「とうとうウチにも来たよ…」突然鳴った“退職代行”からの電話 驚き 困惑 反省経て社長が進めた社内改革

退職代行をイメージした画像

「退職代行サービス」を使い、若者が次々と辞めている。

名古屋にある代行業者では依頼の8割近くがLINE経由で、気軽に利用されているのが実情だ。

しかし、“使われた側”の企業は突然の電話に戸惑い、そして反省していた。

変わりゆく価値観に戸惑いながらも、職場の在り方を模索する企業の姿を追った。

名古屋市中川区の「やめるもん」は、本人に代わって勤め先に退職の意思を伝える「退職代行サービス」の会社だ。

この日は、“妊活をしていて、体調的に苦しい”という30代の女性の依頼を受けて、派遣会社に電話した。

『やめるもん』の橋本貴弘代表:「ユニフォームはクリーニング後の郵送で大丈夫でしょうか?」

人事担当者:「ユニフォームはロッカーに入っているから」

貸し出されたユニフォームの返却方法などを確認したが、電話の向こうの人事担当者は淡々とした様子で、わずか5分ほどでやりとりは終わった。

『やめるもん』の橋本貴弘代表:「(会社側は)驚いていないです。よっぽど退職代行に対しての認知度はあったのかもしれないですし。本人が辞めるかもしれないのをあらかじめわかっていたんじゃないかなという」

やめるもんでは、2024年10月から依頼の受付を始め、すでに60件以上の退職を成立させた。正社員の場合の代行費用は19800円で、依頼の8割近くがLINE経由という気軽さだ。

これまでの相談内容を見せてもらうと、勤務歴が半年未満だという男性(20代)は「退職の話をしてから出勤するということに抵抗を感じた」、勤務歴がおよそ1年半の男性(30代)は「社長からのパワハラ。あほ、バカ扱いされる」という悩みを抱えていた。

『やめるもん』の橋本貴弘代表:「自分で会社に対して思ったことが言えないという状況がある会社が多いんだなというのは、実感値としては大きいです」

3年務めた会社からの退職を代行してもらった男性(25)に、話を聞いた。

代行サービスで退職した男性(25):「『このまま結局辞めても苦労するぞ』だったり。引き止めといいますか、どうにも受理してもらえそうな雰囲気ではなくてですね。その場では『辞めたいです』とは言えなかった。ある程度きれいに辞めるためにはというところで探したのが退職代行でした」

『やめるもん』の橋本貴弘代表:「『会社退職』だとか、『辞めたい』とか検索フォームに入力するだけで、いろんな退職代行会社さんが出てきますし、より身近なものになっていっている」

“代行”の電話一本で、若者は職場を去っていく。

名古屋市中村区でヘルスケア商品などを手掛ける「アメイズプラス」。

従業員は120人ほどで、髪色もアクセサリーも自由な今どきの会社だが、2025年1月に初めて「退職代行」の電話を受けた。

アメイズプラスの山本良磨社長:「ちょっとびっくりしてしまって、『退職代行とうとううちも来たよ』と、その日のうちにバァーっと会社の中で広まりましたね。『まさか』って思いましたね、自分たちの会社には縁のないことだと思っていたので。(代行の電話を受ける前は)“なんでそれぐらいのこと電話1本で”とか、“一言会って言うことができないのか”と」

勤続1年未満の20代社員の“代行”だという退職連絡に、初めはただただ驚いたという。

しかし、「本来やりたい仕事ではなかった」という理由を伝えられ、反省も口にした。

山本社長:「身をもって経験すると、ちょっと反省をしたというか、少し休みがちになっていた時に『なんで自分が声をかけてあげられなかったんだ』と思いましたし、会社側にも問題がやっぱりあったんじゃないかと。(常識を)変えないと、このままでは若い人が採用できないなと」

この1件以来、“何でも言える空気づくり”を目指し、社員の声に耳を傾ける時間を積極的に増やしているという。

「先輩の背中を見て仕事を覚えて」というのも今や昔だ。企画のアイデアの出し方に至るまで細かくマニュアルにし、資格取得やスキルアップをしたい社員には年15万円を支給する制度もつくった。

