまして、街頭演説を配信するために買ったカメラです。14万くらいですね。おかげさまで、5月のYouTubeの収益がとてもよかったので、経費で購入させていただきました」

6月は過去最高の視聴回数になり、40万円近い収益が得られる見込みだという。

投稿している動画には、政党や個人について批判的な見出しを付けたものも多い。

国会では、再生回数を稼ぐために過激な内容やデマを含んだ動画が作成されるケースを問題視している。

選挙期間中の収益化を規制する案も浮上したが、見送られた。

そうした議論について聞いてみると…

ユーチューバー kokoさん「過激な見出しの方がクリック率が高まるのは確かなんですよね。でも、そればっかりやっていたらダメでしょ、とは思います。全部が全部そうしているわけではなく、緩急をつけるっていう意味では使っていますね」

政党別の公式YouTubeチャンネルの登録者数は、れいわ新選組、参政党、国民民主党の順で多くなっている。

政党の中には、切り抜き動画向けの素材を積極的に提供するなど、SNSを選挙の追い風にしようとする動きもある。

メディアとSNSの問題に詳しい法政大学の藤代裕之教授は、こう語る。

法政大学メディア社会学 藤代裕之教授「たくさん増やして、どれかがバズれば、それが流れ着く。そしたら、この人ってこういう政治家なんだなという印象を抱く。そこに切り抜き動画は、強力な影響力を持っていると思います」

一方で、切り抜き動画などが過熱して、デマや誹謗中傷が広がることを危惧する。

藤代教授「『アテンションエコノミー』と言われている、事実よりも面白さに注目されることの方が、SNS上では重視されている。目立てば勝ち。注目されるために、過激なことを言ったりとか」

関西地方に住む30代の男性も、政治を扱うユーチューバーだ。

ユーチューバーの男性「登録者数が3万2000人。政治切り抜き動画であれば、200本くらいじゃないかなと。政治切り抜きって、そんなに世間の方に注目されるコンテンツじゃなかった」

2年ほど前に始めたチャンネルは当初、月に数万円の収益だったが、今では平均して30万円を稼げるほどに成長したという。

大きく流れが変わったのは2024年末のことだった。

男性「去年12月とか(今年)1月は、再生数に取り憑かれていた」

村瀬健介キャスター「去年の12月には何が?」

男性「去年の12月は、兵庫県知事選です。稼げるコンテンツだった。兵庫県知事選の期間中もそうだが、知事選が終わってから、すったもんだが始まった。結構、期間として長くとれたという印象。『陰謀的なもので斎藤知事がおろされた』みたいな立場で作った方が再生された」

しかし今、特定の政党や政治家に偏った動画は作らないようにしているという。

男性「『政治×SNS』みたいなものに否定的・批判的な声が多かった。となると、自分の感覚が誤っていて、世間の感覚から逸脱しているのだろうなと思った。少しずつ自分の中で見直していくみたいな感覚」

有名チャンネルに育つと、収益を稼げるのは再生数だけでは無い。

チャンネルそのものがカネになるのだ。

2025年1月頃、男性に、ある会社から1通のメールが届いたという。

男性「『(チャンネルを)売買しませんか』という連絡を頂いた。300万円、そのへんだったかなと」

男性が運営を手伝った、別のチャンネル宛に来たメール。

「チャンネル売却のご相談」として、「YouTube専門のM&Aコンサルタント」と名乗る人物から送られてきた。

村瀬キャスター「予算が数億円あると」

男性「びっくりしますよ」

村瀬キャスター「金、持ってるんですね」

男性「YouTubeの月収益の最低半年から1年分くらいが、(売却額の)ケースとして多いと聞く」

男性は自身のチャンネルを売却したことはないという。

男性「私がYouTubeで稼ごうと思ったら、どういうコンテンツが伸びるか把握している。1年くらいで1、2万人くらいのチャンネルを作って、一番盛り上がったときに売り逃げすれば一番儲かるという想定はできる」

