西日本豪雨で殉職した兄ちゃんの分まで 4歳違いの弟、警察官になって追う背中 広島

面白くて優しい人気者だった4歳違いの兄。
剣道を始めたのも、お兄ちゃんが習っていたから。
憧れの存在で、ライバルでもある。
これからもずっと後ろ姿を追いかけていくんだろうな、と思っていた。
それが、2018年7月6日、兄晋川尚人さん=当時(28)=は土石流に巻き込まれ亡くなった。
弟の賢也さん(31)は「あの日から、何かが足りない、ふわふわした感覚でした」とつぶやく。
兄は警察官だった。
呉署交通課に勤務していたあの夜、帰宅途中の広島市安芸区矢野町で車数台が巻き込まれた土砂災害に遭遇。
立ち往生する運転手たちに声をかけながら避難する際、土石流にのまれた。
当時、福山市に住んでいた賢也さん。
兄と連絡が取れないと心配する母から電話があった。
警察官だから対応に忙しいのだろう。
朝になれば折り返してくるはず。
気にしないよう努めるしかなかった。
翌朝、再び母から電話があった。
兄が土石流に巻き込まれたらしい―。
一瞬頭が真っ白になったが、思い直した。
きっと大丈夫。
剣道仕込みの強い兄だ。
どこかに避難しているに違いない。
それなのに。
遺体となって兄は帰ってきた。
「いまも気持ちは整理できていないんです」と賢也さんは言う。
「正直、家族としては無事に帰ってきてほしかった」。
でも、正義感の強い兄だ。
周囲の人を放ってはおけなかっただろう。
「兄らしいな」。
そう自分に言い聞かせてきた。
そんな中迎えた昨年の七回忌法要。
遺影を見つめていて、ふと尚人さんの言葉を思い出した。
大学卒業後に一度、岡山県警に入った賢也さん。
すぐに辞めてしまったが、「その時兄から『自分の人生なんだから、自分でやりたいことをしっかり考えなさい』と言われました。当時はうるさいなと思っていましたが、心から離れなくなって」。
たどり着いた答えは、尚人さんと同じ警察官の道を再び歩むことだった。
4月に広島県警に入った賢也さんは今、県警察学校(広島県坂町)で学ぶ日々だ。
苦しい訓練も「兄だったら…」と思えば耐えられる気がする。
葬儀には地域の人も来てくれていた。
警察官の兄の姿を教えてもくれた。
「親切にしてもらったんよ」
やっぱり兄はすごいなあ。
希望しているのは兄も経験した交番勤務だ。
「災害が起きても犠牲者を出さないよう、地域を歩き回っておきたい」。
責任感の強い尚人さんの存在は、いつか超えるべき目標として、目の前にある。
参照元:Yahoo!ニュース