香港不動産、貿易戦争で市場悪化 先細る資金に救世主

香港の国旗を撮影した画像

香港では、トランプ米大統領が仕掛けた貿易戦争で不動産市場が不安定化し、評価額が下がって銀行が融資を絞る中、一部のプライベート・クレジット・ファンドが大型商業用不動産やデベロッパーへの投資に乗り出そうとしている。

プライベート・クレジット・ファンドはノンバンクとして企業やプロジェクトに直接融資する仕組みで、世界で2兆ドル規模の産業に発展。

大きな利益を狙う投資家や、高利回りを求める個人富裕層から投資資金を募っている。

香港などアジア太平洋地域で新たなファンドの組成を計画しているのは、香港を拠点とするガウ・キャピタル・パートナーズやブルー・マウンテン・ブリッジ・キャピタルなどの投資会社だ。

香港は特に、不動産の需要と価格が下降軌道に入ってデベロッパーが債務返済を巡る懸念を募らせているため、プライベート・クレジット・ファンドからの融資が得られれば短期的とは言え大きな命綱になりそうだ。

香港は、中国本土の厳しい不動産危機の影響は免れているものの、経済全体と不動産セクターへの逆風は強まり、一部のデベロッパーの体力が不安視されるようになった。

プライベート・クレジット・ファンドに出資する投資家は、ファンドの投資先がデフォルト(債務不履行)を起こした場合でも、市場環境次第で担保を融資価格より高値で売り抜けることに成功すれば利益を得られる可能性がある。

ブルー・マウンテン・ブリッジのレイモンド・チャン最高投資責任者によると、同社は2億5000万ドル規模の最初のファンド向けに資金調達を進めており、年末までに1億5000万ドルを確保したい意向。

「香港でプライベートクレジット投資家をやるのには今が最高の時機だ」という。

チャン氏のファンドは1月、このほど改装を終えた香港のオフィス物件を担保に期間1年のシニアローン3340万ドルを実施した。

表面利率は年15%、LTV(総資産に対する有利子負債の比率)は63%だ。

チャン氏によると、ブルー・マウンテンは昨年12月、デベロッパーの借り換えを目的とした期間1年のシニアローン6410万ドルが償還期限を迎え、内部収益率(IRR)15%を達成した。

S&Pグローバルの昨年のリポートによると、2018―23年のプライベートクレジットおよび直接融資ファンドの平均IRRは11.9%で、これを超える利益となる。

情報筋によると、総運用資産344億ドルのガウ・キャピタルは、新たなファンドを立ち上げて20億ドルの資金調達を目指している。

ガウはコメントを控えた。

香港の不動産投資大手、新鴻基(サンフンカイ)は昨年11月、デベロッパーが抱える1億ドルの住宅ローン・ポートフォリオに共同投資する新規事業を立ち上げた。

また、近く別のポートフォリオもクローズする見通しだ。

マネジングディレクターのギギ・ウォン氏は「いわゆるディストレスト(経営破綻の危機に直面した)デベロッパーと、質が高く負債比率の低いデベロッパーの双方がキャッシュフローを求め、あるいはバランスシートの最適活用を求めてわれわれに接触してくる」と説明。

「貸出債権や問題を抱えた債権を売りたいと言ってくる香港の銀行もある」と語った。

現在香港では大手デベロッパー、新世界発展から中小デベロッパーに至るまで流動性に問題を抱えており、セクター全体でドミノ倒しが起こるのではないかとの懸念が生じている。

ムーディーズは2月に公表したリポートで、不動産販売と賃貸が急減し、空室率と金利は高く、不動産所有者の債務返済能力が低下していると指摘。

このため銀行は不動産セクターへの新規融資と借り換え用融資の両方を絞っていると分析した。

香港金融管理局(HKMA、中央銀行に相当)のデータによると、不動産開発・投資向け融資総額は2022年から減少を続けており、24年末現在は前年比12.6%減だった。

プライベートクレジット企業、アレス・クレジットのパートナー、エドウィン・ウォン氏は「現在の市場において融資が返済期限を迎えると、借り換えるのは極めて難しい」と指摘。

そこで同社は「『この水準ならご用意できそうですが』と持ちかけ、彼らに現在の環境を乗り切る余裕を差し出す」と説明した。

不動産サービスのシービーアールイー(CBRE)のデータによると、香港で特に打撃を受けているのは商業用不動産で、空室率は20%近くと過去最悪だ。

価格はピーク時の2019年から40%下がった。

一部のディストレスト物件は昨年、ピークより60%低い価格で取引された。

CBREの推計によると、香港ではオフィスから産業、住宅セクターに至るまで、不動産価格の下落に伴う資金不足が2025年から27年に7億2000万ドルに達する見通しだ。

法律事務所JSMのパートナー、ジャスミン・チュー氏は、プライベートクレジット市場には資産運用会社や投資会社だけでなく、ファミリーオフィスや個人富裕層も参入していると話す。不動産市場に直接投資するよりも高い利回りが誘因だ。

プライベートクレジットの金利は2023年には10%台半ばから後半だったが、競争激化に伴って今では1桁台後半から10%台前半に下がっている。

しかし市場参加者によると、一部企業はバリュエーションの期待値とリスクのギャップが大きいことを警戒し、投資に及び腰だ。

ラッフルズ・ファミリー・オフィスの投資助言責任者、スカイ・クワー氏は、投資家はディールの組成に際してもっと慎重になり、LTVを低く抑え、コベナンツ(債務制限条項)を厳しくし、エクイティ部分をより多く確保すべきだと提言。

そうしなければ不動産市場がさらに大きな調整に見舞われた場合、プライベートクレジット会社は打撃を被ると警告した。

参照元:REUTERS(ロイター)