食卓から野菜が消える、荷物が届かない 人口減少した日本どうなる?

5月5日の「こどもの日」にちなみ、総務省は2025年4月1日現在の子ども(15歳未満)の人口の推計を発表。
44年連続で減少し、1366万人となった。
少子高齢化に拍車がかかるが、このまま人口が減少したら、社会や暮らしはどのようになってしまうのだろうか。
2050年の状況を見ると、市区町村の中で最も人口が多い横浜市の人口が約354万人(2020年比約24万人減)。
東京とともに三大都市と称された大阪市で約243万人(同約32万人減)、名古屋市で約212万人(同約21万人減)。
1651の市区町村で人口が減少すると予測されている。
人口減少問題を長年研究し、発信を続けてきた人口減少対策総合研究所理事長の河合雅司氏は「この推計はかなり楽観的。近年の出生数は急減しており、もっと人口が減る可能性がある」と警鐘を鳴らす。
また、人口動態や社会保障の研究をしている関東学院大学の島澤諭氏は「人口減少が進めば、インフラが維持できなくなって住民が移り住んだり、最後の住人がお亡くなりになったりする形で地域住民がゼロとなり、消えていく自治体が今後出る可能性もある」と指摘する。
人口減少が進んだら何が起こるのだろうか。
サービスを利用する人がいなくなり、利益が見込めずに店舗や施設が縮小、撤退を迫られることもあるだろう。
国土交通省は過去に地域の人口規模に応じてサービスや施設が生存する可能性を「存在確率」として提示。
この内容について金沢大学の研究グループが人口規模の過大・過小評価の補正を行った分析がある。
分析によるとパチンコは人口2.5万人の地域では存在確率80%でほぼ存在するが、1.5万人では50%になり撤退する可能性も出てくる。
また4000人を下回ると30%以下となり、その地域から撤退する可能性が極めて高くなるのだ。
さまざまなサービスの存在確率を見てみよう。
分析では、大学や専門学校などの高等教育機関は人口規模が小さくなった地域からは消えやすい傾向があるのに対し、飲食店や銀行は地域に残る可能性があることが示唆されている。
また、分析によると映画館は、人口が25万人を下回ると存在確率が50%以下となるという。
国立社会保障・人口問題研究所の出した「日本の地域別将来推計人口 令和5(2023)年推計」に照らし合わせると、10年後の2035年に青森、山形、福井、山梨、鳥取、島根、山口、徳島、佐賀の9県から人口25万人以上の市町村がなくなると予測されており、近い将来、映画館の空白県が生まれる可能性もあるのだ。
人口減少はマーケットの縮小以外にも人手不足という形で暮らしに大きな負の影響をもたらす。
人手不足が深刻に影響するのが物流や公共交通機関だ。
ドライバーがいなくなることで物を運ぶことができなくなる。
ネット通販で注文した商品が届かないだけでなく、仕入れができなくなり、企業の生産が滞ったり、商品が店頭に並ばなかったりする。
また、公共交通機関では人手不足だけでなく、利用者の減少によりバスや鉄道の路線の廃止が進んでいる。
2024年版の交通政策白書によると、2022年度は87.1%の乗り合いバス事業者が赤字だった。
河合氏は「人口密度の低い地方ではインフラ維持のコストがものすごく高くなっていく。
過疎地では家計支出が増え、暮らすこと自体がぜいたくになってしまう」として「この先、地域ごとの人口集積を進めざるを得なくなっていく」としている。
日本の農業にも影を落としている。
農林水産省の農業労働力に関する統計によると、2024年の主に農業で収入を得ている「基幹的農業従事者」の平均年齢は69.2歳。
「体力的にあと10年したら大半が引退してしまうだろう」(河合氏)。
農水省は2020年から10年後の30年には、全国の耕作面積が92万ヘクタール減ると推計。
これは24年の東北地方の耕作面積よりも広く、河合氏は「ありとあらゆる農作物が高くなって簡単に買えない、売ってないという時代がくる」と指摘した。
河合氏が「今後大きな課題になってくる」と見ているのが学校のない地域の拡大だ。
文部科学省によると少子化の影響で、全国で毎年約450校が廃校になっているという。
公共交通機関の縮小・撤退が進む中で、自転車通学にも限度があるとして、河合氏は「子どもの頃から下宿でもしないと教育環境が維持できなくなってきている」。
結果として、通学可能なエリアへ家族丸ごと引っ越しを余儀なくされるため、「人口の偏在がどんどん進んでいく」(河合氏)。
人口減少は社会保障にも多大な影響を与えている。
1950年代、人口ピラミッドが富士山型になっていたころは十数人で1人の高齢者を支えていたが、2025年では2人で1人を支える構図に。
その背景に現役世代が拠出した保険料は積み立てではなく、高齢世代への給付に使われるからだ。
働き手が減る一方で、高齢者は増えていくため、社会保険料の負担が増え続けている。
実際に社会保険料の料率も昔と今とでは大違いだ。
1950年代の厚生年金の保険料率は3%だったのに対し、現在は18.3%で賞与も対象になっている。
また、島澤氏は十分な給付を受け取れない人たちが増えていることを問題視している。
2023年度の生活保護受給者に占める高齢者の割合は53%と半数を超えた。
しかも、生活保護を受給する高齢者で年金を受け取っていたのは72%、このうち年金の給付額が月額4万円未満の者が約5割を占めているのが現実だ。
こうした現状について島澤氏は「ねずみ講のような社会保障制度が全く機能していない」と危惧(きぐ)する。
若者が重い負担に苦しんでいるにも関わらず、低年金者や年金をもらえない人が出ていることも踏まえ、「払った分に基づいて将来給付される社会保険ではなく、税として徴収し、最低限の暮らしを保障しますとしたほうがいいのではないか」と解決策を提示した。
このほかにも人口減少で引き起こされる問題は山積みだ。
都市部を中心に買い物難民の増加やインフラ維持のコスト増加、地方の医師不足、都市部での急速な高齢化とそれに伴う病床不足なども今後の日本の課題となっていく。
人口減少で日本の社会が崩れていく中でどうすればよいのだろうか。
「これまでのあり方では持たない。もうちょっと小さな町で、もう少しスローでもきちんとやっていける」
30万人以上が集う人口集積地を日本各地につくり、そこがいろいろなサービスを提供する「商圏」となって経済や暮らしを維持していくという構想を河合氏は提言する。
商圏の中で雇用を生み、海外との取引を通じて豊かさを得て、コミュニティーを持続させていくという考え方だ。
河合氏は「地域ごとに人口を寄せ集めて、その商圏の中できちんと成り立つ新しい価値観の社会をつくっていく必要がある」と説明する。
もちろん、そこでも高齢化は進行する。
若い人と比べて認知機能が衰えた人は相当数に上ることが想定される。
こういった社会では行政からの手続きの依頼に対応できない、電車の乗り降りに時間がかかる、商品を今まで以上に丁寧に説明しないといけないといったイレギュラーな対応も増えてくる。
「ある程度のスローなテンポを是認するような生き方、暮らし方の実現が必要になってくる」と河合氏。
河合氏は「少なくとも25年ほど先まで人口はほぼ決定している。縮むことを前提にしてどうやって企業の勝ち筋を見いだしていくのか、どう社会を機能させていくべきかを考えていかないといけない」と訴えている。
参照元:Yahoo!ニュース