「大沢たかお祭り」の大ブームの背景にある、日本のSNSで始まっている小さな変化

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このゴールデンウィークの間に、「#大沢たかお祭り」という投稿がSNS上で大きなブームになっていたのをご存じだろうか?

これは、俳優の大沢たかおさんが映画『キングダム』で演じた王騎将軍の画像を主に使い、日常のあるあるを投稿するムーブメントだ。

一般的にはこうしたネットミーム的な投稿は、特定の映画のシーンや漫画のコマなどを中心に伝播するケースが多いが、今回は「#大沢たかお祭り」というタイトル通り、大沢たかおさんの様々な写真を使った展開になっているのが珍しい現象とも言えるだろう。

ついには大沢たかおさん本人もその話題に注目されたようで、Instagramのストーリーズにパソコンを見ながらほほえむ姿の写真に「祭」という赤い文字をつけて投稿したため、それをみてまたSNS上でも大きな反響があったようだ。

今回の「#大沢たかお祭り」には、最近の日本のSNS上で始まっている小さな変化が反映されているのでご紹介したいと思う。

まず今回の「#大沢たかお祭り」の最も特徴的な現象と言えるのは、このムーブメントがXではなくThreadsを中心に始まった点だ。

今回の祭りの火元の一人とされる「KIKO」さんに藤原千秋さんがインタビューされている。

参考:「見えない家事」への共感も呼んだ Threads(スレッズ)#大沢たかお祭り を探った

詳細は上記のインタビュー記事を読んでいただければと思うが、興味深いのは「年明けから王騎将軍の画像ネタ自体はぽつぽつ上げていた」と、この投稿のムーブメント自体はThreads内では1月頃から始まっていたという点だ。

それが「3月後半から表示回数が1投稿あたり数万回に伸びて、4月上旬からは1投稿あたり十数万回表示されるようになりました」とのことですので、3月からThreads内では大きな話題になる投稿が増えていたことが分かる。

それがX側に伝播したのは、ゴールデンウィークに入ってからだった。

Yahoo!リアルタイム検索のデータを見ると、X上の「#大沢たかお祭り」への言及がされるようになったのは4月29日頃からで、この頃はまだThreadsでの「#大沢たかお祭り」の盛り上がりに驚いている投稿がほとんどだ。

その後、徐々にX上でも実際の投稿がされるようになり、5月7日になって関連キーワードがXのトレンド入りし、一気に知名度を上げて大きな祭りになる結果になったのだ。

5月7日の時点で、キンタロー。さんも「#大沢たかお祭り」のハッシュタグをつけてXに投稿をされているため、この話題が芸能界にも届いたことが良く分かる。

その結果、冒頭でご紹介したように、大沢たかおさん御本人もInstagramでリアクション写真をアップする流れになったということだろう。

Threadsは、FacebookやInstagramを運営するメタ社が、Twitterの対抗サービスとして2023年7月にリリースしたサービスだ。

リリースしていきなり5日で1億人のユーザーを集め、大きな話題になったが、日本ではその後あまり大きな話題になっていないため、オワコン扱いしている日本のメディアも一部にいるようだ。

ただ、実は2025年4月の段階でThreadsの世界の月間アクティブユーザー数は3.5億人を突破したと発表されている。

Xの月間アクティブユーザー数は6億とも言われているため、2年足らずでXの半分を超えるユーザーを集めてしまっていることになるわけだ。

実は日本でもThreadsのアクティブユーザー数は1000万人を超えているのではないかという調査結果もあるほど。

もちろん日本はTwitterの人気が世界でも高い国だったので、Xのアクティブユーザー数が現在でも6700万を超えており、そのユーザー数は世界シェア以上に大きな差がある。

ただ、それでも着実に日本でもThreadsの存在感が増しているという、小さな変化がおきていることが、今回の「#大沢たかお祭り」で証明されたことになる。

今回の「#大沢たかお祭り」で注目したいのが、今回のようなほのぼのとした話題がSNS発で、ここまで大きなムーブメントになることが久しぶりの印象がある点だ。

Twitterをイーロン・マスク氏が買収し、マスク氏がXに名称を変えるのと並行して、明確にXの方向性を「対戦型SNS」に変更したことにより、明らかに日本でも「Xの治安が悪くなった」と発言する人が増えた。

