営業なのに「電話が怖い…」、若者に広がる「電話恐怖症」のリアル 電話が苦手な部下に上司はどう対応すればいいのか?

「電話が怖いって、どういうこと?」「アポ取りなのに電話できないって……」ーーこのように首をかしげるベテラン社員は多いことだろう。
だが現在、多くの若者が「電話恐怖症(テレフォビア)」と呼ばれる症状に悩まされているという。
メールやSNSに慣れ親しんだZ世代にとって、リアルタイムの音声通話は大きなストレス源なのだろう。
そこで今回は、Z世代に広がる電話恐怖症の実態と、企業がどう対応すべきかについて解説する。
電話恐怖症とは単なるわがままではない。
固定電話がある職場で働く20歳以上の男女562人を対象とした2023年の調査では、職場での電話対応に苦手意識がある20代は約75%。
30代でも6割強にのぼるという。
全世代平均でも約57.8%が、電話対応に苦手意識を持っているというのだ。
筆者のTikTokで最近、「電話が怖い営業あるある7選」というタイトルで投稿したところ、2時間で再生回数がなんと10万を超えた。
投稿した電話恐怖症の営業あるある7選とは以下の内容だ。
① 着信音が鳴った瞬間、心拍数が一気に上がる
② 知らない番号は99%留守電送り
③ 電話をかける前にセリフを台本化
④ メールで済む用件でも先方が電話派だと絶望
⑤ コールセンターの音声ガイダンスで迷子
⑥ 着信拒否をしようとするが実行はできない優柔不断
⑦ 電話が終わった瞬間、全身の力が抜けてため息
共感のコメントも多く付き、若者のユーザーが多いTikTokで支持されたことは今の現状を如実に表しているのではないだろうか。
では、なぜこれほど多くの若者が電話を恐れるのか?
筆者がさまざまな企業で担当した新入社員研修等で実際に若者にインタビューしたところ、主に以下の3つの要因が浮かび上がってきた。
(1)リアルタイム性への不安
電話がかかってきたらその場で即座に応答し、的確に返答しなければならない。
営業活動によるアポ取りは、さらにハードルが高い。
想定外の反応が返ってくることが多いからだ。
「自分の知識で正しく回答できるか不安」「対応をミスするのではないか」……。
若者たちは、このリアルタイム性に不安や抵抗感を覚えるようだ。
(2)圧倒的な経験不足による自信のなさ
私のような50代とまったく違うのは、若者たちがメールやチャット中心のコミュニケーションに慣れ親しんで育ってきた、ということだ。
LINEリサーチの高校生調査によると、週に1回以上友人や家族と通話する高校生は女子で4割強、男子でも5割強にとどまる。
女子中高生の約15%は「電話はまったくしない」とのこと。
注意すべきは、電話を使う割合ではなく、電話をする人の割合ということだ。
ここまで「電話を使ってコミュニケーションをとる人」の割合が減っていることに驚きを覚える。
免許は持っているが、ほとんど車を運転しない若者に「明日から毎日、車で営業活動をしてもらう」と指示するようなものか。
(3)言葉の責任感に敏感
SNS時代の若者は「言葉の責任感」が強い傾向がある。
「思いもよらない一言がネット上で炎上する社会」で育ったため、何を言っていいのか異常に気を使うという。
実際に、このようなことが起こった。
ある新人営業がお客様の現状を尋ねていた際、「そのやり方では、ちょっと古くさいですから、改善されたほうがよいかと……」と口にしてしまった。
そのとたん、相手は「古くさいだと!」と声色を変えた。
そして次のように返されて、取引が中断されてしまった。
「あなたは『古くさい』と言うけど、このやり方で当社は売り上げを順調に伸ばしてきたんだ。とても気分が悪い」
それ以来、メール以外で、顧客対応はしたくない、とこの新人営業は言い続けている。
ちなみに「作業が中断される」という理由で電話嫌いになったという声も多くみられるが、これはあくまでも“効率性”の話。
電話恐怖症になる理由としては適切ではない。
そう判断して、本記事では割愛した。
電話が怖いという「電話恐怖症」に関する話題は、実のところ2020年ごろから徐々に広まりつつあった。
その傾向と関係があるかは不明だが、テクノロジーを活用した電話営業支援サービスは普及しはじめている。
効率的に架電したり、会話内容をデータベース化するシステムは20年以上も前から存在する。
私がシステムエンジニアだった時代、コールセンターのシステム開発に携わっていたのでよく知っている。
一方、当時のような「効率」を目的にしたものではなく、昨今は「効果」に主眼を置いたシステムが注目を集めているのだ。
その代表格が、電話の会話内容をAIによって分析するサービスだ。
・話すスピード
・被せ率(被せる比率)
・ラリーの回数(話者が切り替わった回数)
・沈黙の回数
……などを定量的に測定し、アポ獲得や成約率向上につなげる。
営業スキルを鍛えるうえでも効果的なシステムが、大企業を中心にかなり定着している。
つまり、電話が「苦手」「怖い」という若者(若者だけでないが)が増えている一方、プロのテレフォンアポインターのようなスキルを持つ営業パーソンもまた増えているのだ。
このように、高度なシステムと専門トレーニングでスキルを高めている営業がいる。
しかし、そこまで時間と労力をかけられない企業はどうするのか?
