正倉院正倉は虫の楽園? 専門家調査で「いるはずない虫」も 奈良

聖武天皇由来の貴重な宝物を伝えてきた奈良市の正倉院正倉は、高床式で地面から離され、開扉に天皇の勅許が必要なため扉が開く機会も少ない。
この閉ざされた環境は防虫効果が高く、それゆえにトビムシやチャタテムシという微小でか弱い虫の安住の地になっていたことが正倉院事務所保存科学室の高畑誠さんの研究で浮かび上がった。
高畑さんは大学院時代から文化財と虫について研究してきたこの道のプロ。
これまで正倉院では虫に関する体系的な調査が行われていなかったことから、2018~21年に院内の55カ所に粘着トラップを仕掛け、年に4回交換して捕獲された虫を調べた。
昆虫だけでなく、クモやダニを含めた広義の「虫」の生息状況を調べた。
かかった虫はチャタテムシとクモ類が多く、合わせて全体の79%を占めた。
チャタテムシは体長1ミリ強の昆虫。
羽があるものとないものがいるが、院内のチャタテムシには羽がなかった。
主にカビを食べる。
世界中に広く分布し、屋外、人家内とも見られる。
季節では4~9月の気温の高い時に多く捕獲された。
数は少ないが、シミ類やカツオブシムシ類も定着していた。
23年1月から24年1月の調査は、クモ類に次いで多かったトビムシに焦点を当てた。
菌類を食べる体長2~3ミリの虫で、羽はないが腹部に跳躍器があって跳ねる。
土中に多くみられる。
院内では7月に大発生し、9月にはほぼ捕獲されなくなった。
出入りは困難であり、高畑さんは「院内に定着し、季節によって活動が変化する」と結論づけた。
「羽がなく、正倉院の中にいるはずがない虫。どこかのタイミングで入り込み、定着した。虫が入りにくい環境は、小さくて弱い虫には生きやすいのではないか」と話す。
正倉はヒノキ造り。
2階建ての北倉、中倉、南倉に仕切られ全体を寄棟の屋根が覆っている。
高床式で地面から2.7メートル離れている。
宝物は、1968年に鉄筋コンクリート造りの西宝庫に移された。
トビムシの定着については富山市で6月14、15日に開催された文化財保存修復学会で発表された。
参照元:Yahoo!ニュース