子どもは「たたけばおとなしくなる」 過ち重ねたベテラン保育士「もう保育には関わらない」

乳児院で入所する乳幼児4人をたたくなどしたとして、暴行罪に問われた愛知県一宮市の元保育士の女(56)に対し、名古屋地裁(村瀬恵裁判官)は11日、懲役2年、執行猶予3年(求刑・懲役2年)の判決を言い渡した。
保育士として30年近いキャリアを積みながら、暴力で子どもをコントロールする過ちを重ね、自ら「夢の仕事」を手放した。
判決によると、女は昨年12月~今年1月、名古屋市内の乳児院で、当時0~.歳の1人の胸を蹴ったり、頭をたたいたりするなどの暴行を加えた。
女が勤務していたのは、様々な事情で家庭での保育が困難な0~2歳頃の乳幼児を預かる施設だった。
5月の被告人質問で女は、施設に入る乳幼児について「中には、なかなか愛情をかけてもらえなかった子もいる。愛情が不足しがちなので、スキンシップをとって関係を築いていかないといけない」と説明していた。
「子どもの時、先生に優しくしてもらい、うれしかった」。
その原体験から、中学生の頃には保育士が夢になっていたという。
短大を卒業し、1996年に乳児院で働き始めた。
優しい保育士にあこがれていた女の意識が変わったのは、2017年頃のことだった。
散歩中に騒いで弁当をひっくり返した子どもの頭を思わずたたいた。
かわいそうだと思った一方、その行為は「いざとなれば、たたけばおとなしくなる」という経験として残った。
その後、子どもへの接し方について乳児院から注意を受けたこともあったが、「ずっとやりたかった職業」と仕事は辞めなかった。
しかし、乳児院は一昨年には女の虐待も疑い、施設に防犯カメラを設置した。
そのカメラの前で、事件は起きた。
いずれも、女が夜勤で1人で勤務している時間帯だった。
「カメラがあることはわかっていても、自分が抑えられなかった」。
事件時は、雑務が終わらずいらいらしていたという。
乳児院は懲戒解雇になった。
公判で女は「全体的に疲れていた」と説明した。
事件のしばらく前から、乳児院内で新型コロナやインフルエンザが流行し、様々な予定の変更に対応しなければいけなかった上、避難訓練の計画を立てるなどの業務にも追われていた。
夜勤は夕方から翌朝までの長時間に及ぶ。
腰を悪くし、それをかばって膝にも負担がかかっていたという。
一方で、被害に遭った乳幼児の保護者らは「自分の言葉で被害を訴えることのできない子どもに暴行するなんて、弱い者いじめで許せない」と怒りがおさまらず、一部とは示談が成立していない。
村瀬裁判官は判決で「保育士という乳幼児らを保護すべき立場にありながら、暴行を繰り返した」と厳しく非難した。
「保育の仕事に関わることはもうしない」と法廷で誓った女は、判決の言い渡しが終わると裁判官に何度も頭を下げた。
そして、足をひきずって法廷を後にした。
参照元:Yahoo!ニュース