特にXでは投稿の表示数で収益が発生するようになったため、収益目的のインプレゾンビと呼ばれるようなBotアカウントや、投資に誘導する詐欺アカウントが大量に発生するようになってしまった。

また現在のXにおいては、対立する意見がぶつかり合うような投稿が自然とコメント数が多くなり評価される傾向になるため、「レイジベイティング」と呼ばれるような、わざと対立する側を刺激するような過激な投稿や虚偽の投稿を行うケースも増えている。

その結果、X上では昔のTwitterほど、ほのぼのとした投稿が話題にならなくなったり、そうした投稿をする人が投稿を避けるようになっていると言われている。

一方で、現時点ではThreadsはまだ収益化に関しては一部ユーザーで実験されている段階のため、まだそうした収益化目的のアカウントによる「レイジベイティング」の問題は大きくなっていない。

前述の今回の祭りの火元の一人とされる「KIKO」さんも、二児を育てるシングルマザーで、個人事業主の方ですが、収益化が目的ではなく、「色々な行事を経て思ったことを、ミームの形で日記のように連投する」ことで、日々疲れることがあっても、「自分にあの優しくて強くて怖い王騎将軍をインストールする感覚でいると、無敵に思えてくる」ことが目的だったと明言されている。

また「KIKO」さんの言葉を借りると、現在のThreadsは、「楽しい投稿をすればタイムラインに楽しい投稿が載りやすい。愚痴を吐くと、愚痴が載りやすい」傾向にあるとのこと。

そうしたThreadsならではのアルゴリズムが、今回の「#大沢たかお祭り」が、XではなくThreadsから育っていった背景にあるように感じる。

もちろん、トランプ大統領の就任に伴い、メタ社もファクトチェックを廃止するなど、X同様に「言論の自由」を重視した運営方針に転換することを明確にしているし、今後収益プログラムがThreadsにも本格的に導入されれば、現在の雰囲気はまた大きく変わってしまう可能性はある。

また、炎上分析に詳しいデジタル・クライシス研究所の桑江氏によると、最近はThreads発でも炎上案件が発生するようになってきているようなので、現在のThreadsの治安が良いのは単純にまだユーザー数が少ないからと言う可能性もある。

ただ、実はThreadsの開発責任者であるモセリ氏はThreadsのリリースをされた際に、「『怒りの感情』が少ない会話に興味がある人のために公共の場を作るのがThreadsリリースの目的」、という趣旨の発言を、何度もされている。

そう考えると、今回の「#大沢たかお祭り」は、まさに「レイジベイティング」に代表されるような「怒りの感情」の会話とは真逆の、ほのぼのとした見えない家事への共感を呼ぶ投稿であり、それがThreadsから拡がったことは、決して偶然ではないように感じる。

もちろん、だからと言って現在の日本におけるXの優位が簡単に揺らぐとは思わないが、少なくともSNSのプラットフォームにおいても複数の選択肢があることに意味があることは今回の出来事で明確になったように思う。

なお、「#大沢たかお祭り」の話題が大きく拡がるに伴い、映画のスクショ画像のSNS投稿における著作権や肖像権のリスクについての議論も拡がりはじめているようだ。

これも、今回のお祭りがXで大きな話題になったからこそ発生した議論で、ある意味、1月から4月までThreads上ではそうした批判が激しくならなかったことも、今回の「#大沢たかお祭り」がここまで大きな話題になった背景にあるとも言える。

そういう意味では、「#大沢たかお祭り」は、久しぶりのネット発のほのぼのとした話題でもあるし、是非著作権者の方々には、この機会にこうしたポジティブな話題への画像利用について、大沢たかおさん同様に、ほほえましく見守るぐらいの境界線を決めていただけると、実は作品にもプラスになるケースが増えるのではないかと感じる。

最近は、SNS起点では何かと炎上や、騒動が話題になりがちな時代になったが、あらためてこうした個人のSNSの投稿が起点となり、大勢の人を少し楽しい気持ちにさせてくれる可能性もあることを、「#大沢たかお祭り」は教えてくれたように思う。

まずは「#大沢たかお祭り」が今後どのような定着をするのかも注目しつつ、同様なポジティブな話題がまたSNS起点で生まれることを楽しみにしたいと思う。

参照元:Yahoo!ニュース