無断生成のAIボイスを聞いた人気声優「覚悟していたが、不気味だった」 声には著作権の保護及ばず

アニメ「進撃の巨人」のエレン役などを務める人気声優の梶裕貴さん(39)=写真、事務所提供=は数年前、AI(人工知能)が生成した自身の声が歌う音声をネットで聞いた。
許可した覚えはない。
「仕事の性質上、知らないところである程度の情報操作をされてしまうことは覚悟していたが、実際に接するとやはり不気味で気持ち悪かった」と振り返る。
ネット上には、声優や歌手の声を無断でAIに学習させて生成した声(無断生成AI)を使った動画が氾濫する。
多くの声優が所属する日本俳優連合(日俳連)の2023~24年の調査では、約270作品で被害が確認され、梶さんは声優別では最も多かった。
無断生成AIは声優にとって死活問題だ。
だが、音声には著作権の保護が及ばず、声をAIに学習させることは違法とされない。
18年の著作権法改正でも、著作権者の許諾なしでAIに著作物を学習させることが認められてしまった。
音声業界などは許諾を必須とするよう、著作権法の再改正を求めてきたが、法の不備は放置されたままだ。
そこで日俳連などは昨秋、AI音声(AIで生成された声)の学習・利用に関し、アニメなどの吹き替えでは使わないことや、本人の許諾を得ることなどを求める声明を出した。
声優らは並行し、「NO MORE 無断生成AI」運動を展開。動画で憤りや困惑を訴えた。
日俳連の広報委員長で、アニメ「ちびまる子ちゃん」のおばあちゃん役などを務める佐々木優子さん(63)も動画で「声優の声は努力を重ねて作り上げたもの。無断で切り貼りされて気持ちのいい人はいない」と明かした。
運動の効果については、「理解は広がったが構わず作り続ける人もいる」と嘆く。
米国や韓国などで生成AIと音声に関するルール作りが進む中、経済産業省は今年、無断生成AIで起こす目覚まし時計の製造・販売などが、正規品と混同させるような行為を禁じた不正競争防止法に違反する恐れがあるとする判断を公表した。
明治大の今村哲也教授(知的財産法)は「現状で取り得る最大限の法的解釈を示し、業者に刑事責任が問われる可能性を意識させる」と評価。
それでも、法的に声の権利を確立させる必要性を主張する。
一方、AI音声を本人の同意を得て正規利用する動きも広がる。
音声合成を行う「CoeFont」(東京都)は昨秋、声優事務所「青二プロダクション」(同)と提携。野沢雅子さんら10人の、英語や中国語などのAI音声を販売する。
音声案内などでの利用を想定し、吹き替えといった演技には使わない。
CoeFontの山田泰裕・PRマネージャーは「声優に収益を戻しつつ、声の可能性を高める一歩」と話す。
梶さんも昨年、自身の声をAIで合成するソフトを商品化。
様々な人が使うことで、まったく新たなものが創造されると期待する。
「新技術は悪用する人が問題。誰も傷つかない前向きな使い方を示したかった」と振り返る。
驚異的な速度で進化し、利用される生成AI。
日俳連なども、声優の声のデータベースを作り、正規のものを流通させる仕組み作りに向け動いている。
佐々木さんは「AIで使わないでと言っても解決しないので、現実に対応する」と無念を語り、将来を危ぶむ。
「声優の声とAI音声のすみ分けが理想だが、声優が担う表現の部分も、いずれAIが再現しかねない。AIが担う部分が増え、新人が業界に入りにくくなるのは確かだ」
参照元:Yahoo!ニュース