ズワイガニが大量発生!温暖化で海が激変 日本の漁業が直面する危機に挑む

ズワイガニを撮影した写真

地球温暖化によって、世界中の生態系が大きく変わりつつある。

北極では、これまでにない現象が発生。

それらの影響は我々の住む日本にも…。

海温が上昇し、日本各地で獲れる魚に“異変”が生じているのだ。

見たこともなかった魚が水揚げされ、加工の仕方も分からず、未利用魚となってしまうことも少なくない。

それらの海の幸を必要とする人々がいるのも事実だが、このマッチングは、複雑なパズルを解くように難しい。

そんな中、この難題に立ち向かうのが、鮮魚店「サカナバッカ」を10店舗運営する「フーディソン」だ。

独自の戦略で未利用魚を有効活用しようと奮闘する「フーディソン」の挑戦を追った。

北極圏に位置するノルウェー領・スピッツベルゲン島。

夏は、太陽が沈むことのない白夜の季節になる。

北緯79度にあるのが、1991年に作られた国際観測村。

日本をはじめ11カ国が施設を設け、北極圏の観測拠点にしている。

学者たちはそれぞれ研究テーマを持って、極北の地にやって来るのだ。

近年、研究を続ける上で避けては通れないのが地球温暖化。

北極圏では、地球平均の3~4倍のスピードで進行していると言われており、その影響は、海洋や大気、動植物の生態など広範囲に及ぶ。

番組は、日本の研究チームに密着した。

目指したのは東ブレッカー氷河で、白い部分は降り積もった雪が圧縮されてできた氷の塊。

赤い川

引用元:Yahoo!ニュース

近づくと幾筋もの水の流れが立ちはだかるが、これは氷河がとけて流れ出たもの。

氷河に含まれる鉄分のせいで、色が赤く見える。

「昔はこれほど水量がなかったが、最近は温暖化でとける氷の量が増えている。著しく変化しているのを目に見えて感じる」(国立極地研究所 准教授・内田雅己さん)。

3時間歩き続けて氷河の上に到着。

「8年前に来た時は、こんなものはなかった」(北海道大学 准教授・植竹 淳さん)。

氷河がとけてあらわになった山肌だ。

山肌

引用元:Yahoo!ニュース

「北極域の夏季の海氷分布」を見ると、その面積が年々縮小していることが分かる。

氷の減少は北極海の水温や海流を変え、そこで暮らす動物や魚にも大きな影響を与える。

北極の急速な温暖化…その影響は日本近海でも現れ始めていた。

今、地球温暖化のあおりをうけ、日本各地の港が悲鳴を上げている。長崎では魚の種類が一変し、北海道ではカニが大量発生。

そして三陸では、謎の魚が獲れ始めた。

見慣れない海の幸をどう生かせばいいのか…地元の人たちは頭を抱えるが、この難問解決をビジネスチャンスととらえたのが、水産業界の革命児「フーディソン」の山本 徹社長だ。

「今の環境を嘆くより、地域がよりハッピーになる打ち手があるなら、積極的にやるべき」。

山本社長は12年前に介護業界から転身し、水産業界に革命を起こそうと起業。

番組は、2016年にその戦略を取材していた。

全国各地の港にバイヤーを派遣。新規参入者には厳しいと言われる業界だが、「フーディソン」は競りにかからない未利用魚を買い上げ、困った漁師たちの助けになることで受け入れられた。

「サカナバッカ」

買った魚は、自社で運営する「サカナバッカ」(東京、埼玉に10店舗)で販売。

店内を見ると、全国から地元の人しか食べていなかった珍しい魚が届いていた。

「(スーパーと)一緒にしたらかわいそう。もうスーパーでは買えない、ここで買ったら」。

おいしい魚たちは、常連客の心をガッチリつかんでいた。

さらに「フーディソン」は、飲食店向け通販サイト「魚ポチ」をオープン。

1尾から注文でき、日本全国で4万店以上の飲食店が登録している。

山本社長は、これまでの常識を覆す海の変化に対抗するため、ある集団を頼っていた。

大田市場(東京・大田区)に集められた少数精鋭のバイヤーたち。それぞれが得意分野を持つスペシャリストで、海の異変で生まれた数々の難問に向き合っていた。

リーダーは星野健一郎さん(42)で、バイヤーの1人、加工品担当の萩野那由太さん(37)は、ある問題に直面していた。

4月上旬、長崎・雲仙市。この日は大漁だったが、萩野さんが訪ねた漁師たちは浮かない顔。

「売り先がないから困っている。2チームあるが、1チームは休ませている。正社員の割合が多い船は、給料を払っていかないといけないから出ているが、サッパの割合が多い」(漁師の竹下千代太さん)。

