恋愛も性行為もない「友情結婚」をした2人、一緒に3年暮らしてどうなった? きっかけはあの人気ドラマ、できた子どもは口そろえ「かわいい」

結婚をイメージした写真

「友情結婚」とは、2人の間で性行為をしないと合意して行う正式な結婚のことだ。

中国地方在住の夫婦、サツキさんとミナトさん=いずれも仮名、30代=は、2021年に友情結婚をした。

お互いに相手のことをこう言う。

「タイプじゃない」

それでも2人は一緒に暮らしはじめた。

2023年には不妊治療と同じ方法を使って、性行為なしで子どもができた。

結婚して3年半たった現在も夫婦仲は良好だ。 

2人はどちらも異性に性的欲求を抱かない。

友情結婚を選んだのには、それぞれの事情がある。

妻のサツキさんは小学生のころまで、同性が恋愛対象になり得るということ自体を知らず、同級生の間で好きな人の話題になると男子の名前を挙げていた。

中学生のときに女性同士の恋愛を描いた漫画を読んだことで、自分が女性に引かれていることに気づいた。

性的接触は、深く知り合った同性としか望まない。

そうとは知らない母親から、顔を合わせるたびに結婚や出産をせかされてきた。

転機は2016年放送のTBS系ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」だった。

新垣結衣が演じる主人公の女性と、星野源が演じる男性は「雇用主と従業員」の契約関係として夫婦になる。

最終的に2人は結ばれるが、サツキさんが興味を持ったのは、恋愛や性行為を前提としない結婚の形があるということだった。

「自分が求めているのはこれかもしれない」

調べるうちに友情結婚にたどり着いた。

夫のミナトさんは、恋愛対象は女性で、性的欲求は男性にしか抱かないという。

もしかすると、少しイメージしづらいかもしれない。

多くの人は恋愛対象になる相手と、性的な行為をしたい相手の性別が同じだからだ。

しかし、ミナトさんはそうではなかった。

女性と交際したこともあったが、性的な関係になれなくて別れることが続いた。

1人で過ごすことも好きで、結婚は考えていなかった。

3歳になったころ、それまでミナトさんの人生に口をはさまなかった父親から言われた。

「結婚はしないのか。そろそろ孫の顔が見たい」

ミナトさんの中で友情結婚が選択肢に入った。

それぞれ友情結婚に関心を持った2人は、2019年に友情結婚を希望する人が集うインターネットの掲示板で知り合った。

ミナトさんの書き込みをサツキさんが見つけ、メールを送ったという。

友情結婚は「偽装結婚」の一種だと誤解されることがあるという。

偽装結婚はビザの取得など別の目的ありきで、正当な婚姻とは認められない。

一方、友情結婚は、たとえ恋愛感情や性行為がない関係でも、お互いに婚姻をする意思があるため、偽装結婚とは大きく異なる。

2015年設立の友情結婚相談所「カラーズ」(東京)では、2025年4月までに324組が成婚した。

大部分が子どもを望んで夫婦となり、同居もしているという。

入会者の男性の約8割は性的指向が男性で、女性の9割以上は他者に性的に引かれない。

代表の中村光沙さんは、事前の想定とは違ったと振り返る。

「設立当初は、男女ともに性的指向が同性に向いている人の利用を想定していたが、特に女性はそうではなかった」。

とはいえ、入会者の中には、そうした傾向に当てはまらない人たちももちろんいる。

一人一人の性のあり方、「セクシュアリティー」は多様だ。

一方で、入会者が婚姻を望む理由は特別なものではない。

「人生の伴侶がほしい」「子どもがほしい」「親を安心させたい」…。

中村さんはこう語る。

「今後も異性と恋愛や性行為ができない人に選択肢を示したい」

日本大学の久保田裕之教授(家族社会学)は、日本で友情結婚を選ぶ人がいる背景として「結婚して子どもを持って一人前」という社会通念が根強いことがあると説明する。

LGBTなど、多様な性のあり方が広く知られつつあるものの、法律上は同性婚は認められていない。

そんな中でも、同性愛者をはじめとした性的少数者にとってみれば、法律に基づいた友情結婚をすることで、周囲からの承認や社会保障上の優遇を得られる。

久保田教授はこうまとめる。

「友情結婚は性的少数者にとっての『苦肉の策』であり、『生存戦略』でもあるということ」

考えてみれば、恋愛結婚した夫婦でも次第に恋人同士というより、生活や子育ての相棒としての結びつきが強まることは少なくない。

セックスレスになっても、大切な家族として生涯を共にする夫婦も多くいる。

久保田教授はこう提言した。

「だとしたら、初めから『共に生きるパートナー』として婚姻を結ぶ夫婦がいてもいい」

「友情結婚」という言葉を交流サイト(SNS)で知り、取材を始めた。

当初は日本で同性婚が認められない中で、同性愛者の男女が「普通の人」を装うためにやむを得ず選択しているというイメージを持っていた。

しかし取材を経て、友情結婚を希望する人には様々な事情があることを知った。

さらに、仮に法律上同性婚ができるようになっても、同性愛への偏見がなくならない限り、友情結婚を選ぶ同性愛者は存在し続けるだろうということが見えてきた。

現状では友情結婚自体があまり知られていないためか、いろいろと心配をする人もいるようだ。

サツキさんとミナトさんは、こんなことを言われた経験がある。

「子どもに悪影響があるのでは」

「子どもにどう説明するのか」

でも、子どもにとっては家庭が居心地がいい場所かどうかの方がずっと大事で、両親が性的関係にあるか(あったか)どうかは些細なことのように思え。

サツキさんは将来、子どもから結婚した理由を聞かれたら、こう答えようと考えている。

「友達みたいに自分らしく楽しく過ごせると思った人だからだよ」

参照元:Yahoo!ニュース