そこで現在、活況なのが「電話代行」の業界だ。
20年以上、営業コンサルティングの仕事をしてきたが、まさかここまで電話代行のビジネスが広がるとは、想像しなかった。
皮肉なことに、こうした電話代行サービスを支えているのは、主に20代から30代前半の若者たち。
私は、彼ら彼女らが主催する交流会にたびたび参加するが、誤解を恐れずに書くと、大学のサークルのようなノリで、若者たちは楽しんで仕事をしているように見える。
SNS等で交流してインタビューするのだが「やりがい」がすごくある、と口を揃える。
「電話が怖い」という若者もいれば、電話代行のプロとして活躍する若者たちもいる。
ある電話営業代行会社の代表は「弊社のオペレーターは9割が20代。彼らは驚くほど電話営業が上手い」と語る。
先述した通り、日ごろから電話でコミュニケーションをとっていない若者なら、社会に出たあと電話に苦手意識を持つというのはわかる。
それは、日ごろから運転しない人が車でお客様を訪問しろと言われているのと同じだ。
上司から何らかの「企画書」を作ってくれ、と言われても、スライドやドキュメントの資料を作った経験がほとんどなければ「できればやりたくない」「誰か他の人がやってくれないか」と思うのは自然な感情だろう。
しかし、社会に出たら「不慣れなこと」しか直面しないのも、また事実である。
だから経験を通して慣れたらいいのだ。
ただ、そのときに上司は注意すべきことがある。
それは、「とりあえず、自分なりにやってみろ」と丸投げしないことだ。
たとえ自分が若いころ、そのように上司に指示されていたとしても、である。営業代行業の社長いわく「環境を整え、スキルを磨けば、まったく問題ない」そうだ。
「店舗で接客するのと、それほど変わりません。慣れない人は苦手意識を持つでしょう。だけど、専門スタッフと一緒にトレーニングを重ねれば、みんな上手になりますよ」
電話代行の現場では、話の流れや内容をまとめた台本のような「トークスクリプト」の整備、実際に電話をかける場面を想定して行うロールプレイング(ロープレ)による訓練、「失敗しても大丈夫」と心理的安全を保つ環境が整えられている。
丸投げするのではなく、部下をキチンと丁寧に育てようとすることが大事だ。
それは車での営業活動しかり、企画書の作成しかりである。
それでは、電話恐怖症の若者に、上司は具体的にどう対応すべきか?
以下3つのアプローチを紹介したい。
(1)段階的な研修と実践
繰り返すが、電話は「慣れ」の要素が大きい。
実践的な研修、トレーニングを重ねよう。
慣れるまでは毎日1時間でも集めてやるといい。
そして実際に電話対応する機会を段階的に増やしていく。
そうすることで不安は軽減するはずだ。いきなり心理的ハードルの高い経験を積ませるのは避けたい。
(2)テンプレートの活用
フォーマットはもちろんのこと、テンプレートも準備しておこう。
単なるお客様対応なら、標準テンプレートでいいだろう。
しかし能動的な営業活動で電話をするのなら、多様なテンプレートを用意したい。
ヒアリングした結果に応じて、相手がどう反応するのか。
トークスクリプトのレパートリーも増やしておくことが大事だ。
(3)テクノロジーの活用
最新のサービスも、ずいぶんとリーズナブルになった。
上司からのフィードバックには素直に従えないが、AIからのダメ出しならすんなり受け入れる若者も多い。
通話内容をリアルタイムに文字化したり、FAQやスクリプトをディスプレイに表示したりする機能を積極活用するといい。電話への不安はかなり軽減できるだろう。
若者の電話離れは今後も増えていくだろう。
実際に、私の2人の子ども(大学生)が電話をしている姿を、ほとんど見たことがないのだから。
とはいえ「だからできなくていい」という話ではない。
取引先から「電話でのコミュニケーションさえできない会社には仕事を依頼しない」と叱られ、事業が頭打ちになったスタートアップ企業を私は知っている。
電話が生理的に受け付けない特殊なケースを除き、ビジネスパーソンとして最低限の電話スキルは身につけるべきだろう。
そのためにも会社には、時代に合わせた丁寧なサポートが求められている。
参照元:Yahoo!ニュース