漁師が狙っていたのはカタクチイワシだが、最近はニシンの仲間“サッパ”しか掛からないとこぼす。

サッパは瀬戸内海などでよく獲れる魚だが、温暖化の影響で獲れる魚種が変わってしまったのだ。

この漁港では、昔からカタクチイワシの煮干しを作ってきたが、サッパだと全く使いものにならないという。

萩野さんは漁師たちに「サッパをどうにかできないか」と相談されていた。

この日揚がったのは、1トンタンク12杯分のサッパ。

漁協が養殖魚のエサとして買い取ってくれるが、1キロわずか数十円ほどで、人件費はもとより、船の油代にもならない。

サッパが獲れれば獲れるほど赤字で、漁師たちの死活問題になっていた。

荻野さんはサッパの煮干しを手に入れ、お金にならない魚をお金にする難問に挑んでいた。

サッパはカタクチイワシよりも脂が少ないのが特徴で、まずはだしを取り、飲み比べてみる。

「だしはよく出ている。サッパはクセがなくて上品」(竹下さん)。

「これでおでんを作ったらおいしそう」(荻野さん)。

そこで、まずは6トン分のサッパを使って煮干しを作る。

休業中の加工場に依頼をし、出来上がった煮干しは「フーディソン」が1キロ当たり500円で買い取ることに。

これまでエサとして漁協に出していた売値の約8倍だ。

「クラム&ボニート 貝節麺ライク」の新作

荻野さんがサッパの煮干しを持ち込んだのが、魚介類のスープが人気のラーメン店「クラム&ボニート 貝節麺ライク」(東京・杉並区)。

店主の郡山一成さんは、通常の煮干しの2倍の量を使ってスープを作るが、果たしてどんな新作が生まれるのか――。

一方、「フーディソン」バイヤーチームのリーダー・星野さんも、海の異変から生まれた難問に挑んでいた。

星野さんは学生時代に水産学を学び、前職の大手商社では、世界を舞台にエビやカニを扱ってきた。

カニの街と呼ばれる兵庫・香美町。

甘味が強いベニズワイガニが街の産業を支えている。
3月下旬。

この日は、5日ほどしけが続いた後で、競り場に並んだカニはいつもの半分ほど。

久しぶりのカニということで、競り値がどんどん釣り上がっていく。

地元の水産加工会社「マルヤ水産」に勤める駒居義己さんは、高値になりすぎたため、いつもの3分の1の量しか買えなかった。

しけやカニが獲れない時、禁漁期(6月1日~8月31日)、加工場は休まざるを得ないが、そんな中、星野さんが仕掛けた北海道産のオオズワイガニが大量に届く。

実は約2年前から、北海道のえりも町などでオオズワイガニが大量発生。

味はいいが、ブランドガニが多い北海道では売れにくく、困っていた。

そこで星野さんは、空いている「マルヤ水産」にカニを大移動。

ベニズワイガニと同じ工程でゆで上げるため新たな設備投資も必要なく、会社も従業員を休ませる必要がなくなる。

「閑散期にこれだけの原料があるのは非常に助かる」(駒居さん)。

北海道のカニ漁師にも香美町の水産加工会社にもメリットが生まれていた。

一方「フーディソン」は、そのカニを使った“あるメニュー”を考案していた。

客も絶賛するメニューとは、一体どんなものなのか?

温暖化の影響はここでも。

2024年11月下旬、三陸の海岸にある太田名部漁港(岩手・普代村)。

漁師たちは「フーディソン」のバイヤー・山本英満さん(59)に、温暖化の影響で夏頃から獲れるようになった“アカヤガラ”をどうすればいいか相談していた。

九州では高級魚として扱われているが、可食部分が少なく、「地元で扱うには無理がある。加工する業者がいない」(漁業長)。

地元では売れないため、競りにもかけられないという。

しかし、これこそ「フーディソン」が得意とするところ。

山本さんは早速買い付ける。

太田名部漁港の隣町、宮古市出身の山本さんは、地元の田老町漁協を離れた後に留学。

水産物の専門商社などで働き、「フーディソン」へ。

この日、山本さんは、若い頃に勤めていた田老町漁協を25年ぶりに訪れた。

漁業に活気があった良き時代を知る仲間たちと思い出話で盛り上がるが、宮古の海も変わっていた。

温暖化などの影響で港町の経済を支えていたサケが寄り付かなくなり、ふ化場もほとんど使われていない。漁港は窮地に追い込まれていた。

2011年に発生した東日本大震災で、宮古市は行方不明者を含む517人が犠牲に(出典:宮古市東日本大震災記録誌)。

地元で震災を経験していない山本さんは、「叔父叔母10人は亡くした。町を離れていたおかげで自分は助かった。あのままいれば加工場にいた。私の先輩は加工場勤務で今も行方不明。お世話になった生まれ故郷だし、少しでも役立つことをしたい」と話す。

山本さん、あの“アカヤガラ”をどう生かすのか…故郷への恩返しが始まった――。

参照元:Yahoo!ニュース