「何かの間違いでは?」火災・地震保険料2倍に値上げの衝撃 家計圧迫し途中解約するケースも

疑問点を抱いている人をイメージした写真

物価高で手取りも増えないなか、火災・地震保険の保険料が驚くほど上がっている。

家計への圧迫が響き、契約更新を断念するケースも出ているという。

鹿児島県のトカラ列島近海での群発地震の行方が懸念されるなか、あらためて地震保険加入の意義も考える必要がありそうだ。

先日、銀行口座の出金明細をオンライン上で確認した際、思わず首をひねった。

「ホケンリョウ」とあるが、これほど高額の保険料を支払った記憶がない。

フィッシング詐欺に遭ったのかもしれない、と慌てて銀行に問い合わせたところ、引き落とされていたのは都内の分譲マンションの火災・地震保険の保険料の合計の額だと分かった。

たしかに数カ月前、5年間の契約手続きを更新した記憶はある。

その際、うかつにも保険料をしっかりチェックしていなかった。

あらためて前回と比較すると、なんと1.5倍近くにはね上がっていた。

物価高で手取りも増えないなか、保険料まで増額されていたとは――。

背景を探ると、厳しい現実に直面する羽目になった。

「2025年、火災保険の契約を更新する方々の中には、保険料の高さに驚く方も多いのではないでしょうか」

「『なぜこんなに上がるのか?』『前より高いのに補償は減っていないか?』と疑問に思われるのも当然です」

自社ホームページでこんな注意喚起をしているのは、全国で保険代理店事業を展開する「オアシス」(茨城県つくば市)。

保険料が1.5倍に膨らんだ筆者のケースを伝えると、同社のライフプランコンシェルジュの川井英治さんは苦笑交じりにこう言い放った。

「実態はそんなに甘いものじゃありません」

どういうことなのか。

「前回10年契約だった人も今回から5年契約に切り替える必要がありますが、その場合、5年分の保険料が前回の10年分とほぼ変わらなかったり、地域によっては前回の10年分よりもさらに保険料が膨らんでいるケースもあったりします」

つまり、保険料が2倍、あるいはそれ以上に膨らんでいる人も珍しくないというのだ。

一体、何が起きているのか。

保険料アップの要因として、まず挙げられるのが火災保険料の改定だ。

損保各社でつくる「損害保険料率算出機構」が23年6月、個人向け火災保険料の目安となる「参考純率」を過去最大幅となる13%(全国平均)引き上げた。

これにより、損害保険大手4社などは24年10月以降、火災保険料を全国平均で1割ほどアップ。

火災保険の値上げは19年以降4回目で、この5年で4割ほども上昇しているという。

火災保険料が上がる背景には3つの要因がある。

1つが、自然災害の増加と保険金支払いの急増だ。

ここ数年、日本では台風や豪雨による浸水被害が頻発しており、保険会社の支払額は過去最大規模になった。

「18年の台風21号では火災保険だけで9202億円超の保険金が支払われ、保険会社の収支は大きく悪化しました。このような『予想を超える自然災害の連続』が保険料見直しの主因です」(川井さん)

また、近年の物価上昇や人件費の高騰により、住宅再建や修理のコストが大きく上がっていることも背景に挙げられる。

23年以降に見直されたのが、洪水や土砂崩れなどの水災リスクの評価だ。

水災補償は火災保険に付帯して契約を選択できる。

「これまでは全国一律だった水災保険料が、地域ごとのリスクに応じて5段階で設定されるようになりました。これにより、河川や海に近い地域では保険料が増加するケースが増えています」(同)

もう1つ、火災保険とのセット加入で、全体の保険料を押し上げているのが地震保険だ。

ただし、これはエリアによって明暗が大きく分かれる。

川井さんは言う。

「地震保険料は22年10月の改定で、エリアや建物の構造によっては最大3割も値上げされています」

値上げが目立つのは、関東では茨城県や埼玉県のほか、四国の高知県や徳島県など。

地震保険料は地震の揺れによる損壊などの危険度合いを考慮して、建物の所在地、建物の構造、建物の免震・耐震性能に応じた割引――の3要素で決まる。

ちなみに、地震保険は政府と民間の保険会社が共同で運営し、法律で補償内容や保険料が決められているため、どの保険会社で加入しても内容は同じだ。

とはいえ、先述のように火災保険料や地震保険料のアップは今に始まったわけではない。

にもかかわらず、よりによって物価高に苦しむ人が多いこの時期に、保険料の大幅アップを実感する人が多いのはなぜなのか。

それは、今年が契約更新のピークのタイミングと重なっているからだという。

火災保険の契約期間は、かつては最長36年まで認められていたが、15年10月以降は「最長10年」に、22年10月には「最長5年」に短縮された。

このため、15年10月の制度変更の際、保険料が割安になる最長の「10年契約」に切り替えた加入者が一斉に満期を迎えるのが今年10月なのだ。

川井さんは保険契約の現場の実態についてこう話す。

「このご時世、『物価上昇慣れ』している人は多いはずですが、新たな保険料を提示すると、皆さん一様に驚かれます。『何かの間違いでは?』と問い返す人や、なかには『私、どうしたらいいの……』と動揺を隠せない人もいます」

主に関東一円を担当する川井さんが実感するのは、地震保険料アップの影響だ。

実際、同じ関東圏でも内陸部の栃木県や群馬県と、太平洋に面した千葉県では、地震保険料は4倍近くの開きがある。

「地震保険料の値上げ幅が大きい茨城県や埼玉県、以前から高かった千葉県では、生活への影響が大きいため地震保険を解約する人も今年に入って目立ちます」

つまり、地震や津波のリスクが高いと判断されている地域の人ほど地震保険を解約してしまっている可能性がある、というわけだ。

これは矛盾としかいいようがない。

とはいえ、「必然」ともいえる実情もあるようだ。

川井さんは火災保険については万が一に備えて加入や更新を勧める一方、地震保険については「当事者の納得感が大切」と考え、必ずしも加入を勧める営業はしていないという。

理由はこうだ。

「火災保険は通常、被害相当額はほぼ全て保険で賄えます。一方、地震保険の保険金額は火災保険の30~50%の範囲内に制限されており、保険金だけで建物を元どおりに建て直すことはできません。被害査定も厳しく、建物の基礎や構造躯体(くたい)に大きな損害が出ないと、そもそも保険がおりないケースも珍しくありません」

例えば、3000万円の価値のある建物の場合、「全損」と査定されても保険金の上限は1500万円。

「一部損」だと全損の5%の75万円にとどまる。

「代理店や営業担当者によって説明の仕方は違うと思いますが、少なくとも私たちは『地震保険は保険料の負担の割に費用対効果はあまりよくない』ということは丁寧にお伝えするようにしています」(川井さん)

川井さんの肌感覚では、高齢世帯よりも出費の機会の多い子育て世帯のほうが地震保険を途中解約するケースが多いという。

「火災保険の保険料全体に占める地震保険料は都道府県によっては半分超になります。ということは、地震保険を解約すれば火災保険の負担は2分の1以下になる場合があります。住宅ローンを抱えながら場合によっては年数十万円を保険料で出費するのは痛い。それならこの分を貯金か投資に回そうと考える傾向は子育て世代によく見られます」

最終的な判断は個人に委ねられるが、日本で暮らす以上、震災リスクとは無縁でいられない。

そのことだけは肝に銘じておきたい。

参照元:Yahoo!ニュース