公立小校長「休憩は大事だよって言ったら教員から笑われました」 小中学校教員の休憩時間は法定のわずか半分 “所定の時間”では5〜7分 “学校の常識”からの脱却は?

教員をイメージした画像

文科省によると全国の小中高校で起きたいじめの重大事態は1306件(2023年度)で、前年度から387件(42.1%)増加し、過去最多だ。

こうしたいじめの深刻化を防ぐなど、広い意味での“いじめ予防”に欠かせないのが、教員たちの心身の健康だ。

一見、遠回りに思えるかもしれないが、教員たちが心身ともに健全なら、いじめの見逃しや対応の誤りを防ぎ、他の教員と協力する余裕も出てくる。

しかし取材を進めると、学校現場には、教員を追いつめる“世間とかけ離れた常識”があった。

就職活動中の学生と、社会人になっている先輩との、こんな会話を想像してみてほしい。

「先輩の職場ってどうです? ランチできるような休憩時間、ちゃんとありますよね?」

「あるにはあるよ。出勤から退勤までのどっかで平均23分は休める」

「え、23分って短くないですか?」

「まあな。でもやりがいのある仕事だぞ」

「だいたい皆さん、何時から何時まで休憩しています?」

「そうだなぁ。所定の時間っていうのは職場によってなんだけど、たいていそこではとれないな。とれても5分とか7分とか…」

「まともなランチタイムもないんですか?」

このような職場、今の大学生たちの目にはどう映るのだろうか?

「やっぱり先輩のところはやめときます」となりかねない。

実はこれが小学校と中学校の教員の働き方の実態だ。

全国の小学校1200校、中学校1200校、高校300校に勤務するフルタイムの常勤教員を対象に2022年に行った「教員勤務実態調査」によると、小学校も中学校も、平日の教員の平均休憩時間は、たったの23分間だ。

※2024年4月4日公表「教員勤務実態調査」(令和4年度確定値・文科省P44)

学校現場にも労働基準法は適用される。

休憩時間について法律では原則、勤務時間の途中に一斉に与えて自由に利用させるとある。

勤務時間が7時間45分なら少なくとも45分、8時間を超えれば1時間の休憩時間が確保されなければならない。

ところが実際には23分間だけ。

法律の定める半分も取れていない。

長時間勤務が問題視される中、そんな実情も知れわたれば、志望者はますます減ってしまいそうだ。

文科省によると、全国の公立学校の教員の採用倍率は2000年度をピークに下がり続け、2024年度の採用倍率は3.2倍と、3年連続で過去最低を更新した。

こちらも“いじめ予防”には欠かせない「教員の質の担保」も危うくなるばかりだ。

関東地方のある公立小学校の勤務時間が記されたメモを入手した。

勤務時間は8時から16時30分と表記されている。

単純に引き算すれば8時間30分だが、正確には勤務時間が7時間45分で、残りの45分が休憩時間という。

教員の休憩時間は「12時から12時45分」とも書かれている。

しかし、この学校の時間割表では、子どもたちの給食時間も12時〜12時45分。

教員の休憩時間と全く同じだ。

その時間、教員たちは給食指導や次の授業の準備にも追われている。

給食指導では、コロナの感染予防対策は軽くなっても、誤飲・誤食・アレルギーを防ぐ見守りは必須だ。

食事の楽しさなど“食育”も求められる。

「所定の休憩時間」に、ほとんど休憩がとれないのも無理はない。

教職員の休憩時間は、一般的には校長が決めて、年度初めに全教職員に伝える。

ところが昨年度末、この公立小学校の校長は、私に「そういえば休憩時間の設定を、みなさん(教員)に伝えていなかったようだ」と吐露した。

一方、教員からの確認も年度末までなかった。

年度初めの休憩時間の提示が、そもそも「絵にかいた餅」だと受け止められている。

こうした学校は珍しくない。

国の勤務実態調査によると、平日、「所定の時間内にとった休憩時間」は、小学校教員で5分間、中学校教員で7分間といったあり様だ。

長期休暇以外の平日では、所定の時間に休憩時間をとるなんて “夢のまた夢”という状況だ。

昨年末(2024年12月)、文科省が公表した調査によると、精神疾患で病気休職している教員は3年連続で増え続け、2023年度は7119人と過去最多になった。

こうした休憩時間の不足も、増加の背景にあるのではないだろうか? 

今年2月(2025年2月12日)、阿部俊子・文部科学大臣に私は直接、聞いた。

記者)
昨年末に教員の精神疾患の話が出ました。深刻な状態が続いていますが、(中略)教員同士も休憩時間でいろいろとざっくばらんに話すような時間というのは非常に大事なのだと思うのですが、休憩時間、教員の皆さん、例えば小中の先生だと半分ぐらい、(平日は)平均23分しかなくて、所定の時間という決められた時間の中で、(教員)みんなで一緒に取れるかというと5分とか7分とかという時間になって非常に極めて短い時間になっています。これをどのように確保されていくのか、対策を伺いたいと思います。

