「局部の写真送信を強要」、「交通違反で罰金150万円」 高収入につられ、入社した会社で待っていたこと

マイクを撮影した画像

「営業社員の57.1%が年収1000万円超」「平均年収は1427万円」-。

インターネットの採用ページに高収入をうたう文字が並ぶ。

「ネオ・コーポレーション」(大阪市)は、電力料金の削減につながるとする電子ブレーカーなどの商品を販売し、ホームページ(HP)によると2018年には経団連にも加盟している会社だ。

ネオ・コーポレーション社がうたう高収入にひかれて入社したものの、退職を余儀なくされた営業担当の元社員5人がことし3月、不当に給与から天引きされた賃金返還や、パワハラに対する慰謝料の支払いなどを求めて、大阪地裁に提訴した。

会社の中で何があったのか、原告や元社員に話を聞いた。

ネオ・コーポレーション社に取材をすると、「現在係争中の事案に関しては回答を控える」とのことだったが、原告らの口から出てきたのは耳を疑うような証言の数々だった。

原告の一人、30代のAさんは、求人広告で年収1千万円という額にひかれて入社した。

「入ってみたら思っていたのと全然違っていました」。

Aさんによると、入社当初、研修で上司と営業に回っていたとき、仕事の覚えが悪いとその上司からいきなり睾丸をつかまれた。

こうした暴力はその後もたびたび続き、痛がる様子を動画で撮影して笑っていることもあったという。

何かあると「しばくぞ」「なめてんの?」と暴言も浴びせられた。

社内では、営業担当者が一日に一件も契約やアポイントメントが取れないことを「タコ」と呼び、タコになった場合には性器の写真を自ら撮影して送信するよう強要されることがあったという。

Aさんが入社して数カ月が過ぎた頃、その上司にアポが取れなかったことを報告した。

すると彼のスマホに「見本」として送られてきたのは、Aさんより1カ月先に入社した先輩社員の全裸写真だった。

タコだったのだから性器の写真を撮って送れ、と上司は強要してきた。

「罰だ」。

Aさんは必死で懇願し、いったんは免れた。

しかし4カ月ほど後、再びタコになってしまった。

このときは上司の要求に屈し、局部の写真を送信させられた。

その後ももう一度写真送信を強要された。

上司は、その写真を別の社員に転送し、「拡散」したことを示す画面のスクリーンショットをAさん宛てに送ってきたという。

耐えかねたAさんは当時の支店長に相談。

支店長は笑いながら「みんなが通ってきた道だからがんばれ」と話し、真剣に受け止めてくれなかった。

もちろん、何の対処もされなかった。

その後Aさんは精神科を受診、適応障害とうつ病の疑いと診断された。

Bさんは30代で入社し10数年在籍した。

支店長経験もある。

会社を辞めた決定的な理由は社内の食事会に出なかったことをとがめられ、役員から顔を平手打ちされたことだったと話す。

彼が在職中に一番困ったのは社内で「ベンサイ」と呼ばれていたシステムだった。

Bさんの証言では、営業担当の社員が取り付けたリース契約が後からキャンセルされた場合、ペナルティーとして契約代金の8、9割に当たる額をその社員に肩代わりさせ、給与から天引きされることもある独特の仕組みだという。

ネオ・コーポレーション社の給与は、成果に応じて支払われる歩合給が大半を占める。

Bさんの場合、基本給が20万円ほど、残りは歩合給で、契約を獲得できれば月収100万円を超えるときもあった。

「年間で言うと2千万円とかもらうときもありました。それなりに給料もらってるんだから、(ベンサイ分)払えるだろうっていう感じで。でも会社の取引の解約分を社員が負担するっていうのはおかしい」。

Bさんは、四国にある農家との契約がキャンセルになった際、ベンサイで給与から150万円、多いときに200万円をひかれることになったと説明する。

今回の裁判には加わっていない元幹部のCさんは、中間管理職もベンサイで給与からお金を引かれていたと証言する。

部下が8~9割を負担し、それ以外の残りを会社に支払っていたため、ペナルティーを負った部下の人数が増えれば負担額が膨らむ。

社内ではほかにもさまざまな理由をつけた給与カットの仕組みがあり、「給料日に不足分のお金を(会社に)振り込むこともあった」と話す。

これでは働いても実質的に給与がマイナスになっていると不安になりCさんは会社を辞めた。

40代のDさんは営業のためレンタカーで全国に出向き、入社して3年ほどで47都道府県すべて行き尽くした。

「四国の愛媛県で夕方最後の交渉が終わりました。で、次の日の朝が愛知県でのアポとか、それを車で行くわけです。日々そんな勤務でした」。

ネオ・コーポレーション社には全国各地に拠点となる支店があるが、支店に属さない部署にいたというDさんは、アポが取れた相手のところを次々と回る過酷な長時間勤務だった。

その頃、社内に交通事故・違反に対する罰金制度が導入されたとDさんは振り返る。

「最初は違反したら歩合給100%カットだったと思う」とDさん。

歩合が収入の大半を占める給与体系のためか、制度が始まった当初は報告しない社員が少なくなかった。

すると会社側は警察で違反がないかどうかチェックを始めたという。

「未報告者は歩合の150%の罰金でした」。

Dさんは未報告がばれ、罰金が150万円に上ることがあったと話す。

罰金を払い終えるまでは歩合がもらえなかった。

知り合いには600万円を負わされた人もいたと話す。

「こんな勤務で交通違反全くしないなんて無理。本当、それで辞めた人間も多いです。要は違反して、全部歩合給取られるし、言わなかったら3倍取られるし、もういても意味ないわって」。

Dさんの同期入社は40人いたが、10年たって辞めると決めたとき、会社には2人しか残ってなかった。

このような理不尽な罰金に加え、上司からはしょっちゅう暴言を浴びせられていた。

そんな環境で全国を飛び回る過酷な勤務を続けたDさん。

ところが会社からは午後6時になると支給されているタブレットで退勤ボタンを押すよう指示されたという。

実際はその後も午後10時を回るまで営業が続くことは珍しくなく、そのまま翌朝のアポのある場所まで深夜に移動することもあった。

こうした長時間勤務の残業代は今に至るまで全く支払われていないと訴える。

「嘘ついてでも契約取ってこい」。

原告のEさんはこう言われ、1年余りで会社を辞めた。

退職前には上司に契約が取れなかったことを報告した際の電話のやりとりを録音していた。

再生すると、約7分間に「あほ」「何がゼロじゃ、貴様」などの罵声が何度も響く様子が確認できる。

原告らは会社に対し、交通違反の罰金などとして賃金から控除した会社の不当利得の返還、未払い残業代の支払い、暴力やパワハラによる慰謝料を求めている。

冒頭に登場したAさんは、個人ではどうにもならないと最初はあきらめていたというが、「(これから先)わたしのような人がもう出てほしくない。わたしで少しでも役に立てれば」と裁判に参加した理由を話した。

原告側が主張するパワハラやベンサイ、交通違反の高額な罰金などの事実関係についてネオ・コーポレーション社に質問すると「現在係争中の事案に関しては回答を控える」とのことだった。

ネオ・コーポレーション社は、HPによると2018年には経団連にも加盟し、プロ野球東北楽天ゴールデンイーグルスの「オフィシャルシルバースポンサー」にもなっている。

HPにあるコンプライアンス憲章にこう書いている。

「わたしたちは、事業活動を通して適用される法令や社会規範を遵守し、良識に基づいて行動いたします」。

裁判の行方を見守りたい。

参照元:Yahoo!ニュース