折り畳んで収納できる「布製浴槽」とは?海外からの問い合わせも殺到 どうやって使う?LIXILに開発背景を聞いた

住宅設備メーカー・LIXILが開発した、布製の畳める浴槽を備えた「bathtope(バストープ)」の売れ行きが順調だ。
bathtopeは、固定された浴槽を取り払い、普段はシャワールームとして使用し、入浴したい時にだけ布製浴槽を取り付けるというもの。
使用後はコンパクトに折り畳んで収納できる。
昨年秋に発売すると、SNSで「ぬ、ぬの!?」「すごい発想!」と大きな話題を呼んだ。
発売から半年が経った今、マンションのリノベーション市場や賃貸マンション、戸建て新築など多方面から注文が続いているという。
bathtopeを生み出したデザイナーの長瀬徳彦さんに、開発背景や実際の使い方について聞いた。
2024年、トイレやお風呂など水まわり事業の100周年を迎えたLIXIL。
その記念すべき年に、これからの浴室を考えるというコンセプトで“いい風呂の日”(11月26日)に発売されたのが「bathtope」だった。
この商品は2021年、社内のコンペで最優秀賞を獲得した企画から始まった。
アイデアを生んだ長瀬さんは、こう振り返る。
「当時、毎日浴槽に浸かるという従来の入浴習慣から、シャワーと併用していくというスタイルに変わってきていると感じていました。また、従来のユニットバスはリサイクルが難しく、湯ためや保温の際に多くのCO2も発生します。今後シャワー浴が主流になったら、環境にも配慮しつつ、ユニットバスをどのように変化させればいいのだろうと考えたんです」(長瀬さん)
LIXILが2023年、3年以内に浴室リフォーム、もしくは戸建・マンション新築購入を予定している1000人に調査したところ、年中浴槽に浸かる人は36.2%。
過半数の55.4%が、シャワーと浴槽浴を切り替えて使っていることが分かった。
一方、シャワー浴だけの人は8.4%にとどまり、浴槽の必要性もうかがえる結果となった。
「日本人にとって、疲れているときにお湯に浸かり、身体を癒すという習慣は切り離せないもの。私自身、15年以上浴室事業に携わってきたので、単に浴槽を取り除くことには抵抗がありました。近年の多様化するライフスタイルと、日本の入浴文化を両立できる空間を提供できないかと考え、取り外しできる浴槽というアイデアに至りました」
コロナ禍で自宅で過ごす時間が長くなったことで、お風呂でエクササイズをしたり、仕事をしたりと新たな使い方も見えてきたという。
「お風呂」という空間を今後、多様化するライフスタイルにあわせて開放していく――。
そんな意味を込めて「bathtope」は企画されたのだ。
bathtopeの最大の特長は、一つの空間でシャワールーム/バスルームを自在に切り替えられることだ。
例えば、暑い時期はシャワーで済ませ、寒い時期は布製浴槽をセットして温まる…など、個々の入浴習慣を反映した使い方ができる。
また、都会の集合住宅や戸建てに多い0.75坪タイプのバスルームの場合、浴槽の内寸は100cm程度の長さで、大人だと足を伸ばせず窮屈に感じてしまう。
これは、洗い場を確保するために浴槽を短辺方向に固定せざるを得ないからだ。
一方、bathtopeは浴槽を固定しないゆえに、同じ広さの空間でも長辺方向に設置できるため、約160cmの長さと大人でもゆったりと浸かれるサイズ感なのだ。
その布製浴槽は、身体に心地よくフィットするため、同じサイズの浴槽と比べて約26%、水量にして50リットルの節水を実現している。
肌触りや強度にもこだわり、ポリウレタンフィルムとポリエステル織物の二層構造になっている。
社内外の約200人の入浴モニターの声を反映して、背もたれの包み込むような柔らかさを叶えるため、浴槽を支えるロープの位置を変えたり、縫製があたらないよう調整したり、改良を重ねてきたという。
「浴槽の形の美しさを保ちながら、設置の手軽さや耐久性のバランスを取るのはかなり難しかったですね。はじめは折り紙のような展開図を紙でつくり、そこからアイデアを膨らませていきました。例えば当初、浴槽を支持するためのロープを四方に走らせていたのですが、お湯の重みで硬くなり、首元にあたると違和感があるとの声が出てきたんです。そこで、前後のロープを取り外し左右だけにするなど、極限まで入浴の気持ちよさを損ねないようにこだわりました」
bathtopeは布製浴槽と浴室空間のセットで販売されている製品だ。
布製浴槽だけを購入し、自分でフックを設置すれば使えると誤解されやすいが、実は壁の内側に頑丈なフレームが入っており、300kgの荷重にも耐えうる設計がされているという。
バリエーションは3タイプ。今夏発売予定の「Gタイプ」(税抜200万円予定)は最上位モデルで、浴室と洗面室をシームレスにつなぐ引違い戸、オーバーヘッドシャワー、演出照明などが採用されている。
「Sタイプ」(同85万円)はスタンダードモデル、「Eタイプ」(同55万円)は基本機能を備えたエントリーモデルだ。
布製浴槽は、ベージュ、ブルー、レッド、ブラック、ホワイトの5色展開。
通常の浴槽は白が基本だが、布の素材感を生かし、ファッションのように楽しんでもらいたいとの思いからだ。
「Gタイプ」「Sタイプ」は2色選ぶことができ、その日の気分にあわせてカラーを使い分けることもできる。
bathtopeは昨年10月のデザイン&アートフェスティバル「DESIGNART TOKYO 2024」で初披露された。
たちまちSNSで話題に。
お風呂に入るのを面倒でやめてしまう人たちを指す「風呂キャンセル界隈」という言葉が流行していたこともあり、“浴室の新たな形”として大きな注目が寄せられたのだ。
LIXILに直接届いた反応も凄まじかった。
普段だとInstagramの動画コンテンツの再生回数は多くて150万回程度。
しかし、bathtopeを紹介した動画はその10倍の1500万回を記録した。
残念ながら海外での設置はできないものの、ヨーロッパやアジア、アメリカからの問い合わせも相次いだという。
当初は、マンションのリノベーション市場をメインとし、都心部に住む単身者や共働きの夫婦、少人数世帯などをターゲットにしていた。
しかし、実際は世代を問わず、賃貸マンションや民泊、戸建新築など多様な先から注文が入っている。
今後も市場の反応を見ながら、新たな商品企画に取り組んでいくという。
近年、住宅の多くにはシステムバスが導入されており、浴室は部屋の中でも個性が出にくい空間だった。
浴槽がついていたとしても、サッとシャワーだけで済ませ、浴室は「汚れを落とすだけの空間」になっている人も多いだろう。
しかし、こんな自由な浴室があれば、自分だけの「特別な空間」として、日々の暮らしが少し豊かになりそうだ。
参照元:Yahoo!ニュース