夢のロボタクシー実用化近づく、技術進歩でコスト低下

AIをイメージした画像

自動運転車はこれまで「実現することのない究極の約束」のように思われてきた。

米電気自動車(EV)大手テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)や日産自動車を追われたカルロス・ゴーン元会長など多くの人々が「人間の運転手を必要としない車」がまもなく登場すると予言してきたが、実現することはなかった。

しかし最近になってそうしたムードに変化が起きている。

コストが下がって初期の市場で導入が進み、人工知能(AI)のおかげで性能が向上しているためだ。

依然として課題は残るが、自動運転タクシー(ロボタクシー)の実用化はますます確実なものになりつつある。

マスク氏は、ロボタクシーの実用化が期待を裏切ってきた歴史の象徴と言えるのではないか。

同氏は過去10年間、本格的な自動運転車の到来次期を2018年、19年と次々と予告しながら、それがことごとく外れ、自らを「オオカミ少年」と自嘲するほどだ。

実際のところ、無人運転車は試験走行が一部で始まったものの、例えば2023年にゼネラル・モーターズ(GM)傘下の自動運転子会社クルーズの車が歩行者と衝突するという悲惨な事故を起こしたことで、実用化は大幅に後退したと受け止められた。

とはいえ、今では実用化のペースが加速している。

テスラは今月後半にも米テキサス州オースティンでロボタクシーサービスを開始する予定だとブルームバーグは報じたが、それですら先行する競合他社に追いつこうとしている状況だ。

アルファベット傘下のWaymo(ウェイモ)はすでに複数の都市で商用サービスを運用しており、ベンチャーキャピタル企業ボンドのアナリストによれば、サンフランシスコでの市場シェアは米ライドシェア大手リフトを上回っている。

自動運転技術は先行する米中から世界各地に広がっており、中国の文遠知行(ウィーライド)は今年に入ってアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで商用サービスを開始。

ウェイモも日本での試験走行を進めている。

見通しが楽観的になった背景にある大きな要因の1つが、コストの低下だ。

まずは車両を例に取ろう。

モルガン・スタンレーのアナリストの試算によると、自動車の位置を特定する多数のセンサーや、それを解析して走行するためのコンピューティング能力を装備したウェイモの現行世代車両のコストは12万ドル強だが、同社の次世代車両は8万5000ドル程度まで下がる可能性がある。

ゴールドマン・サックスは昨年7月、2030年までには専用車両の価格が5万ドルまで下がってもおかしくないと予測した。

百度(バイドゥ)のロビン・リー最高経営責任者(CEO)は、同社がコストを3万ドル以下に抑えることができると述べ、マスク氏もテスラがこの水準を実現することは可能だと発言している。

鍵となるのは生産台数の増加であり、テスラにとっては高価なセンサー技術を使わないようにすることも重要な要素だ。

一方、そうしたセンサーを使い続ける企業にとっても朗報はある。

中国メーカーの上海禾賽科技(ヘサイ・テクノロジー)は最新世代のセンサーのコストは前世代の半額になるとの見通しを示した。

もちろん、こうした楽観的な見通しを実際に形にするのには大きな困難を伴う。

しかしそこに少しでも近づくことができれば極めて大きな意味を持つ。

というのも、投資銀行TDコーエンによると乗車1回あたりのコストの大半は車両の減価償却によって占められているからだ。

それでも、運用コストの抑制は欠かせない。

初期の自動運転技術は、脳の神経細胞の回路をデジタルで再現した「ニューラルネットワーク」と手作業によるルール設定が複雑に絡み合い、現実世界の膨大なデータによる微調整が不可欠だった。

