「備蓄米、何の効果もない」 5キロ平均4000円台、いつまで 誤算は23年産米の不作

白米を撮影した画像

コメの価格上昇が止まらない。

政府が備蓄米の放出を始めたにもかかわらず、4月14~20日に全国のスーパーで販売されたコメ5キロ当たりの平均価格は4220円となり、16週連続の値上がりで最高値を更新した。

価格高騰の原因は2023年産米が想定以上の不作で、需給バランスが崩れたためとみられる。

需要が年々減る中で作付面積も減り、急な不作や需要増に柔軟に対応できないというコメ市場の課題が露呈した格好だ。

4月下旬、大阪市阿倍野区のスーパー「フレッシュマーケットアオイ昭和町店」には「1家族1点まで」の制限付きで5キロ税込み4千円台~6千円台のコメが並んでいた。

大学1年と高校3年の息子を持つ女性(59)は「コメは欠かせないけどこの価格では気軽に買えない」とため息をついた。

大阪府内で同店を含む9店舗を展開するアオイサポート(同府東大阪市)の内田寿仁社長は「(政府の)備蓄米放出で価格が下がると期待していたが、何の効果もない」と肩を落とす。

店頭に並べる量も足りず、「注文したい量の10分の1しか確保できない。新米の時期までコメ(の在庫)がもつのか」と不安をにじませる。

別の大手スーパーでは「値上げ幅が小さい冷凍米飯の販売額が前年同期比で2ケタの伸び」といい、パンや麺類の売り上げも増えているという。

総務省が発表した3月の全国消費者物価指数はコメ類が前年同月に比べて92.1%上昇した。

卸売業者は「23年産米の不作が主な原因。インバウンド(訪日客)や(南海トラフ地震臨時情報などを受けた)災害への不安による需要増が追い打ちをかけた」と説明する。

23年産米の収穫量は661万トンで前年比約9万トン減。

近年は主食用米の需要が毎年10万トン前後の減少で推移し、それに合わせてコメの作付面積も減っていることから収穫減は想定通りといえる。

では、なぜコメ価格が高騰したのか。

農林水産省は昨年夏から「消えたコメ」の存在を主張。

今年3月末、全国農業協同組合連合会(JA全農)などを通さないコメが前年より44万トン増え、流通の中間で在庫が抱え込まれる「流通の目詰まり」が起きたことが価格高騰の要因と発表した。

江藤拓農水相は「事業者がコメを確保しようと先回りし、在庫を積み上げていった結果では」と説明。

発表によると、生産者、卸売業者、小売り・外食で計19万トンの在庫が積み増されたという。

だが、専門家や業者は農水省の説明に懐疑的だ。

キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「コメの保管には温度、湿度を一定に管理できる倉庫が必要。仮に1万トンを1年間保管すると1億円かかる」として、目詰まりによるコメ不足を否定する。

前出の卸売業者も「業者は銀行から資金を借りてコメを買い付けている。どんどん売らないと資金が回らなくなるので長期保管は現実的ではない」とする。

実は農水省には誤算があった。

猛暑による高温障害の影響で23年産米の1等米比率が過去20年間で最低水準だったことだ。

収穫されたコメは玄米の状態で保管され、消費者のもとに届く前に精米される。

農水省の資料によると、玄米を白米にしたときにどれだけ重量が残るかを示す精米歩留まりは1等米が92%、2等米が89%、3等米が85%となっている。

実際にはもう少し低い値になることもあるという。

農水省によると、収穫されたコメに占める1等米比率は22年産米の78.6%に対して、23年産米で61.3%まで落ち込んだ(いずれも年末時点)。

その結果、消費者が実際に口にする白米は収穫量以上に減少した。

卸売業者は「23年産の不足分を24年産を前倒しで出荷して補わざるを得なかったため、25年もコメ不足が続いている」と話す。

政府が放出した備蓄米の流通も遅れている。

山下氏は「5キロ3400円程度にまでは下がるだろうが、以前のような2千円台前半は厳しいだろう」と指摘。

家計の厳しさは当面続きそうだ。

政府の備蓄米は3月に実施した2回の入札で計約21万トンが落札されたが、4月13日までにスーパーなどの小売業者のもとに届いたのはわずか1.4%にとどまる。

農水省の調査によると、3月に落札された21万2132トンのうち、13万7879トンがJA全農などの集荷業者に引き渡された。

このうち、小売業者には3018トン、外食業者などには1174トンしか届いていない。

JA全農によると、国から備蓄米の引き渡しを受けた後、卸売業者などを経て消費者に届くまでに2~3週間を要するという。

担当者は「国の備蓄倉庫とのやり取りや調整などに時間がかかっている」と話す。

さらに、備蓄米はJA全農などから玄米の状態で引き受けた卸売業者が精米して流通する。

トラックの手配や精米、通常のコメと分けた袋詰めなど、追加の作業が発生して想定以上に時間がかかっているとみられる。

農水省は3回目となった4月の入札から、これまで転売を防ぐために禁じていた卸売業者間での売買を認めた。

5月2日にはJA全農に備蓄米の迅速な供給を要請した。

例年、主食用米の8割弱が1等米だが、2023年は6割程度しかなかった。

そのため、24年産を「先食い」して高騰が進んだということはあっただろう。

単純に「コメの収穫量が減ったから」という原因だけではなかったことが、より混乱を与える結果になったのではないか。

農水省が指摘する「流通の目詰まり」については、卸売業者が在庫を確保しようとする可能性がないとはいえないが、考えにくい。

JA全農が卸売業者に出荷する際に価格をつり上げていると批判されるが、JAは交渉力が弱い農家を支援し、コメ作りを続けられる価格を維持する役割を担っているのも確かだ。

問題はコメ不足解消のための備蓄米が当初、JA全農に独占的に流れたことだろう。小売りに行き渡らず品薄感が続いて価格は高値で推移し、農家への還元も不透明なところが、(小売業者や消費者の)不信感につながっているのではないか。

コメは国の食を支える役割がある。

備蓄米が消費者まで届くように流通を円滑化し、多様な購買ルートを確保することで買いやすい価格にする必要がある。

参照元:Yahoo!ニュース