「声優人気」の光と影 アニメ”大ブーム”で露出増加の一方、”週刊誌報道の標的”にも

“声優”と聞いて皆さんはどのような印象を抱くだろうか。
アニメキャラに魅力的な声を吹き込む職業というイメージの他に、最近ではバラエティ番組やドラマ等で活躍する姿を思い浮かべる人も少なくないと思う。
実際、2020年以降の未曾有のアニメブームも後押しとなり、声優という職業の社会的な位置づけもそれ以前とは大きく変わった。
世間の認知度が高まり、活躍の場が広がったことで、これまで以上に脚光を浴びるようになってきた。
実は声優人気そのものは、最近になって急に生じたものではありません。いわゆる「声優ブーム」は、これまでに何度も生じてきた。
アフレコ以外に舞台や音楽ユニットで活動し、アイドル同様に出待ちや追っかけがいたり、なかには武道館を埋めたり紅白出場を果たした声優の方々も多数存在する。
しかしそれらはあくまで、主にアニメファンの間で知られていたことであり、アニメ文化の外側で世間一般の目に触れ、認識されることはあまりありなかった。
こうした状況が変わったきっかけが、2020年前後からアニメ『鬼滅の刃』が起こした社会現象と、コロナ禍における動画配信サービスの定着だ。
それまでアニメファン以外へのリーチが難しかった深夜アニメが、配信を通じて幅広い層にまで届くようになると、『鬼滅の刃』以降も社会的なヒットが次々と生じるようになる。
そして『呪術廻戦』や『東京リベンジャーズ』といった作品が情報番組で特集されるようになるにつれ、出演声優の方々がバラエティ番組などに呼ばれる機会も増えていった。
それ以前は、声優のバラエティ番組への出演といえば『ドラゴンボール』や『ドラえもん』といった、お茶の間やスタジオゲストもわかる国民的作品の出演者に限られがちだった。
それが昨今のアニメブームを経た今、お茶の間で通じる「あの作品のあのキャラ」の幅が広がったことにより、人気トークバラエティの『踊る! さんま御殿!!』(日本テレビ系)での「声優祭り」をはじめ、幅広いキャリアの方々の出演機会が増えていった。
テレビ番組などでの露出が増え、個々のポテンシャルや人気、SNSでの反響の大きさが知れ渡ることで、メディアや世間一般の声優への認識も大きく変わった。
こうして、これまでアニメファン以外にはなかなか知られてこなかった声優の魅力に世間が気づいたことこそが、ここ5年ほどの声優人気の正体でもある。
そしてこの世間の認識の変化に伴い、声優の活躍の場やお仕事の内容も、大きく広がっていくことになる。
アフレコ以外だと、たとえばライブや舞台での活躍を想像する人が多いかもしれないが、この10年ほどで、声優の活動の場は意外な場所にまで広がった。
今では、野球の始球式や場内アナウンスをはじめ、自治体の観光大使やアパレルブランドのプロデュース、警察や消防署の一日署長を務めることさえある。
なかでも世間への影響力が最も強かったのは、ここ5年ほどで大きく増えた顔出しでのテレビ出演だ。
ドラマ『半沢直樹』への出演や『おげんさんといっしょ』で活躍した人気声優の宮野真守さんをはじめ、最近では『呪術廻戦』の七海建人役などでもお馴染みの津田健次郎さんがフジテレビのドキュメンタリードラマで初主演を飾ったことも話題になった。
また、おそらく読者の方々が一番目にする機会が増えているのは、朝ドラや大河ドラマでの、声優出演に関するニュースではないだろうか。
今期の『あんぱん』や『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』でもそうだが、その注目度は今や出演決定時だけでなく、声優の方々の登場回にも改めて報道が行われるほどだ。
実をいうと、声優の中には舞台でお芝居をした経験のある方も多く、実写ドラマに出演すること自体は今に始まったことではない。
この約5年で一番変わったのは、そうした声優の方々のドラマ出演などが、その都度“ニュースになるようになった”ことだ。
その理由としては、声優関連の話題がSNSと相性が良いことも考えられる。
ファン側からすると思うところもあるが、実際に声優関連の話題がSNSを活発に利用するアニメファンの拡散でトレンド入りやPV数上昇につながりやすいことも確かだ。
そうした盛り上がりがクライアント側の目にもとまり、そこから新たなドラマやCM、映画などへの出演機会が生まれていくというサイクルも生じているのだろう。
これらは、2020年以降に改めて声優の持つポテンシャルに世間が気づき、その人気や求心力が人々に知られた結果生じたポジティブな側面だ。
一方、そうした人気の“光”は、声優業界にこれまでなかった“影”を落とすことにもつながっている。
現在では声優という職業は、アイドルやタレントと同様に、週刊誌にプライベートを狙われる存在になった。
10年前であればほぼ見かけなかった声優関連の週刊誌報道が、ここ数年でかなり増えてきていることは、多くの人が実感しているところだと思う。
スキャンダルばかりが目立って見過ごされがちですが、一方で何もしていない声優も、日々の生活や家庭事情といったプライベートな領域が侵害されるようになってしまったのだ。
正直なところ、アニメファンや声優ファンに、そうしたスキャンダルや公にされていないプライベートの情報を求めている人はほとんどいないと思う。
需要がないのにそうした報道が増え続けている一因には、声優関連の話題とSNSの相性が良いばかりに、“数字が伸びる”と認識されてしまったこともあるのだろう。
活躍の場の拡大やプライベートが脅かされるストレスは、これまで以上の心労や疲労を生み出すのか、心身の不調で休養や活動休止をする方も最近は少なくない。
ただし、身体を壊してまで活動の幅を広げることが問題視されたことで、”無理なら休む”という選択肢ができたことを前向きにとらえる見方もある。
声優という職業が生まれてから、さまざまな変化やブームが幾度も生じてきたが、2020年以降のアニメブームを経た今もまた、業界はかつてない過渡期を迎えているといえる。
世間に広く認知されて活動の場が増える一方、それに伴う新たな脅威が生まれたことで、声優や事務所関係者も、前例や答えのない問題と日々直面している状況だ。
しかしそれでも、昨今のアニメブームや声優人気を鑑みると、アニメファン憧れの職業でもある声優志望者が減ることはないように思う。
ただ、今後はそうした志望者や声優本人にも、自身や関係者を守るためのコンプライアンスやネットリテラシーといった新たな素養が、本職の技能に加えて必須となりそうだ。
加えて、アニメの現場とは文化の異なるテレビ番組への出演対応や、週刊誌報道への対応など、今後は声優事務所に求められるものもますます変化していくことが予想される。
華やかな側面ばかりに目がいきがちだが、業界全体は今どのような課題や変革に直面しているのか。
アニメ文化を支えるひとつの柱でもある声優文化がより一層広く知られていく中で、今後はそうした機微にも社会的な注目が集まっていきそうだ。
参照元:Yahoo!ニュース