中国製電子たばこに関税直撃、米国への輸入減少 それでも「ニコチンは生き残る」

タバコを撮影した画像

「ベープ」と呼ばれるフレーバー付きの使い捨て電子たばこが、世界最大の市場である米国でさらに高価になるかもしれない。

価格上昇どころか、入手自体が困難になるとの見方もある。

公式データによれば、米国では中国からの電子たばこの輸入が5月にほぼ停止した。

トランプ関税と、無認可電子たばこに対する取り締まりによるものだ。

米食品医薬品局(FDA)のデータによると、5月1―28日に「電子たばこ」または「ベープ」として輸入申告された製品の出荷件数は71件にとどまり、前年同期の約1200件から大幅に減少した。

トランプ氏が政権に復帰して以来、輸入は2―4月に40―60%減少し、5月には事実上停止した。

中国の奇思智能製造の人気電子たばこ「ギークバー」は米国で販売認可を得ていないが、輸入規制をかいくぐって広く流通していた。

ある小売業者によると、通常なら週に100箱のギークバーを仕入れていた卸売業者が、現在はわずか10箱しか入手できていない。

別の業者は購入数量に初めて制限を設けたという。

「新型コロナウイルスの世界的な流行時にも供給網の問題はあったが、今回のような事態は初めてだ」とこの業者は述べた。

供給業者は関税による価格上昇と供給量減少を理由に、1回の購入を5箱までに制限すると顧客に通知していたことをロイターが確認した。

トランプ氏は4月に対中関税率を145%まで引き上げた後、30%へ引き下げた。

違法な電子たばこの大量押収もあった。

これらの影響で、ギークバーをはじめ中国企業が所有する電子たばこの供給が大きく制限されていると、業界関係者5人および卸売業者の通知からロイターが確認した。

米国の電子たばこ流通業者らは、今後価格が上昇するとの見方で一致している。

「関税の影響で確実に値上がりする」と予想する業者もいた。

もっとも、販売に与える影響は限定的だとの見方はある。

英ブリティッシュ・アメリカン・タバコの米子会社の報道責任者ルイス・ピント氏によると、無認可の電子たばこは利幅が大きいため、業者側がある程度関税分を吸収することも可能だという。

ニコチン依存の消費者は価格が上がっても購入をやめない傾向がある。

「値上げされても顧客は買う。ニコチン製品なのだから」と前出の流通業者は語った。

現在およそ20ドル(約2900円)で販売されているギークバーは、仮に5ドル値上げされても「十分にお買い得」だとこの業者は考えている。

メーカーの奇思智能製造はロイターの取材要請に回答しなかった。

BATのピント氏も、関税により価格は上昇するとしつつ「使用を妨げるほどではない」との見解を示した。

世界の電子たばこの多くが中国の深センで製造されている。

一部の工場は日本たばこ産業のように、米国での販売許可を正式に取得している大手企業向けに電子たばこ製品を製造している。

一方で、米当局が輸入・販売を違法と見なしている無認可の電子たばこを供給し、急成長する市場を支えている工場もある。

ピント氏によれば違法な電子たばこ製造業者は、関税を回避するため出荷品の内容を偽ったり、実際よりも低い価格で申告したり、輸出元をインドネシア、ベトナム、メキシコに偽装することがあるという。

FDAや米税関・国境取締局(CBP)によれば、中国からの電子たばこは「靴」や「玩具」など別の商品を装って密輸されるケースも多い。

市場調査会社サカーナが2024年に追跡した電子たばこにおいて、ギークバーはFDAの販売許可を持たないにもかかわらず米国販売の約4分の1を占め、最も広く流通していた。

ギークバーを含む中国製の無認可電子たばこは、BATや米アルトリア・グループなど大手たばこ会社の認可製品と並んで全国の卸業者や小売店で販売されている。

流通業者、元業者および大手中国系電子たばこ企業の元関係者によると、関税措置は米国市場における電子たばこのパニック的な買いだめ、輸送費の高騰、国境通過時のリスク増大を招いた。

FDAは2月、シカゴで無認可電子たばこの大規模な押収を発表。

マカリー新長官の下で取り締まり強化を打ち出した。

政府による通知では3―4月にも摘発が行われた。

BATの推定では、2024年時点で米国の電子たばこ市場の約7割を無認可製品が占めていた。

ギークバーなどの台頭は大手たばこ会社のシェアを侵食している。

アルトリアのギフォード最高経営責任者(CEO)は、4月の投資家説明会で「関税によって国境での取り締まりが強化されることを期待している」と述べた。

中国と米国の間で行われる航空貨物および海上輸送の容量も、貿易摩擦の激化により大幅に減少しており、電子たばこを含む貨物全体の流通に影響を及ぼしている。

FDAのデータは電子たばことして正規に申告された貨物のみを記録しているため、実際には業界全体での売り上げが増えていても、FDAの統計上での輸入量は2020年以降、減少傾向にある。

FDAの広報担当者は「今後、違法輸入の取り締まりとコンプライアンスの徹底に向けた取り組みを強化することで、当局が把握する貨物の数は増えると見込んでいる」と述べた。

無認可電子たばこの一部はすでに、生産拠点を中国からインドネシアへ移している。

中国製品への関税が長期化すれば、この傾向はさらに加速するとみられる。

「電子たばこ業界は極めて適応力が高い。米国で何が起ころうとも、業界は生き残る」と元従業員は語った。

参照元:REUTERS(ロイター)