メキシコで裁判官選挙、最高裁は与党関係者が支配へ 司法の独立性に懸念

メキシコの国旗を撮影した画像

メキシコで1日、有権者が裁判官を選ぶ選挙が初めて実施され、シェインバウム大統領率いる与党・国家再生運動(MORENA)とつながる判事らが最高裁を支配する見通しとなった。

選挙を巡っては、行政の権力に対するチェックアンドバランス(抑制と均衡)が弱まりかねないとの批判が出ていた。

選挙では最高裁判事9人が選出される。

従来の判事数は11人だった。

判事の大半は、今回の選挙の契機となった司法改革に反対して辞任し、選挙への参加を拒否した。

投票率はわずか13%だった。

今回の選挙は連邦レベルで840人余り、地方と州レベルで数千人の裁判官も選ぶものだ。

3日夜までに票の集計はほぼ終わり、最高裁は政治ポストを通じてMORENAと関係のある判事で占められる見通しとなった。

うち数人は、司法改革を推進したロペスオブラドール前大統領が支持していた人物だ。

ロペスオブラドール氏と、その「秘蔵っ子」であるシェインバウム氏は、欠陥のあるメキシコの司法制度から腐敗を根絶し、市民のアクセスを改善するためには改革が必要だと主張した。

同国の司法改革は、西側諸国で近年実施された改革の中で最も広範な部類に入る。

批判派は、MORENAに歯止めをかけるチェック・アンド・バランス(抑制と均衡)が消滅し、民主主義が弱体化し、強力な麻薬カルテルが司法制度に影響を及ぼしやすくなると警告していた。

既に上下両院で過半数を占めるMORENAは今回の選挙により、メキシコの三権全てを掌握しそうな情勢だ。

モンテレイ工科大で司法監視機構の共同調整役を努めるローレンス・パンティン氏は選挙後の裁判所について、「ロペスオブラドール氏が大統領在任中に常に夢見ていたものになりそうだ」と語り、「目的は明らかに、司法機関を行政機関に従属させることだった」と明言した。

一部の専門家は、ロペスオブラドール氏が司法改革に熱意を燃やしたのは、2018年から24年の大統領在任中に最高裁と緊張関係にあったためだと指摘している。

最高裁は、選挙管理機関INEの権限縮小や国家警備隊の軍管理下への移管などを含め、同氏の政策の障害となることが度々あった。

米コーネル大のグスタボ・フローレスマシアス教授(公共政策)は、ロペスオブラドール氏は最終的には大半の政策を実現できたものの、最高裁は同氏の権力に対する重要なチェック機能を果たしたと指摘する。

ロペスオブラドール氏が残した政策を継承しようとしているシェインバウム氏は、裁判所からの抵抗が大幅に弱まる見込みだ。

その結果、軍による民事活動への参加をさらに強化したり、インフラプロジェクトを巡る手続き上の制約を無視したりすることが容易になるかもしれない。

ロペスオブラドール氏はエネルギー分野でも裁判所の抵抗に遭った。

しかし司法がMORENA支持者だけで構成されるようになれば、政府は米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に基づく環境上の義務や投資家保護措置をずっと回避しやすくなる可能性もある。

フローレスマシアス氏は「印象は良くない。大統領が推進する政策に対して、最高裁がカウンターバランスとして機能するのは非常に困難だ。しかも議会で過半数を占めているのだから」と語った。

ただ、同氏は裁判所を支持者で固めれば、ロペスオブラドール氏が失敗の責任を転嫁してきた裁判所というスケープゴートをシェインバウム氏とMORENAは失うとも指摘する。

投票率が低かったことから、野党は既に法廷闘争をちらつかせている。

野党、制度的革命党(PRI)のアレハンドロ・モレノ党首は、選挙結果の無効化を求め、投票を「民主主義とは無関係な茶番」だと非難。

2日の記者会見で「われわれは権威主義政権、独裁制へと向かっているが、MORENAの人々は気にかけていない」と訴えた。

1党支配の危険はあるものの、新たな最高裁は多様な顔ぶれとなりそうで、一部で前向きな効果をもたらす可能性もある。

例えば、最高裁判事選をリードしているのは先住民の権利擁護を訴えている人物だ。

パンティン氏は「裁判所内には多様性がほとんど存在せず、近年は先住民出身者がいなかったため、明るい側面もあるかもしれない」と言及した。

参照元:REUTERS(ロイター)