「大型ダンプを切り返して執拗に攻撃」上司をひき殺した男 殺人罪の法定刑の上限を超える懲役23年の判決 福岡地裁小倉支部

福岡地方裁判所の外観を撮影した画像

去年10月、北九州市の採石場で、上司の男性を大型ダンプカーでひき殺したとして殺人などの罪で起訴された男に12日、福岡地裁小倉支部は懲役28年の求刑に対し、懲役23年の判決を言い渡した。

福岡県築上町の無職、高橋博行被告(62)は去年10月4日午後2時半ごろ、北九州市小倉南区新道寺の採石場で、70トンの大型ダンプカーを運転し、上司の山崎雄二さん(当時51)をひき殺したほか、別の同僚男性2人もひき殺そうとしたとして、殺人と殺人未遂の罪に問われていた。

12日の判決公判で、三芳純平裁判長は「勤務環境などに不満を有していたものの、殺人行為に及ぶことは飛躍があり、正当化する事情は見当たらない」と指摘した。

その上で「被害者に弁償金を支払っていることなどを考慮しても刑事責任は重大」として、懲役28年の求刑に対し、懲役23年の判決を言い渡した。

判決では、大型ダンプカーを遅くとも30キロのスピードで被害者3人に向かって走らせたと認定した。

ダンプカーは重さ70トンを超え、幅6メートル超、高さ5メートル超と巨大なもので、これで人をひけば死亡させることは必至で、現に車2台ですら原型をとどめないほど潰れていて、そんな車両を人に向けて走らせることは危険性が極めて高いとした。

しかも、高橋被告はダンプカーを回避した同僚の姿に気づき、車を切り返してさらに前進させるなど執拗に攻撃を試みたと指摘した。

さらに、駆けつけた現場監督が乗った車を躊躇(ちゅうちょ)なく踏み潰していて強固な殺意があったといえるとした。

人命が失われた結果は取り返しのつかないものであることはいうまでもなく、未遂にとどまった被害者2人についても紙一重で助かったのにすぎず、巨大なダンプカーが間近に迫る恐怖を体験したことで、精神的な苦痛を受けているとした。

動機については、上司や同僚への不満をため込んでいた中で怒りが爆発したと認定した。

その上で、不満をため込んでいた背景に同情の余地がまったくないとは言えないが、勤務先も高橋被告の体調を考慮して、ダンプトラックの運転を担当させるなど勤務環境に配慮していた面もあり、殺人行為に及ぶこととの間には飛躍があると断じた。

計画性がないことや未遂にとどまった2人に損害賠償金を支払い、事実を認めて謝罪していることなどを考慮しても、殺人罪に対する有期懲役刑の法定刑の上限である懲役20年にとどまるものではないとして、懲役23年の判決を言い渡した。

これまでの公判で、検察は冒頭陳述で「同僚とトラブルになったあと、上司からダンプカーを降りるように言われ、退職させられると思い激怒し、犯行に及んだ」と指摘していた。

一方、弁護側は「上司の日頃の口調の激しさをパワハラと悩み、労働局や社長に相談していた」などと主張し、情状酌量を求めていた。

検察は冒頭陳述で、次のように主張していた。

殺害された上司の男性は責任感が強く実直な人柄で、取り扱う業務の危険性や班長としての立場上、部下に厳しく注意することはあったが、ほかの従業員からの不満は特になかったという。

胸と腹を圧迫されたことによる多発外傷で即死だった。

殺人未遂の被害者となった2人のうち1人はショベルカーの担当で、1人は元請けの現場監督だった。

高橋被告は、公道を走れない70トンの大型ダンプの担当で、石灰石を運搬していた。

高橋被告は2019年に入社し、長年、ショベルカーを操縦して採石作業に従事してきた。

去年8月ごろに肩の痛みを訴え、これに会社が配慮して、大型ダンプによる運搬業務へと配置換えをしたという。

その後、高橋被告がダンプを脱輪させるトラブルを起こし、業務内容の変更を促されたが、仕事を続けたい旨を直訴したという。

その翌月、高橋被告は上司からパワハラを受けていることや、同僚のショベルカーの運転が荒いと労働局に相談した。

そして事件が起きた去年10月、高橋被告が作業中に、ダンプの荷台に石を積み込むのが乱暴だとして同僚を無線で罵倒した。

高橋被告が採石場を離れ、荷台に積んだ石灰石を集積場に運びに行っている間に、無線で罵倒する様子を聞いた上司が心配して、やってきた。

高橋被告が戻ってきたところ、上司にダンプから降りるよう無線で促され、自分が怒られ退職を迫られると考え激怒したと検察は指摘した。

高橋被告は、乗用車の前で立って会話していた上司と同僚めがけて時速30キロでダンプで突っ込み、上司はひき殺され、ダンプは乗用車に衝突し踏み潰した。

さらに、ダンプを切り返し、崖の上に逃げた同僚と、駆けつけた現場監督が運転する乗用車めがけて突っ込んだ。

ダンプはこの乗用車にも衝突して踏み潰し、現場監督は間一髪で崖の上に逃げたという。

ダンプはいったん後退するも、また前進して、崖の上に逃げた同僚まで数メートルのところで停止した。

事件からおよそ1時間後、110番通報を受けて駆けつけた警察が、高橋被告を現行犯逮捕した。

以上は、検察の冒頭陳述の内容だ。

参照元:Yahoo!ニュース