大臣)
(中略)休憩時間をしっかり休憩として与えることは、労働基準法のまさに第34条の規定で使用者の義務となっているところでございます。公立学校においても適用されるものでございますが、これまで休憩時間の確保につきましては、文部科学省から繰り返し指導は行っているところでございまして、各学校において、例えば、休憩時間を授業終了後に設定している場合、また昼休みや授業終了後と分割して設定している場合などの工夫もされているように承知をしているところでございますが、しかしながらその上、教師の休憩時間を確実に確保していくというためにも働き方改革、一層の推進、また外部スタッフを含めた指導・運営体制の充実がまさに不可欠だというふうに考えているところでございまして、政府予算案、また先般の国会に提出した関連法案、この成立をはじめ、現在取り組んでいる教師を取り巻く環境整備が本当に厳しい状況でございますので、この環境整備の推進に全力で取り組んでいきたいというふうに思います。

確かに、文科省は、休憩時間の確保について繰り返し学校側に指導している。

去年(2024年)9月にも、質の高い教師の確保のための環境整備に関する中教審(中央教育審議会)の答申を踏まえ、心身ともにゆとりを持ち教育活動を行うことができるよう「休憩時間や継続した休息時間の確保」を全国の教育委員会に通知した。

授業を担当していない時間に休憩時間を割り振ったり、担任外の教師も含めて給食指導を輪番制にしたり、教員業務支援員に休み時間の児童生徒の見守りを担ってもらったりするなどの取組を進めること。

※「「令和の日本型学校教育」を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について(答申)」(令和6年8月27日中央教育審議会)を踏まえた取組の徹底等について(通知)(令和6年9月30日付通知)

各学校は、こうした指導もあり、通常、休憩時間を設定して“は”いる。

多いのは、高校では昼食時、小中学校では放課後4時から45分、または昼休み20分と放課後25分というパターンだ。

しかしながら、実際には十分な休憩時間をとれていない。

そこで私は大臣に追加で聞いた。

記者)
(前略)休憩時間についてもずっとこれまで指導してきたのだけれどもということですね、なかなか改善されないというこの現状をどうされるのか?

大臣)
しっかり努力してまいります。

この時、これ以上の答えはなかった。

文科省でこの件を担当する初等中等教育企画課にも聞いてみたが、それぞれの学校でどう休憩時間を確保しているのかの工夫事例についても、子どもたちの給食時間が「所定の休憩時間」になるなどの問題事例についても、詳しくは把握していなかった。

前回の連載で、「北欧の学校に必ずある職員室でのコーヒータイム」について書いた。

ある公立小学校の校長は、この記事を読んで共感してくださり、教員たちにこう呼びかけたそうだ。

「みなさん、休憩って大事だよ。北欧ではコーヒータイムがあって、職員室で一緒に休むそうです。いかがですか?」

すると、返ってきたのは笑い声だったと言う。

「校長、何を言ってるんですか? 私たちに休憩なんてありませんよ。それが常識でしょ」と言わんばかり。

「休憩があっても、やることが沢山で、ないのも同然」と教員たちに響いていることの表れではないだろうか。

休憩時間もできるだけ仕事をこなし、少しでも早く帰宅して家族との時間、プライベートを大切にしたいと思う教員も少なくないようだ。

そんな中、教員のアイデアから、職員室でコーヒータイム休憩をとれるよう努めている公立小学校があることを知った。

神戸市立妙法寺小学校だ。

児童の増加に伴い、この学校には3年前から第二職員室があり、普段、打ち合わせや作業スペースとして活用されている。

学期に1度ほどのペースで不定期に開催されるコーヒータイム「妙法寺カフェ」は、そこで既に3回(2025年5月時点)行われている。

「妙法寺カフェ」には常勤職員45人のうち5〜10人が集まってコーヒーを楽しむ。

コーヒー好きの教員が、豆を挽くという熱の入れようですが、豆代や牛乳代として徴収されるのは、一人一回100円だそうだ。

部屋はコーヒーの香りに包まれる。

カフェタイムは、妙法寺小学校の「所定」の休憩時間にあわせて、午後4時から午後4時45分まで。

岡田有弘先生は「回を重ねるごとに、職員室がリラックスできる風通しのいい場所になっていくのを感じます」と言う。

神戸市立妙法寺小学校・岡田有弘先生「私たちは、“妙法寺幸せプロジェクト”として、プロジェクト型で教職員の業務改善に取り組んできました。カフェは、その有志メンバーの対話から生まれたアイデアです。私たちが主体的に設けたもので、神戸市教育委員会のポータルサイトでも紹介されています。カフェタイムには、リラックス効果やコミュニケーション効果もあり、教員の幸福度のアップや精神疾患教員の防止にもつながっていると思います」

全国には、「私の休憩時間は子どもたちと校庭で遊んでいる時間だ」と割り切っている教員もいるが、全員がそうではない。

世代による考え方の違いなど、教員の価値観も多様化しているが、多忙感の解消は重要だ。

繰り返しになるが「いじめ予防」にも寄与する。

しっかりとした休憩時間の確保について、もっと国や自治体、学校でも議論して欲しい。

たとえば給食時間での人員補助、カフェタイムが可能なスペースの確保や、校長による休憩への呼びかけの推進も、その一つだ。

それぞれがもう一押しして、“学校の常識”を見直してもらいたい。

参照元:Yahoo!ニュース