世界最古級のおもちゃか、4500年前のガラガラをシリアで発見 しかも売り物だった

シリアの国旗を撮影した画像

約4500年前にシリアで作られた粘土製のガラガラは、幼児を「楽しませ、その気持を落ち着かせる」ために設計されたものであったとする新たな研究結果が発表された。

デンマーク国立博物館の考古学者メッテ・メアリー・ハルド氏らは、4月30日付けで学術誌「Childhood in the Past」に発表された論文で、1930年代にシリアのハマにある古代の墳丘で発掘され、その後デンマーク国立博物館に保管されていた遺物について記述している。

「わたしは手が小さい方ですが、このガラガラについている持ち手は、わたしにさえ小さすぎます」とハルド氏は言う。

「ですから、乳児や幼児が使うものと考えられます」

これらのガラガラは、考古学的記録にある中でも最も古い部類の玩具となる。

一方で、邪悪な霊をはらう儀式に用いる道具であるか、あるいは儀式と玩具、両方の目的に使われていた可能性があると主張する考古学者もいる。

ハマの調査で見つかった遺物の多くは、シリアのダマスカス国立博物館をはじめとする中東各地の博物館に収蔵された。

しかし、一部は発掘隊のメンバーによってデンマークに運ばれて保管されており、今回、ハルド氏らによって改めてその調査が行われた。

新たな分析により、少なくとも21個の粘土片が、約4500〜4000年前の初期青銅器時代に作られたガラガラに由来することがわかった。

当時、この地域にはいくつかの古代都市国家が存在し、ハマもそのひとつだった。

ある破片は、穴が空いているせいで誤って「ふるい」に分類されており、またガラガラの持ち手部分は、中が空洞になっているために「パイプ」と判断されていたと、ハルド氏は言う。

分析からは、これらの粘土片が、ハマから北へ数キロ離れた古代の墓地アル・ザラキヤートで無傷で発見されたガラガラや、ダマスカス博物館に収蔵されている初期青銅器時代のガラガラと、様式も大きさもほぼ同じであることがわかっている。

これらのガラガラには、小石や小さな粘土の玉が詰められており、振ると音がするようになっている。

現代の赤ちゃん用玩具とよく似た作りであることから、論文の著者らは、これが幼い子どもが遊ぶために作られたものだったと示唆している。

考古学者の中には、これらは「魔除け」であり、ガラガラという音には邪悪な霊をはらうという意味があった、あるいは楽器として使われていたと主張する者もいる。

しかし、論文の筆頭著者で、デンマーク国立博物館およびフランス国立科学研究センター(CNRS)に所属する考古学者のジョルジュ・ムアマール氏は、アル・ザラキヤートから出土したガラガラでは、小さすぎてさほど大きな音は出せないことを実験で確認した。

「ほんのかすかな音しか出ませんでした」と、ハルド氏は言う。「これでは、楽器としてはあまり面白味はなかったでしょう」

ハマの破片はまた、寺院や墓地ではなく住宅地で見つかった。

この事実は、これらが子どもたちに使われていたという説を裏付けている。

分析の結果からは、ハマの粘土片は、この古代都市で商業的に流通していた陶器と同じ、特徴的な粘土の混合物から作られていたことが明らかになっている。

つまり、これらのガラガラはプロの陶工によって作られ、市場の露店で親たちを相手に売られていたことを示唆している。

複雑な装飾が施され、釉薬がかけられるなど、丁寧に仕上げられていることもまた、職人の手で作られたという考えを裏付けるものだと、ハルド氏は述べている。

初期青銅器時代、ハマは地域の中心地であったため、ガラガラはそこで大量に作られ、ほかの場所でも販売されたのかもしれない。

シリアや中東のほかの地域、たとえばシリア北部では動物の形をした別のタイプのガラガラが多く出土しており、各地の陶工がその地域で好まれる様式で作っていたと考えられると、ハルド氏は言う。

今回の研究をきっかけとして、専門家の間では、ハマのガラガラやそれに類似した道具は、儀式的な目的で使われていたのか、それとも玩具だったのかについての議論が巻き起こっている。

ハマのガラガラは確かに小さいが、赤ん坊が持つには重く、大きすぎるのではないかと、ベルギー、ルーベン・カトリック大学の考古学者エリン・ゴリス氏は考えている。

一方で氏は、幼児であれば使えただろうと認めている。

たとえば、米カリフォルニアで出土した最大1000年前のガラガラなど、似たようなガラガラは北米大陸の遺跡でも見つかっている。

それらについては伝統的に儀式や音楽の演奏に使われていた証拠があると、ゴリス氏は指摘する。

そうした地域では、今でも同様の用途にガラガラが用いられているという。

しかし、「これは正しいか間違っているかで割り切れる問題ではありません」と氏は述べている。

「これらのガラガラを幼児が使っていたのだとしても、大人が子守歌や儀式の歌を歌うときにこれでリズムをとっていた可能性も否定できません」

米ヘブライ・ユニオン大学ユダヤ人宗教研究所の教授で、古代のレバント地域で見つかる粘土製のガラガラを研究している考古学者のクリスティン・ギャロウェイ氏は、今回の研究結果について「非常に説得力がある」と述べている。

一方で氏は、これらのガラガラには「ふたつの用途」があったのではないかと考えている。

つまり、邪悪な霊を家から追い出す魔除けとしての役割と、ガラガラという音で幼い子どもを楽しませる鳴り物としての役割だ。

「さまざまな使われ方をしていた可能性があります」と氏は言う。

もし幼児用の玩具だったとするならば、これらのガラガラは、現存する玩具の中でもとりわけ古いものということになる。

最古の玩具としてはこのほか、トルコで見つかった5000年前の二輪戦車や、イタリアの島で見つかった、人形の一部と思われる4000年前の石製の頭部などが存在する。

研究者が古代の子どもたちに焦点を当てているという事実は重要だと、ギャロウェイ氏は指摘する。

「考古学的記録においては、子どもたちの存在は見落とされがちです。だからこそ、子どもたちがこの道具を使っていたのかもしれないと立ち止まって考えるだけでも、素晴らしいことです」

あらゆる証拠が、ハマのガラガラが幼い子どもの玩具として設計されていることを示していると、ハルド氏は考えている。

「昔の親たちも、今の親たちと同じように、子どもたちを愛していました。一方で彼らは、ときどきは子どもの気をそらせて、つかの間の平穏を味わう必要があったでしょう。現代ではタブレットを使いますが、当時その役割を果たしていたのはガラガラだったのです」

参照元:Yahoo!ニュース