偶然始めた元引きこもりの人の採用 奈良の会社に与えた「良い効果」

引きこもりをイメージした画像

会話が苦手。

10年近く家から出ていない――。

そんな元引きこもりの人を多く雇っている会社が奈良県田原本町にある。

県内の飲食店や病院を中心に食品の卸販売をしている「原田フーズ」。

きっかけは半ば偶然だったが、会社にも良い効果があり、新規採用を続けている。

原田晋一社長は「人に接するのが苦手なだけで、働きは遜色ない」と太鼓判を押す。

卸販売業は業界の傾向として長時間労働になりがちだ。

10年前は社員の多くが早朝に出社して荷物をトラックに積み、日中は配送をしながら合間を縫って営業へ。

夕方も次の日の段取りのため遅くまで残業。

いわゆる「ブラック企業」といわれる状態だった。

原田社長は、そんな社員の働き方を問題視していた。

2007年に同県橿原市から田原本町に会社を移転したのと同時期、働き方改革を進めようと、商品管理のシステムを独自開発。

業者から届いた商品の受け取りや取り出し(ピッキング)などを新システムを使いながら一括して担う新部署を作ろうと試みた。

初めの頃はアルバイトを雇ってみたが、早々に辞めてしまったり、古株の社員から「荷物の積み方が違う」「自分でやった方が早い」との声も聞かれたりと、システムを使った新たな働き方は定着せず、長時間労働も改善しなかった。

そんな悩みを抱えたまま数年がたった頃、以前から交流があったニート(若年無業者)などの支援をするNPO法人「キャリアサポートセンター奈良」(橿原市)から「引きこもりの子たち数人を引き受けてくれないか」と声がかかった。

多少の不安はあったが、「システムの課題の洗い出しができるかもしれない」と考えた。

社員からも「2カ月くらいなら」と承諾を得て、期間限定で約10人を実習生として引き受けた。

実際に会社に来てもらうと、予想以上にまじめに働いてくれて成果も上がった。

一人で黙々と進める作業が、適性に合ったようだった。

彼らがいることで「楽を覚えてしまった」のか、社員らも業務を任せるように。

残業時間は徐々に減っていった。

これを機に数人をアルバイト従業員として採用。

その後も元引きこもりの人たちを従業員として迎え続けている。

元引きこもりの人たちに気持ちよく働き続けてもらうにはどうすれば良いのか。

雇用を続けるうちに、彼らの声によって自然と環境は改善されていった。

元引きこもりの人の中には口頭での業務連絡が苦手な人も多い。

例えば「この場所に荷物がない」と一言声をかければ解決することもできない場合がある。

ある従業員から、人に尋ねなくてもどこにどんな荷物が足りないのか、倉庫の状態がパソコンを見れば一目で分かるようにしたいという声があり、システム課に頼んで改良を加えた。

他にも「紙に書けば言いたいことを伝えられる」と相談があり、言付けや共有したい事柄を書き込むメモを導入。

初めはただの紙切れに書いていたが、誰が確認したのか分かるように名前の欄を加え、会話がなくても意思疎通ができる仕組みが生まれた。

現在は商品管理や情報システム、事務で計12人の元引きこもりの人が働いている。

40代の男性従業員は、大学入学後、生活の変化についていけず、9年近く引きこもっていた。

今では原田フーズに就職して9年目となり、後輩の指導も担う。

「新しく入った子たちに注意した後、『あんな言い方で良かったかな』と気にするようになった」とベテランならではの悩みも。

最近はパソコン業務も任されるようになり「スキルを身に付けていきたい」と前向きに語った。

他にも、混雑が苦手な電車通勤を避けられるようバイクの免許を取ったり、仕事の幅が広がるようフォークリフトの免許を取得したりした人もいる。

総務部の豊田賢治さんは「最初は目も合わせられなかった子らが、今では会社の愚痴をこぼすようにもなった」と成長をやさしく見守る。

原田社長は「当初はあくまでここで自信をつけてから、次のステップに進んでもらいたいという気持ちが強かった」という。

一方で居心地が良く、この会社で最後まで働くと言ってくれる社員も出てきた。

「最近では彼らの面倒をしっかり見てあげたいと思うようになった」と心境の変化を語った。

参照元:Yahoo!ニュース