資さんうどんが「東京でも通用した」のは、味の美味しさだけではない 全国進出に「失敗するうどんチェーン」「成功するチェーン」の決定的差

香川県のご当地料理「讃岐うどん」をベースにした「丸亀製麺」「はなまるうどん」が全国制覇を果たし、北九州市のソウルフード「資さんうどん」は、すかいらーくHD傘下で関東進出を順調に進めている。
他の「ご当地うどん」も、味覚に左右されず、全国各地に出店できるのではないか?
讃岐系・福岡系に続いて、チェーン店展開で全国区になれるご当地うどんを探し、各地を飛び回りながら検証してみよう。
地方に根差す「ご当地料理」を提供する店が、東京進出とともに全国区のチェーン店に成長する。
そこまで珍しい話ではない。
最近では関東1号店(千葉県・八千代店。130席)で「1日売り上げ200万円、来店客2000人」という、北九州市発祥「資さんうどん」の成功が記憶に新しい。
うどん業界でいえば、「はなまるうどん」「丸亀製麺」は香川県のご当地料理「讃岐うどん」を源流に持ち、どちらも東京出店を足掛かりに、全国チェーン店に成長を遂げた。
そして現在、東京・原宿に関東1号店を出店した「因幡うどん」、“ホリエモン”こと堀江貴文氏との出会いがきっかけで経営体制を一新した「うちだ屋」が、福岡発祥「博多うどん」の全国展開を視野に入れている。
うどん以外なら、「資さん」とおなじ福岡県発祥の豚骨ラーメンは「一風堂」「一蘭」など複数の全国チェーンが存在する。
讃岐うどんの強すぎるコシ、豚骨ラーメンの匂いといった問題点も、蓋を開けてみれば各地で抵抗なく受け入れられており、多種多彩なご当地うどんも、意外とすんなり受け入れられるかもしれない。
讃岐うどん店の2社(丸亀製麺・はなまるうどん)が全国チェーン店化に成功した理由は「セルフうどん業態の普及」「長時間・夜営業への対応」にあった。
もともと香川県内に多かったセルフ形態のうどん店は、来客が自らうどん・天ぷらを取ってくれるため、薄利多売なスタイルの飲食店としては効率が良かった。
しかし香川県では、製麺所併設型・自宅併設型の店舗が、家族経営でうどんを格安提供しており、夜にうどん需要が激減するため、昼過ぎには店を閉めてしまう。
営業時間が短い上に夜営業がないと売り上げも獲れず、競争してまでうどん業界で定着を目指す勢力など、生まれようもなかった。
その中で「はなまるうどん」は、家族で行けるテーブル席中心のきれいな店で「かけうどん1杯100円(当時)」を提供、その分天ぷら・稲荷寿司などをプラスで頼んでもらい、単価向上で利益を稼ぐスタイルを編み出した。
一方で、兵庫県で創業した丸亀製麺は1日を通じてゆでたて・切りたてのうどんを提供し、高単価・高利益な新商品の投入で経営を安定させた。
美味しさはもちろんのこと、丸亀・はなまるはセルフうどん業態で集客・利益を両立できたからこそ、そのビジネスモデルを掲げて全国チェーンへと飛躍できたのだ。
一方で「資さん」は、丼物などのメニューが充実した「うどんメインのファミレス」のような業態を編み出し、一人客からファミリー層まで「とりあえず行けば、何か美味しいモノが食べられる」豊富なメニューで顧客を獲得してきた。
なお、「うちだ屋」も、「資さん」と共通点が多い「うどんファミレス」業態だ。
すかいらーくホールディングスも「資さん」が編み出した「うどんファミレス」の存在そのものが「稼げるビジネスモデル」であったからこそ、240億円という大金をはたいてグループに迎え入れたのだ。
こうして見ると、讃岐系・福岡系は味だけでなく、ビジネスモデルが高く買われている。
両地域とも日常食としてうどんが定着していただけでなく、「サッと安く食べたい」(香川県)、「仲間うちで集まれる店が欲しい」(福岡県)という常連の要望に応え続けたからこそ、全国に通じるビジネスモデルに変化したといえる。
「武蔵野うどん」は関東圏での高い知名度に反して、他地域ではあまりなじみがない。
関東平野の中でも武蔵野台地は水源が少なく、水田より小麦栽培向きであったことから、郷土料理として広まったと言われる。
讃岐うどんのようなツルツルとしたのど越しや、博多うどんのようなモチッとした柔らかさはないが、武蔵野うどんの麺は野太く、ゴツゴツした食感で、食べ応えは抜群だ。
提供エリアはかなり広く、川越市・所沢市などの埼玉県西部から、東京都内の多摩地区まで「武蔵野うどん」を看板に掲げる個人店が点在する。
肉汁・醤油ベースのつけ汁は共通するものの、添えるものも「天ぷら」「ごぼうきんぴら」「かて(茹で野菜)」など、各地でバラバラだ。
千差万別すぎて組織的・特徴的な店舗展開には結び付きづらい、と思いきや、近年は埼玉県発の「武蔵野うどん 竹國」が、チェーン店として頭角を現してきた。
