傘の横持ち、衝撃力は「ピアノ1台分」 ぶつかれば失明や骨折も 加害者の賠償責任は重くなる?

傘をさしている人

「ぶつかったときの衝撃力はピアノ1台分」

たたんだ傘を横向きに持ち、背後にいる人にぶつかった場合、どれだけ危険なのか。

東京都が実施した実験結果が注目を集めている。

通勤・通学ラッシュの駅や歩道では、たたんだ傘を横向きに持つ人をしばしば見かける。

こうした持ち方は「水平持ち」「横持ち」などと呼ばれ、混雑した場所では非常に危険だ。

東京都生活安全課は公式サイトで実験結果を公表し、こうした持ち方が思わぬ事故を引き起こす可能性があるとして、傘の石突き(先端)を真下に向けて持つよう注意を呼びかけている。

東京都の実験では、振り子装置を使い、横持ちした傘を歩行中と同じように振り下ろしたところ、その衝撃力は最大240kgf(ピアノ約1台分)に達することがわかったそうだ。

さらに、衝撃力は傘の先端に集中するため「身体に当たると失明や骨折などの重篤なけがを負う可能性がある」と結論づけている。

また、都が都内在住の20歳以上の2000人を対象に実施したネット調査では、「エスカレーターで前の人の傘の先が目に入りそうになった」「階段を登っているときに、横持ちしている人の傘の先がみぞおちに刺さった」など、実際に危害を受けた人やヒヤリとした経験がある人が44%にのぼった。

実際にこうした傘の持ち方が原因で他人にケガをさせてしまった場合、法的にどのような責任を問われるのだろうか。

本間久雄弁護士は次のように説明する。

「傘を水平に持ち、後ろにいた人にケガをさせた場合、民事上は不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)、刑事上は過失傷害罪(刑法209条1項)、過失の程度が重ければ重過失傷害罪(刑法211条後段)が成立します」

では、傘の持ち主が「わざとではない」「混雑していて避けられなかった」と弁明した場合はどうなるのだろうか。

「人がいる場所で傘を水平に持つこと自体、ケガをさせる危険性を十分に予見できます。したがって、過失が認められ、不法行為責任や過失傷害罪が成立することになります」

ケガが重い場合、さらに重い責任を負うことになると本間弁護士は指摘する。

「失明など、重いケガを負わせてしまうと、損害賠償額は高額になります。たとえば、両目を失明させてしまった場合は、ケガを負った時点から67歳程度までの就労可能期間の収入全額を『逸失利益』として賠償する必要があります。さらに精神的苦痛に対して2800万円の慰謝料が認められたケースもあります」

加害者が未成年の場合、誰が責任を負うのだろうか。

本間弁護士はこう解説する。

「たとえ本人がケガをさせなくても、未成年の子や同居の認知症の高齢者などが加害者となった場合、家族が不法行為責任を負う場合があります(民法712条、民法714条)。なお、認知症の高齢者が起こした不法行為について、家族が責任を負うかどうかを判断した最高裁判決(平成28年3月1日)もあります。なお、この判決では、家族の責任は否定されました」

傘の持ち方ひとつで、思わぬ事故につながる可能性がある。

本間弁護士は次のように呼びかける。

「梅雨やゲリラ豪雨の時期は傘を持ち歩く機会が多いと思いますが、たまたま持ち方が悪かっただけでも、自分や家族が他人にケガをさせれば、莫大な損害賠償責任を負う可能性があります。そのリスクに備えるためにも、個人賠償責任保険に加入しておくのも一つの選択肢です」

参照元:Yahoo!ニュース