「このままでは地域医療が崩壊」赤字総額200億円超、国立大学病院が経営危機のワケ

病院をイメージした写真

各地の国立大学病院が経営危機に直面している。

令和6年度の赤字総額は200億円を超え、病院関係者らには「このままでは地域医療が崩壊する」との危機感が広がる。

高度医療を提供し、医師育成や地域病院への医師派遣も担う医療界の「心臓部」で、一体何が起きているのか。

「より一層悪化している」。

今年5月上旬、東京都内で開かれた国立大学病院長会議の記者会見で、大鳥精司会長(千葉大医学部付属病院長)は窮状を訴えた。

国内42の国立大学病院の6年度収支決算(速報値)は、全体の6割にあたる25病院で現金収支がマイナスに。

42病院の赤字総額は前年度(26億円)を大きく上回る213億円に上った。

背景には、経営環境を巡る厳しさがある。

エネルギー価格や物価の高騰により、光熱費や材料費、医薬品費などが軒並み上昇。

働き方改革に伴う残業時間の正確な把握や職員の処遇改善を一部行ったこともあり、人件費の負担増にも直面した。

「限界にきている」「潰れる病院が出かねない」。

会見に臨んだ各地の病院長からも、悲痛な声が次々と上がった。

東京医科歯科大病院から名称変更した東京科学大病院(東京都文京区)は、5年度に約11億円の赤字を計上。

6年度の赤字額は30億円以上に膨らむ見込みだ。

収支改善に向け、手をこまねいていたわけではない。

職員宿舎の一部解約を決めるなど、コスト削減を推進。

対応は、職員らが着用する白衣を病院支給から自腹購入に変えるといったものにまで及ぶ。

各診療科の初診枠を拡大させたり、手術数を増やして入院の受け入れを強化したりと増益に向けた取り組みも強化。

新型コロナウイルス禍(2~4年度)に6~7割台だった病床稼働率は現在、8割台まで回復し、コロナ禍前の元年度と比べて6年度の医業収入は約55億円増となった。

ただ、こうした努力にもかかわらず、光熱費や人件費などの固定支出は約73億円も増えた。

情報システム更新などにかかる費用も重くのしかかる。

採算面を考慮し、来年度は一部病棟の閉鎖にも踏み切るという。

藤井靖久病院長は「収入は増加してきているが、診療経費や人件費などの負担が大きい。病床稼働率を上げても増益となりにくい」と明かす。

国立大学病院は難病治療や高度医療を行う使命も担うが、数千万円の高額薬剤を使った治療、ロボットを用いた手術などは管理・運用費がかさむ。高度医療は「やればやるほど赤字になる」(病院関係者)側面もあり、採算面での苦しさはつきまとう。

医療機材の更新がままならず、耐用年数切れの機材を使い続ける病院は少なくない。

藤井氏は「現行の診療報酬体系では、物価高騰などによる光熱費増や診療経費増、人件費増に対応できず、赤字から抜け出ることが難しい」と指摘。

「現状に即した制度、支援体制を整えてほしい」と求めた。

大学病院の医師は診療に加え、教育や研究などの役割も担っている。

経営状況の悪化で勤務時間の多くを診療に割かれることにより、病気の原因究明や治療法の確立、新薬開発などにつながる研究時間を十分に確保できなくなっている現状も浮かぶ。

全国医学部長病院長会議が今年1~2月、全国81の大学とそこで働く医師(有効回答2954人)に行った働き方改革に関する調査では、研究に従事する時間が「週平均5時間以内」と回答した医師は60.0%で、昨年4~5月の前回調査(55.6%)から上昇した。

研究時間を年代別にみると、30代が週平均6.6時間から同5.6時間、40代が同8.3時間から同8.2時間とそれぞれ回答。

研究に充てる時間が減っていることがうかがえる。

一方で、診療に充てる時間が「週平均31時間以上」とした医師は57.1%と、前回調査(52.3%)から着実にアップしている。

参照元:Yahoo!ニュース