「武蔵野うどん 竹國」は1954年に狭山市で開業した「山崎うどん」を原点としており、2005年から多店舗展開を開始。
2025年5月現在、本部直営・フランチャイズ店を合わせて20店以上を展開、東京都(東久留米市、青梅市など)、愛知県(小牧市・豊田市など)にも進出しているという。
さっそく入店してみよう。
看板商品である「肉汁うどん」のほかに「鳥汁」「カレー汁」など温かいつけ汁が6種類、冷たいメニューが3種類。
ほか天ぷら6種類と、かなりシンプルなメニュー構成だ。
麺は並盛(350g)、中盛(500g)、大盛(700g)から選べる。10分ほどで提供された「肉汁うどん」の麺は仰々しい丼に盛り付けられ、「あぁ、ボリューム感を出すための上げ底か!」と思いながら食べ進めると……上げ底でなく、下までぎっしりとうどんが入っている。
噛むと押し返されるような剛麺と、「底から湧いているの?」と言いたくなるほど肉だらけの肉汁を楽しみながら、ボリューム満点にも程がある肉汁うどんを完食した。
この武蔵野うどん、満足度がかなり高い。
ただ、うどん一食の満腹感・満足度が高すぎて、天ぷら・一品料理以外のセット注文にはつながりづらい。
讃岐うどんをしのぐ剛麺は女性・子供・ファミリー層に訴求しづらく、ガッツリ食べたい方はラーメン・牛丼などとの選択で迷ってしまう。
このあたりが、「武蔵野うどん」がご当地うどんの域から出なかった原因だろう。
その中でも「武蔵野うどん 竹國」の麺は、剛麺ながらもしなやかさを残し、荒々しい麺の断面がしっかりとつけ汁を吸う。
柔らかめの麺が好まれる地域には向かないにせよ、どこまで「武蔵野うどん」で全国展開ができるか、注目したい。
ほか関東平野では、のど越しの良い麺を冷汁のつけ汁などで食べる「加須うどん」(埼玉県加須市)、しょうゆベースの汁で煮込んだ「煮ぼうとう」(埼玉県深谷市など)、平たくした生地を耳状に練り、汁に入れる「耳うどん」(栃木県佐野市)などのご当地うどん・麺料理が存在する。
いずれも量産化やチェーン展開は難しそうだが、名店を巡って味や歴史的な背景を噛みしめるのもいいだろう。
全国で「5大ご当地うどん」といえば、「讃岐うどん」(香川県)のほかに「稲庭うどん」(秋田県)、「五島うどん」(長崎県)、「水沢うどん」(群馬県)、「氷見うどん」(富山県)を指すことが多い。
うち稲庭・氷見などは幕府や藩への献上品だったこともあり、製法すら秘されていた高級品だ。
特に「稲庭うどん」は、稲庭家(佐藤家)が製造を始めた1665(寛文5)年から、300年以上も一子相伝(子供一人のみに製法を伝授)で受け継がれており、熟成と微調整を繰り返しながら3〜4日かけて麺を練り上げるという工程は、チェーン店のような「店内製麺、多量提供」向きではない。
上記の「5大うどん」のうち、稲庭・氷見は江戸時代に幕府への献上品として用いられており、製法は長らく門外不出。
いまも高級品として扱われ、チェーンストアでの「安く、多量に」提供するようなものではない。
現状で、稲庭うどんは東京なら銀座・日比谷、海外なら香港・ソウルにある「佐藤養助商店」直営店で味わえる。
いずれも相応に値段は張るものの、滑らかな細麺と丁寧に取られた上品なダシの組み合わせが絶品!かつ「これは庶民の食べ物ではない」「チェーン店で毎日食べるものではない」という高級品としての佇まいを、ひしひしと感じる一品だ。
書ききれないものの、全国には絶品のご当地うどんがまだまだ存在する。
讃岐うどん、福岡県のうどんがすんなり受け入れられていることから、「ご当地うどん」の定着に、麺の硬さ・柔らかさは関係ない……と思いきや、さらに柔らかい伊勢うどん(三重県)、伊勢うどんよりさらに柔らかい「鳴ちゅるうどん」(徳島県)まで来ると、さすがに好みが分かれる。
特に「鳴ちゅるうどん」の麺は、箸で持ち上げるとブチブチ切れるほどの柔らかさだ。
硬い麺なら、武蔵野うどんよりさらに麺が図太い「吉田うどん」(山梨県)も食べておきたい。
一時期はカップ麺で商品化されたこともあり、今でも都内の専門店は、コアなファンがよく訪れているという。
ほかカレー汁・とろろ・ご飯を重ねた「豊橋カレーうどん」(愛知県)も都内数店で提供されており、各地のご当地グルメ系イベントでは「津山ホルモンうどん」(岡山県)がいつも大人気!
現地に足を運ばずとも、ご当地うどんを現地以外で食べるチャンスは、意外と多い。
全国で当たり前のように食べられるようになった讃岐うどん、福岡のうどんも「たまたま全国へのチェーン店展開に向いていた」だけで、他地域のご当地うどんに優劣があるわけではない。
まだまだ各地に存在する、地域の風土に根差した一杯を探して、全国をふらふらと巡るのもいいだろう。
何気なく食べたあの一杯が、5年後・10年後には日本を代表する麺料理に成長しているかもしれない。
参照元∶Yahoo!ニュース