さらに、社長はこの日、午後4時半に退勤。これも、帰りやすい雰囲気作りのためだという。

山本社長:「ありがとうございました~。早め早めで!お疲れ様です!」

少子化、人手不足で「超売り手市場」と言われる中、就活生たちの意識も大きく変わっている。

名古屋市中村区で開かれた就職イベントで、大学生たちに“何を求めているのか”などについて話を聞いた。

大学3年の女性2人組は、『年間休日120日以上』。

大学3年生A:「ワークライフバランスを大事にしたくて」

大学3年生B:「休みをモチベーションに仕事を頑張りたいなと思って」

大学4年の男性は、『地元で働く』。

大学4年生:「地元で働きたいです。自分の育った町で恩返しできるような形で働きたい」

仕事のやりがいよりも、プライベートや職場の環境を重視したいという学生がほとんどだ。

上司の立場からは、価値観の違いに戸惑う声も上がった。

40代男性(営業職):「やっぱり気を遣っていますよね、どちらかと言えば。『こういうことできる?』とか『やってもらえるかな?』とか、こっちが下手に出ていることが多い」

40代男性(事務職):「言葉遣いは気を付けています。何でもかんでも勢いで責め立てることができなくなっている」

50代男性(製造業の管理職):「若い方は“飲みに行きたくない”というのは大体あります。(昔は)強制的に参加なんですよね。大体、強制的に“生ビール”みたいな感じなんですけど。無理には誘えないですね」

厚労省の調査では、新卒入社後3年以内に離職した人の割合は、ここ最近は3割を超えている。

直近の2021年入社では34.9%で、実に3人に1人を超える「大退職時代」が訪れている。

愛知県稲沢市に本社を置く住宅メーカー「アッシュホーム」は、一風変わった入社式を行っている。

2023年に取材した際は、華やかな結婚式場で新入社員を迎え入れていた。

アッシュホームの小澤裕昭社長(2023年):「『入社』って『結婚』とよく似ているよなと思って、人生をともにするという意味で、共に頑張ろうと」

会社と新入社員たちのその後の“結婚生活”はどうなったのか、改めて話を聞いた。

アッシュホームの小澤裕昭社長:「実際残っているのが7名で、3名が退職した形ですね。ショックの方が強いですね、やっぱり」

理由は様々というが、“永遠の愛”を誓ったはずの10人のうち、3人がすでに退職していた。

さらに、2024年の新入社員の1人は「退職代行」を使って会社を去ったという。

焦った社長は、全社員1人1人と、3カ月に1回、1時間じっくり話し合うようにした。

デスクの配置も工夫した。

オフィスの一番奥に上司の席がある一般的なスタイルから少しでも話しかけやすいようにと、上司を部下が取り囲む形に変えた。

そんな努力が実を結びつつあるのだろうか。

会社設立以来初めてという、入社5年目のトップセールスマンが誕生した。

アッシュホームの梅田大和さん:「何かあっても最終は助けてくれる安心感がずっとあった。向こう(上長)から聞いてくださっていたので、僕らとしてもすごく話しやすい環境」

アッシュホームの小澤裕昭社長:「彼のその時の上長が自分から『どうなの?』『大丈夫なの?』とか、『このお客さんの進捗どうなの?』とか。絶えず聞いてくれる姿勢を持っているのも大きかったのかなと」

若き「期待の星」の梅田さん。

このまま今の会社と“添い遂げる”のかと思いきや…。

アッシュホームの梅田大和さん:「今の環境より自分が成長できそうだなとか、飛び込んでみたいなというところがあれば、僕は積極的にそういうところに挑戦していきたいなと…と思う性格ですね」

アッシュホームの小澤裕昭社長:「悲しいですけどね(笑)。経験を積んで成長をしていこうという時代なのは間違いございませんので。その中で、どこの会社に行っても通用するような社員に成長してもらえれば」

早期退職、転職当たり前の「超売り手」時代。

職場はますます変化を迫られそうだ。

職場の魅力アップや働き易い環境作りのため、企業も様々な取り組みをしている。

名古屋市東区の「矢作建設工業」には『帰省旅費制度』がある。

単身赴任や、独身の社員が家族・友人・恋人・ペットに“会いに行く”もしくは“会いに来てもらいやすくする”ために、1カ月に4往復まで費用を出す制度だ。

愛知県みよし市の機械メーカー「チップマン」には『推し活休暇』がある。

通常の有給に加え、コンサートやイベントに行くと申請すれば、年間で1日付与される。

電気ヒーターを手掛けている名古屋市天白区の「河合電器製作所」では、入社3年目まで、毎月好きな本札を読んで読書感想文を提出する。

全社員が閲覧可能でコメントもできるため、先輩たちが若手社員の考え方を知れるという制度だ。

参照元:Yahoo!ニュース