子どもの部活動「フルサポート」に保護者が悲鳴「野球部には入らないで」 「送迎」「引率」「お茶係」の重圧

部活動をイメージした写真

子どもにとって大切な青春の一コマである中学・高校の部活動。

その多くは保護者の「協力」を前提に成り立っている。

練習試合で送迎するのは当たり前、お茶係やさしいれも…。

サポートする保護者の負荷は大きい。

娘のバレーボールの練習試合がある日は、親も1日仕事だ。

土曜日の朝6時、東京都に暮らすマユミさん(仮名、40代)は中学生の娘に付き添って家を出た。

電車や地下鉄を乗り継いで対戦相手の中学校に向かう。

「鉄道の路線も複雑で、中学生だと1人では行けませんから」(マユミさん)

仕事の都合で送迎できない親の子どもを一緒に連れて行くこともある。

集合時間の7時になると、子どもたちを連れた保護者が続々と体育館に到着した。

試合の間、マユミさんは部活のママ友たちとともに、わが子やチームのプレーに声援を送る。

熱心にビデオを撮影する保護者もいる。

外の日差しが強くなり、体育館の中も暑苦しくなってきた。

子どもたちは水筒を持っているが、まだ自分の体調を管理できる年齢ではないから、熱中症への対策は親の役割だ。

マユミさんは近くのコンビニエンスストアに行き、ゼリー飲料やスポーツドリンクを購入し、子どもたちに差し入れた。

購入費用は保護者全員で負担するのがルールだ。

マユミさんが「ドリンクを買って支給しました」とLINEで伝えると、お礼の連絡があり、PayPayなどのキャッシュレス決済で代金が振り込まれた。

練習試合が終わるのは夕方になることもある。

子どもたちが疲れている様子なら、その場で少し休んでから帰るなどの「心配り」も重要だ。

いま、子どもたちの部活動に保護者の協力は欠かせない。

今年3月、AERA dot.とAERA編集部が保護者向けに行った部活動に関するアンケートには、114件の回答が寄せられた。

回答者の6割が「部活動の手伝いをしたことがある」という。

「進んで引き受けたか」という問いに対して、「はい」は64%、「いいえ」は9%、「どちらでもない」は、27%だった。

保護者が熱心にサポートするあまり、踏み込み過ぎることもある。

バスケットボールの部活に打ち込む娘を精いっぱい支えてきたミサキさん(仮名、60代、千葉県)は、当時をこう振り返る。

「娘は小学校からミニバスケットボール部に所属し、私も父兄の会に参加してきました。中学はバスケットボール部の強い学校に越境入学したんです」

小学校の部活動は特に保護者が果たす役割が大きい。

練習場所の体育館の予約、練習試合の会場準備・片づけ、児童を送迎する車(車出し)やお茶を用意する係の分担、会計管理など、仕事は山とあった。

娘が6年生の時にはミサキさんは会長を務め、仕事を取り仕切った。

学区内の中学校は「顧問があまり熱心ではない」と耳にすると、娘をバスケットボール部が強い中学校に越境入学させた。

小学校のミニバス部の仲間9人も一緒だった。

以前に増して、練習や試合に足を運ぶうちに、「娘をうまく起用していない」と、バスケ部の顧問に不満を抱くようになった。

ミサキさんの娘は、小学生のときから「ガード」のポジションで頑張ってきた。

ガードは、「コートの司令塔」ともいえる大切な役割で、ドリブルでボールをキープして、シュートを決める選手にパスを出す。

だが、中学の部活では、ミサキさんの娘は別のポジションを担当するようになり、活躍の場面も減った。

「小学校のときとほぼ同じメンバーでプレーしたにもかかわらず、顧問は『ボールの運び方がうまいとは思えない子』をガードに使っているように見えました」(ミサキさん)

試合に行くたび、「えーっ、それって違うんじゃない」と思った。

ミサキさんは、ある試合の後、「うちの娘をガードで使うべき」と顧問に伝えることを決意する。

「当時、私の夫も中学校でバスケ部の顧問をしていたので、夫を通してもやんわりと言ってもらいました」(同)

このときのことをミサキさんは「大人げなかった」と振り返る。

「のめり込みすぎたのかもしれません。本来は顧問に任せるべきなのに、自分の立場を勘違いしていた。今となっては恥ずかしい思い出です」(同)

『ブラック部活動』(東洋館出版社)の著書がある名古屋大学大学院の内田良教授は、こう語る。

「保護者がのめり込む気持ちはわかる。ですが、部活はあくまで子どものもの。親が一線を引くことも必要です」

負担に疲弊しきった保護者もいる。

東海地方に暮らす主婦、ケイコさん(仮名)にとって、部活動の手伝いは、「休日は朝から晩まで1日中つぶれてしまう。ほかのお母さんたちにも溶け込めない。苦行でした」。

ケイコさんの息子は小学5年生から地元の「スポーツ少年団」で野球に打ち込んできた。

スポーツ少年団で保護者に割り振られるさまざまな「係」の仕事は「強制ではないが、やらなければならない雰囲気があった」(ケイコさん)。

送迎の車を出す「配車係」、試合中に得点パネルを回転させて得点を表示する「得点係」、スコアブックを記入する「スコア係」。

毎週末試合があり、係の仕事がまわってきた。

夫は忙しく、部活の係はすべてケイコさんがこなした。

配車係なら、朝6時半ごろ、子どもたちを乗せて試合が行われるグラウンドに向かう。

午後も試合があれば、帰りは5時ごろになる。

人間関係も難しかった。

母親たちは古参のレギュラー選手の親を中心にグループができていた。

高学年で入団したケイコさんの息子は控え選手で、ベンチにいることが多かった。

他の親の輪に溶け込めなかった。

ケイコさんの息子は今春、中学校に入学した。

野球部は全国大会に出場する強豪だ。

これまでの「係」のほか、スポーツドリンクを用意する「お茶係」も加わる。

コーチを買って出る父親もいるという。

「そんな野球部に入れば、自分がさらにつらい目にあうのは容易に想像がつきます」(ケイコさん)

息子は野球をやりたがっているが、ケイコさんは、「野球部に入るのはやめてね」と、言い聞かせている。

参照元:Yahoo!ニュース