普通の地図だけでは足りず、運行エリアを詳細に測定し、しかもそれを継続的に更新しなければならなかった。

テスラの技術はこうした手間を省ける点に魅力がある。

テスラは、カメラからのフィードバックをもとにリアルタイムで判断を下す手法を採っている。

一方、英ウェイブや中国のポニーAIなどは生成AIを活用して仮想的な訓練シナリオを作り、人間の運転手なら容易に対処できるがAIには稀な「コーナーケース(通常想定外の状況や、境界条件下で発生する、ソフトウエアや機械の不具合)」への対応力を養おうとしており、こうした技術によって運行時の負担が軽減される可能性がある。

たとえばウェイブは、自社のソフトウエアが米国やドイツの見知らぬ道路でも数週間の追加訓練で走行できたと主張している。

もちろんテクノロジーは時に失敗を犯す。

そのため人間が監視し、必要に応じて介入できる体制が不可欠だ。

消息筋によると、ポニーAIは現在、1人の監視員で最大12台の車を監視している。

ただし監視員1人当たりの台数は最終的に安全性に関する世論によって決まるかもしれない。

監視員の必要数については業界関係者やアナリストの間でも意見が分かれており、「5台に1人」から「50台に1人」まで幅広い。

それでもモルガン・スタンレーの試算では、車両1マイルあたりの運用コストに占める監視員の割合は5%未満にとどまる。

こうした流れを受けてロボタクシーは収益化の可能性が現実味を帯びてきた。

華泰証券のアナリストはポニーAIの車両コストが2028年には20万元(約2万8000ドル)になり、車両の減価償却・リモート監視、整備、保険など全てを含めたコストが年間10万元程度に抑えられると試算している。

仮に1キロあたり3元で運行し、1年のうち340日、1日あたり300キロ走行できれば(これは人間のタクシードライバーが極めて人口密度の高い都市部で達成している水準だ)、たとえ一部の走行が乗客なしの移動だったとしても、この2倍の売上を見込むことができる。

研究開発費や資金調達費など、企業の負担は依然として残る。

だがLSEGが集計したアナリストの予測によれば、ポニーAIは2029年までに純損益が黒字化すると見込まれている。

道路清掃のようなよりシンプルな自動運転サービスも手がける同業のウィーライドは2027年にも黒字化する可能性があるとの予測もある。

もちろん注意すべき課題も多い。

実用的なロボタクシーを開発することと、実際に顧客を獲得することはまったく別物だ。

ウェイモやウィーライドといった運営企業はこれまでウーバーのような既存のライドシェアアプリと提携する傾向にある。

TDコーエンのアナリストによれば、こうした市場で支配力のあるプラットフォームは予約金額の最大30%を手数料として取り上げる可能性がある。

さらに国際展開には政治的障壁が立ちはだかる恐れもある。

例えば米国では中国製のコネクテッドカー(つながる車)技術の使用が事実上禁止されているし、米政府による半導体や製造装置の輸出規制の強化は中国の製造業にとって大きなリスク要因となっている。

ほかにも予測不可能な要因がいくつも存在する。

たとえば、各地の規制当局の判断――必要とされる監視員の人数や、ロボタクシーが運行できるエリアの制限など――がコストや収益構造に大きな影響を与える。

重大事故が一度でも発生すれば(クルーズが致命的な事故で打撃を受けたように)、規制の厳格化や顧客の不安感を招きかねない。

既存の業界のロビー活動によってロボタクシーが特定市場に参入できなくなる可能性もある。

だから一部の経営トップが慎重な姿勢なのも理解できる。

フォルクスワーゲン(VW)のパートナー企業ホライゾン・ロボティックスのユー・カイCEO氏はBreakingviewsの取材に、現在の自動運転車を「馬」にたとえ、A地点からB地点には「だいたい」たどり着けるが、乗客が安心して昼寝できるほど賢くはないと述べた。

マスク氏もかつて「走行距離の90%を自動運転でカバーするのは簡単だが、最後の10%が極めて難しい」と語っている。

現在のロボタクシー市場は、まさにその「最後の10%」をいかに黒字化できるかにかかっている。

参照元:REUTERS(ロイター)