自治体の窓口に汚物を持ち込んだ住民 目的は「水道を止められたことへの抗議」だった 悪質カスハラ、苦悩する公務員

ある自治体の窓口に、料金未納を理由に水道を止められた男が訪れた。
男は袋を片手に、こうすごんだ。
「これを流すことができねぇじゃねえか!」。
職員が中身を確認すると詰まっていたのは汚物。
顚末を聞いた同僚は「まさか抗議のために汚物を持ち込んでくるなんて…」とため息をつく。
暴力や暴言、SNSでの中傷によるカスハラは、民間企業だけの問題ではない。
汚物の例のように、自治体でも多くの職員が被害に悩まされている。
背景には、税金で給料がまかなわれる公務員を「公僕」として下に見る意識があるようだ。
被害の実態や、解決に向けた処方箋を探った。
青森県のある女性職員は、匿名の男性からの電話でこう繰り返された。
「君と子どもをつくりたい」。
青森県では他にも「日本語分かるか?」などと机をたたきながら約1時間詰問されたり、「今すぐ包丁を持って来ておまえを殺してやる」と言われたりしたケースがあった。
共同通信は今年2~3月、都道府県を対象にカスハラに関するアンケートを行った。
その回答からは、自治体職員が苦しむ現状が浮き彫りになった。
職員の被害例として記載があったのは次のような内容だ。
「『役立たず。税金で食っているくせに』などの暴言」(宮城県)
「一日数十~数百回の無言電話」(福井県)
「SNS上で特定職員の名前や写真をアップし誹謗中傷」(滋賀県)
「1時間半以上にわたり複数人で押しかけ大声で罵倒」(北海道)
「長時間の居座り、大声をあげて威圧」(和歌山県)
自治体職員は、地方公務員法で全体の奉仕者として公共の利益のために勤務すると定められている。
税金からの給料支払いなどを背景に、過度なクレームにさらされやすいのが実情だ。
職員がカスハラで疲弊し、休職や離職の一因になっているとの指摘もある。
総務省が4月に公表した実態調査の結果によると、住民や業者などから理不尽な要求を受けるカスハラを過去3年間で経験したと回答した割合は35.0%。
民間企業対象の調査結果を大幅に上回った。
所属部門別に見ると、住民とのコミュニケーション機会が多い広報広聴部門でカスハラを経験したと回答した人は66.3%に上った。
各種年金保険関係、福祉事務所も、ともに61.5%が経験したと答えた。
年代別では30代が44.6%と最も高く、20代以下が40.0%、40代が37.4%と続いた。
ある自治体職員は「税金で働いているから公務員には何をしてもよいと考えている人も少なくない。実際に公務員の倍率は下がっており、手を打たないと行政サービスも成り立たなくなる」と危機感をあらわにする。
自治体側も手をこまねいているわけではない。
カスハラから職員を守ろうとあの手この手で予防策を進める。
群馬県は、名札の表記を名字のみとしている。
三重県、大分県なども名札の表記を見直し、秋田県は職員録の発行を終了した。
京都府は、カスハラが起きる可能性がある部署に通話内容の録音ができる電話機を設置。
香川県、長崎県なども同様の対策を取っている。
北海道、群馬県、東京都では、カスハラ防止に特化した条例が施行された。
条例は、カスハラを「著しい迷惑行為であって、就業環境を害するもの」などと定義して禁じる。
一方、正当な要望や意見は業務改善に資するとして、顧客の権利を不当に侵害しないことなどを求める。いずれも罰則はない。
これに対し、三重県桑名市が施行した条例は強い対応を取ることが特徴だ。
市長の警告に対して改善が不十分な場合、行為者の氏名を公表可能とした。
事実上の制裁措置となる。
職員はどうカスハラに向き合っていけば良いのか―。
東京都での勤務経験がある、「職場のハラスメント研究所」の金子雅臣代表理事は「カスハラに発展させないため、職員の対応力向上も求められる」と指摘する。
過剰に反論しないための職員側のアンガーマネジメントや、要望を把握した上で住民に丁寧に説明をする能力の重要性を説く。
その上で「職員1人で解決が難しい場合、組織的に対応していくべきだ」と強調する。
必要なのは上司の関与だという。
「上司が解決に向けて多くの選択肢を持ち、うまく介入していく必要がある。主張が明らかにおかしい場合、対応を打ち切ることも手段の一つだ」
参照元:Yahoo!ニュース