財務省VS文科省バトル再び 中学程度の私大授業に財務省「助成の在り方見直しを」求める

文部科学省の外観を撮影した画像

定員割れの私立大の中には、小中学生が学ぶ内容の授業が行われているケースがある-。

財務省が一部私大の授業内容を問題視し、文部科学省に対し、私学助成の在り方を見直すように求めた。

これに文科省は、「大学での学び直しも必要だ」などと反論。

両省は、令和7年度の予算編成でも公立学校教員の残業代のあり方で対立しており、早くも来年度予算を巡って、再びつばぜり合いが始まっている。

問題の発端は4月15日に遡(さかのぼ)る。

財務相の諮問機関の財政制度等審議会が「教育の質の実態」と題した資料で、定員割れしている一部私大をやり玉にあげた。

資料では、数学の授業は足し算や引き算といった四則演算から始め、英語は現在形と過去形の違いなどを教えていると列挙。

いずれも大学が公表しているシラバス(講義内容)から抜粋したとしている。

さらに、資料では約6割の私大が「定員を割っている」と指摘し、そうした私大ほど「学生1人あたり(公費)の補助額が大きい」点などをデータを示して問題視した。

人口減少が見込まれる中で大学の定員減や統廃合などで規模の適正化を図るため、助成にあたっては「教育の質も評価基準にすべきだ」とした。

これに、文科省は反発する。

4月24日の私大の在り方を検討する有識者会議で、財務省の指摘に対する見解をまとめた資料を公表した。

財務省が指摘した一部私大の四則演算の復習はデータサイエンスや人工知能(AI)の基礎学習につながり、英語の基本的な文法の確認は専門分野など次の段階に進むための「基礎固めになっている」と主張。

さらに、こうした私大については、学生の地元企業への就職率が高いと強調し「地域に不可欠な人材養成を担っている」などと訴えた。

文科省の試算では、大学進学者数は令和8年の約63万人をピークに減少に転じ、23年には約42万人になると見込む。

一方で私大の入学定員は増え続けている。

このため、私大規模の適正化を進める必要性については両省の考えが一致する。

文科相の諮問機関の中央教育審議会も今年2月に、大学の運営状況などを第三者機関が審査する「認証評価制度」に教育の質の評価を加えるよう答申。

将来的に評価制度を予算配分に反映することも視野に入れている。

ただ、年間計約3千億円が各私大に分配される私学助成については、地方の実態をどこまで考慮するかで両省の意見が対立。

財務省は「高等教育にふさわしい教育を行っているか」も認証評価制度の基準とし、助成について「メリハリ」を強調する。

文科省の担当者は「授業内容を一面的に取り上げるだけでなく、卒業後の就職状況などから評価する観点が必要だ」と繰り返した。

私学助成を巡り、文部科学省が財務省の反論の一つとして挙げた地方の私大の地元への「人材輩出機能」についてはデータの裏付けもあるという。

文科省によると、地方の大学で、地元出身の学生の割合が最も高いのは沖縄。

県内の国公私大で地元出身の学生が占める割合は平均で78.8%に上る。

一方、県内就職率は私立の沖縄大で83.6%なのに対し、国立の琉球大は53.3%だ。

他府県でも同様に大半の私大が国公立大よりも地元就職率が高い。

地元出身の学生割合が最も低い鳥取県(21.2%)でも、地元就職率は私立の鳥取看護大が70.5%に対し、公立の鳥取環境大は18.8%だった。

地方の私大は定員が埋まらず経営難に陥り、公立化するケースも出ている。

公立化すると地元の就職率は減少し、人材輩出機能を果たせない「弊害」も出ている。

平成22年に公立化した静岡文化芸術大では、20年には地元就職率は72.7%だったが、令和4年には39.1%まで激減した。

かつての大学は、高校生の3割程度しか進学しないエリート主体だったが、今は6割が進学する時代だ。

学力に差があるのは当然で、基礎学習をおろそかにしてきた学生が学び直す機会にもなっている。

そうした大学を否定すれば、基礎を知らずに社会に出る若者を容認することになる。

彼らは大学で成長し、社会を支える貴重な人材として活躍するケースが多い。

一方で、定員割れしている大学の規模の適正化は重要だ。

ただ、「定員割れ」と「教育水準」は別の問題だ。

それを恣意(しい)的に混同させ、定員充足率で助成額の判断をすべきではない。

地方では、18歳人口の急激な減少で定員割れしているケースが多い。

大学は社会のインフラだ。

それぞれの役割や実態をよく見る必要がある。

参照元:Yahoo!ニュース