村瀬キャスター「倫理観無しに売却することは問題がある思う?」

男性「条件を付けて『どう思うか』と聞かれるとずるい気がする。『倫理観無しに』と言われ始めたら、『どうかな』と思わなくはない。でも認められていることであるという事実がある」

「参院選」が売り出し文句のものもYouTubeのチャンネルを売却するためには、まず売り手が仲介サイトに情報を登録する必要がある。

その後、買い手がチャンネルを購入し、代金を売り手に支払う仕組みだ。

番組が仲介サイト11社を対象に、政治系チャンネルが売り出された数を調べたところ、2022年以降合わせて、のべ130件にのぼった。

中には希望売却価格が3200万円というものや、選挙が売り出し文句として使われていたものもあった。

「7月の参院選もあり、視聴需要が今後も見込まれます」

実際にチャンネルの売却経験のある人物が、報道特集の取材に応じた。

九州地方に住む50代の男性は、これまでに10あまりのさまざまなジャンルのチャンネルを立ち上げ、6つを売却したという。

最初は「嫌韓」と呼ばれる韓国を批判するチャンネルだった。

チャンネルを売却した男性「(セミナーの講師が)『稼ぎたいんだったら嫌韓系やれ』と。実際(嫌韓系)溢れてました。韓国を批判する、北朝鮮を批判する、中国を批判するというようなネタ」

2024年の衆院選のタイミングに合わせ、保守系の政治チャンネル2つを立ち上げた。

男性は数か月後、このうち一つのチャンネルを50万円以上で売却した。

約200万円の配信収益を得た後、高値で売り抜けるタイミングを選んだ結果だった。

チャンネルを売却した男性「視聴が伸びてないからですね。もうこれ以上(視聴回数が)下がったらもっと安くなるなというのは思います。僕の考えと買った人の考えは、やっぱり全然違うんで、新しい視点でやってもらえればなと。サムネイル改善すれば、伸びるかもしれないという思いもあった」

購入者がどんな人物かは分からなかったが、売却後、チャンネルに変化があったという。

チャンネルを売却した男性「サムネイルの文言なんか、かなり強くなっているなというのは感じますね。それ事実と違うよねという内容も結構入れたりとか。僕は多分それやらない、性格的に。だって嘘だもん」

男性はもう一つのチャンネルの売却先を探しながら、新たな政治チャンネルも準備している。

YouTubeをやめない理由は、過去に政治とは別のジャンルの動画がバズった経験があるからだ。

チャンネルを売却した男性「100万回再生で、実際100万円ぐらい入ってきた。めちゃめちゃ長い動画だったんで、単価めっちゃ高かったんですよ。(1年で)トータル2000万円弱、1チャンネルだけで。その体験がやっぱり鮮明に残ってるので、なかなかやめないですね」

政治系チャンネルを売買することに問題はないのだろうか。

YouTubeを運営するGoogleは、取材に対し「チャンネルの販売を禁止しています」と回答したが、利用規約では一部例外もあることが書かれていた。

取材に応じた仲介サイトの運営会社の中には、「政治(主に政党)や選挙、投票に関するコンテンツサイトの売買は取引依頼をお断りしています」と回答した社もあった。

理由は「社会的・倫理的に評価が分かれるからです」と説明した。

藤代教授は、SNSが選挙に与える影響について、こう危機感を抱く。

法政大学 藤代裕之 教授「アテンションエコノミーに選挙が飲み込まれてしまうということが起こらないように、もうかなり危険な状況だと思うんですけど、制度設計を急ぐ必要がある」

そのためには、収益化の停止も検討すべきだと話す。

藤代教授「現状のSNSで、選挙や政治関連のまともな議論や、まともな情報提供というのが行われるようなものには全くなっていない。本当に民主主義が崩壊してしまうような危機なんじゃないかなと思っています。収益をNGにして、それで発信すればいいじゃないですか。自分の好きなことを発信すればいいじゃないですかというような仕組みを導入するということも、一つの考えだと思います」

参照元∶Yahoo!ニュース