中国の人気グルメ、ザリガニが突然値崩れ 「夏の定番」に何が?

中国で「夏の定番」として親しまれるザリガニ料理のシーズンが、今年も始まった。
若者たちが大皿に盛られたザリガニを囲んで楽しむ光景は、ここ十数年ですっかり定着した。
ところが5月に入り、卸売価格が突然、半値近くまで急落したという。
人気に陰りが出ているのか、それとも別の理由があるのか――。
内陸部・湖南省の省都、長沙。
国内有数のザリガニの産地を5月中旬に訪れると、長江の支流沿いにザリガニ料理店が軒を連ね、店内では多くの若者がビール片手に山盛りのザリガニをほおばっていた。
「これが地元で一番の人気料理だよ」。
現地の人に勧められたのは、香辛料の利いたザリガニ炒め。
硬い殻をむいて口に入れると、歯ごたえのある身とスパイスの風味が広がり、癖になりそうだった。
かつては湖南省や湖北省の一部で細々と食べられていたザリガニは、養殖技術の進歩やオンライン取引の普及に後押しされ、2010年代前半から急成長。
「ザリガニ食ブーム」が広がり、大皿で何皿も注文し、仲間とわいわい楽しむスタイルが若者の間で定着した。
旬は気温が上がり始める4月下旬ごろから。
ちょうど出荷が本格化するこの時期、思わぬ「値崩れ」が起きている。
国営中央テレビによると、1~4月の全国平均卸売価格は1キロ70元(約1400円)だったが、5月には38元(約760円)と、ほぼ半値にまで下がった。
中国紙「農民日報」は、業界団体幹部の話として「供給過剰が原因」と報道。
養殖技術の向上や生産エリアの拡大に加え、シーズン入りで一気に出荷が増えたことで、需給バランスが崩れたという。
季節要因のほか、業界の構造的な「過剰生産」も背景にあるとみられる。
中国政府はザリガニ養殖を農村の所得向上策として推進してきた。
19年以降、中央政府と地方政府は合わせて50億元(約1000億円)超の財政資金を投じ、効率的な養殖法の導入が進んだ。
技術革新とともに、参入者は増え、業界は急速に拡大した。
業界団体のリポート「中国ザリガニ産業調査分析報告」によれば、24年の養殖面積は200万ヘクタール、生産量は300万トンに達し、いずれも5年前の約1.5倍に増加したという。
だが、ここにきてブームも落ち着きつつある。
一皿2000円以上と価格は決して安くなく、「身が少なくコスパが悪い。エビの方がいい」(上海在住の30代男性)と敬遠する声も。
昨年は閉店に追い込まれる専門店が相次いだ。
過剰な供給に対して消費は頭打ち。
湖北省の組合幹部の一人は中国メディアに「利益は最盛期の3分の1まで減った」と語った。
苦境打開の糸口として、海外市場への展開も加速している。
24年のザリガニ輸出量は前年比44%増の1万1700トンに拡大。
巨大経済圏構想「一帯一路」の参加国を中心に急増しているという。
湖北省のある食品会社は今年4月末、サウジアラビアへの輸出を開始した。
地元紙によると、同省として初の中東向け輸出だった。
他の中国製品と同様、国内市場の飽和を受けて海外へと販路を広げる動きは、ザリガニ業界にも波及している。
ひょっとすると近い将来、世界各地の食卓で中国産ザリガニを見かける機会が増えるかもしれない。
参照元:Yahoo!ニュース